タロット占い
のんびり雑談配信の夜。
ゲームを一区切り終えて、いつものように飲み物を飲みながらゆるーく喋ってる時間。
「最近ハマってるものって何かある?」
「……ある」
「お、珍しいな。なんだ?」
「タロット」
「……え、タロット?カードの?」
「そう。78枚の……ライダー版。今の主力はウェイトスミス版のリミテッドエディション」
「え、思ったより本格的じゃん。あれ?それって、昔ちょっと触ってなかった?」
「うん、でも最近本気になった。図書館で洋書とか借りて、原典の『カバラ思想』のとことか読み直してる」
「洋書……え、えーっと、まじ?」
「あとセージ焚いて浄化してる」
「お香みたいなやつ?あの葉っぱ燃やすやつか?」
「そう。月の満ち欠けに合わせて浄化する日も決めてる。満月の夜に光を当てるとカードが柔らかくなる」
「……柔らかくなる?いや、紙だよな?」
「エネルギー的な意味で」
コメント欄がざわつく。
《え、ガチ勢じゃん》《朝倉のそういうとこほんと好き》《セージ焚くってやばくない?》《満月の浄化?かっこいい》《ライダー版って初めて聞いた》《そんなレベルでハマってるとは……》《もしかして占ってたりする?》
「ちなみに誰にも触らせてない。樹もダメ」
「え、俺も?」
「当たり前。人の気配が混ざるとカードが穢れる」
「穢れるって……俺の手、そんなヤバい?」
「違う。お前じゃなくても他人が触ったら“その人の要素”が入り込む。タロットは“触った人の意思”に反応するから、持ち主以外が触ると精度が下がる」
「……やば、こわ、なんか呪術感あるな」
「まあ、占いは読み手の解釈ありきだから。カード自体はただの情報の並び。でも並びの中に答えがあるって考えると、触らせない理由、わかるだろ」
「いや、まぁ……うん……真面目な顔で言われると説得力あるけど、あれだな、お前がやるとめちゃくちゃ“儀式”っぽくなるな……」
コメント欄も興味津々。
《え、朝倉の占い受けてみたい》《カード触ったら怒られるんだろうな》《浄化とか初めて聞いた》《想像以上に本気だった》《配信者ってより司祭》《樹が触ったらなんか起きそう》《占ってって言ったら怒るやつだこれ》
「……でもさ、やっぱ聞くけど、何占ってんの?運勢?恋愛?」
「いや、今日の自分の視点とか、“正しさ”の感覚がずれてないかの確認」
「え、それ自己診断的な使い方なんだ」
「うん。他人のためにはあんまり使いたくない。占いって、言葉が重いから」
「……ああ」
「言葉を間違えると呪いになる。軽く見られるけど、“タロットで言われたから”っていう理由で、誰かが不幸になるのは……好きじゃない」
コメント欄が一瞬静まりかえる。
《……》《わかる気がする》《ガチの人の言葉だ》《軽く言えない理由があるんだな》《信念あるのかっけぇ》《占ってとは言えなくなった》《これが朝倉か……》
「だから、自分のためにだけ。あと、部屋に飾ると映える。綺麗だし、絵柄も好み。最近はイラスト集めもしてる」
「なるほど……趣味かつ、修行でもあるって感じだな……」
「まあそんな感じ」
「……お前、もっと軽いノリで言うと思ってた。なんかごめん」
「気にするな。話題に出したのは俺だから」
コメント欄は最後までしんと静まりつつ、どこか温かい雰囲気で流れていた。