グルシャン
二人でいつものように配信してたんだけど、今日の話題は「朝倉くん、なんでそんなにオタクに詳しいの?」ってコメントから始まった。
「高校のクラスメイトにオタク多くて、仲良くなったギャルたちからだけじゃなくて、オタクの子たちからもいろいろ教わってる。たぶん俺、いまクラスで一番オタクの生態詳しいと思う」
「俺より?」
「うん」
即答された樹がちょっとだけ苦笑いする。そのあとに朝倉が続けたのは、なかなかのパンチだった。
「こないだ、“グルシャン勢”って人たちがいるって聞いた」
「……グルシャン?」
樹が少し身を乗り出す。コメント欄が一瞬止まり、次の瞬間、ざわつき始める。
「お、おいまさか……」
「朝倉くんそれ言っちゃう?」
「出た、禁断のワード」
「グルメシャンプー……まさか……」
「“グルメシャンプー”の略らしい。推しが使ってるシャンプーを、そのまま飲む人たちのこと」
「…………飲むって、“頭に使う”やつの話だよな?」
「うん。飲む。推しと同じ香りを体の中から出したいって」
樹の顔がスン……って固まる。
「……いやいやいや、待て待て。飲むって、飲料じゃないよな、あれ……え、ガチで言ってんの? 飲んでんの? 頭に塗るやつ、体内に入れてんの?」
「ガチ。しかも“ちゃんと飲んでも平気なシャンプーを選んでるから問題ない”って言ってた」
「問題しかないだろ……」
朝倉は真顔。コメント欄はもう大騒ぎ。
「朝倉くんが言うと信憑性やばいんだよな……」
「樹さんの理性が崩れていく音がする」
「グルシャン勢、まだ存在してたのか」
「愛とは……?」
「でも気持ちはわかる……かもしれない……(錯乱)」
「あと、“飲む前に一回泡立てると推しと間接キス感があって良い”とか、“風呂場で口に含むとライブ感が出る”とか、細かいこだわりもあるみたい」
「いやもうやめろやめろ! 細部まで描写すんな! 情報量が暴力なんよ!」
樹は軽く頭を抱える。けどコメント欄は「もっと教えて朝倉くん!」の嵐。
朝倉は淡々と語る。
「俺は飲まないけど、“そういう気持ちになるほど、推しを愛してる”ってことは分かる。ちょっと怖いけど」
「“ちょっと”で済ませるのがすげえよ、お前……」
コメント欄:
「冷静に受け止めてる朝倉くんが一番怖い説」
「グルシャン勢、たぶん宗教団体」
「樹さんがガチで引いてて笑う」
「でもわかる……わかるんだよ……」
「俺も推しの柔軟剤は買ったことある……飲まないけど」
樹は「もうこれ以上聞いたら戻れない気がする……」と呟きながらも、しっかり最後まで聞いてくれるあたり優しい。
朝倉はちょっとだけ笑って、
「まあ、そういうのも含めて、オタクの愛って深いよな」
とだけ言って、話題をそっと変えた。
あげといてなんだが、グルシャン勢ってこんなんじゃなかった気がする。