オタク
「……あー、うん、そう言われるよね、やっぱり」
樹はモニターに映ったコメントを読み上げて、少し笑う。
《朝倉くんって見た目めっちゃ陽キャなのに、オタクに偏見なくてすごい》《あれでドチャクソ理解あるの助かる》《推しがオタク理解あって助かるの世界共通で草》
「まあ……陽キャっていうか、あいつ見た目だけで言ったらモデルだし、ギャルと仲良いし、なんか黒豹っぽいオーラあるし、パッと見“陰”の気配ゼロだもんな……」
「でも、中身は全然そういうとこないっていうか」
樹は椅子にもたれて、ちょっと思い出すように目線を外す。
「俺、割と筋金入りのオタクだから。マジで、古のラノベとかメカ設定資料とか、そういうの延々語れるタイプの……まあ、キモい部類だよ。自覚あるし」
「でも、朝倉は昔から、そういうの一回もバカにしたことない。ていうか“もっと話して”って言ってくるの。真顔で」
《ガチで理解あるやつ》《陽キャの皮かぶった聞き上手オタクの嫁じゃん》《最高かよ》《そういうとこ好きになったんだろ?って圧を感じる》《朝倉強すぎる》
「“オタクは専門知識があるからかっこいい”って、あいつ普通に言うんだよ。あと“好きなものを語ってるときの目がいい”とか……なにそれって思うだろ?」
「おかげで俺も、変に気を張らずに話せるようになったな。なんかもう、こっちが遠慮しなくてもいい感じになる」
「“好き”とか“夢中”とか“語る”ってことに、たぶんあいつ、めちゃくちゃ寛容なんだと思う。だから俺が昔のアニメの変形機構について20分語ってても、うんうんって聞いてるし……」
苦笑いしながら、ちょっと肩をすくめる。
「いや、たまに“それ、もう一回図解で説明してくれ”とか言うの、マジでやめてほしいけどな。資料作らされんだよ俺……」
《それはそれでラブラブ》《朝倉が図解求めてくるの草》《朝倉、熱心なファンじゃん》《オタク彼氏を全肯定する陽キャ彼女、いい……》《そしてちゃんと応じる樹さんも偉い》
「でも、俺が喜ぶこと、ちゃんと分かってるし、俺がなに好きでどこに熱量あるのか、拾い上げてくるんだよな。ああいうの、真似できねーよ……」
「結局、偏見がないっていうより、“お前が好きなもんなら、ちゃんと見せてよ”ってスタンスなんだよ。あいつ」
「――まあ、俺から見ても、そういうとこが、めっちゃ好きなんだけどな」
言った瞬間、コメント欄が爆発する。
《はーーーーーーーー!?》《今のもう一回言って!?》《録画巻き戻せ!!》《ここ!告白ポイントです!!》《これでデレてないとか嘘やろ!》《付き合ってるとしか思えない……いやもう付き合ってるでしょ……(確信)》
樹はちょっとだけ照れて、口元を手で隠す。
「……今のナシ。そういうつもりじゃないから。配信だし」
でも、どこか嬉しそうだった。