オタクの生態
配信中の画面には、いつもよりちょっとだけ口数多めな朝倉と、横でまったり聞いてる樹の姿。
「いやでも最近さ、クラスのオタクの子に聞いたんだけど、推しのグッズって“使う派”と“飾る派”と“布教用で複数買う派”がいるらしいんだよな」
朝倉の声はいつも通り落ち着いてるけど、その語り口には妙にリアルな温度があった。
「それぞれの派閥で正義が違うんだって。“使うことで推しの恩恵を日常に取り込む”とか、“推しを劣化から守るために未開封保存”とか、“他人に布教してこそ正義”とか。わかる気もするけど、だいぶ奥深い」
樹は隣でお茶をすすりながら「へえ〜、そんなに分かれてんだな」と素直に感心してる。
コメント欄にはすぐ反応が出た。
「やべぇ!リアルにバレてる!」
「朝倉くん、何でそんなに詳しいの!?」
「クラスメイトのオタク、誰だ!おまえか!?(疑心暗鬼)」
「朝倉くんお友達にしないで……内緒の文化圏だったのに……」
「涙ながらに『教えなきゃよかった』って後悔してそうで草」
朝倉はそのコメントを流し見て、ふっと笑う。
「別に悪用しないから大丈夫。ちゃんと“聖域”として扱ってるし。あと、布教用3つ買って1つは未開封で持ってるって聞いた時、“それ用”があるんだなって感心した」
「え、グッズってそんな買い方すんの? 三つ?」
「推しのグッズだと“保存用、使用用、布教用”って言うんだって」
「へぇ〜、なるほどな……すげぇな、オタク界」
樹は完全に知らなかったらしく、目を丸くしてちょっと笑ってる。
朝倉は相変わらず淡々としてるけど、やけに的確に話を進めていく。
「あと、“推しの誕生日にはちゃんと祝う”“推し活の予定は最優先”ってのも聞いた。そこまで行くと、もはや信仰に近いなって」
コメント欄がさらにざわつく。
「信仰って言わないで!」
「朝倉くん、教わりすぎィ!」
「そのクラスのオタク、なぜそこまで喋った!」
「朝倉くん優しいからつい話しちゃうんだろうな」
「オタクの掟、守りたかった……(遠い目)」
朝倉はちょっとだけ眉を下げて、「ごめん、喋りすぎたかも」と言う。
「でも、そういうの聞くと面白いよ。専門知識ある人の話って、やっぱり惹かれる。俺、けっこう布教されるの好きなんだよね」
「……布教されるの好きって、なんかすごいな。そういう人、俺の周りあんまいないぞ」
「うん。だってさ、語ってる時の熱量って、本物じゃん。そこにちゃんと意味があるんだって伝わってくる」
コメント欄のテンションがまた一段上がる。
「朝倉くん……オタク界の聖母じゃん……」
「何それ、うれしすぎる……」
「一生分かってくれてありがとう」
「それ言われると布教したくなる!」
「俺も推し語りたい、朝倉くんにだけは聞いてほしい」
樹が「朝倉、なんかすごいことになってんぞ」って笑いながらコメント見てて、朝倉は静かに「俺、聞くのは得意だから」とだけ返す。
そのやり取りがまたコメント欄の火に油を注いで、画面には「オタクの聖域を理解する陽キャ」の誕生に、ざわついた愛の声があふれていた。
図書室よく利用してたら図書室の先生に気に入られて、本のかいつけに同行したっていうのはわたしの実話です。楽しかったな...