怯え
深夜テンション気味のまったり配信。ゲームも一段落ついて、飲み物を飲みながら雑談中。
「……なあ、今ふと思ったんだけどさ」
「ん?」
「朝倉が怯えてるとこって、俺、見たことなくない?」
「……ああ」
「怖がるとか、ビビるとか、パニクるとか……まじでないよな。虫も平気だし、ホラーも微動だにしないし」
「……なるほど。見たいのか?」
「いや、そういうわけじゃ……いや、まあちょっとは見てみたいかも」
「いいぞ」
「え?」
朝倉がぴたりと姿勢を正し、少し下を向いたと思った瞬間——
「やだ……やだやだやだ、こわいこわいこわい……やめて……っ、やめてよぉ……!」
ぶるぶると肩を震わせ、両手で頭を抱えて、虚空を見上げた朝倉が、ぽろぽろと涙を流すような顔で叫ぶ。
「助けて、誰か……助けてっ……こわい、ひとりにしないで……お願いだから、もう、やだ……!」
コメント欄が一瞬で凍る。
《!?》《え?》《なんか始まった》《ちょ、どうした?》《こわいこわいこわいこわい》《涙出てるように見える……》《え?演技?演技だよね?》《心臓に悪い》
樹も一瞬呆然としてたが、すぐに椅子から少し乗り出して朝倉の方に手を伸ばしかける。
「おい……ちょっと待って、朝倉?」
「……たすけて……!」
「いや、ほんとに大丈夫か?……いや、これ演技……だよな?だよな?っていうかそうであってくれ」
「やだやだやだ、死にたくないっ……やだぁあっ!」
朝倉の叫びは、聞いているだけで喉が締めつけられそうな、リアルな声。
樹が本気で焦った顔になり、マイクにかぶりつくように口を近づけて必死に呼びかける。
「なあ朝倉、マジで、やめとけ!これ以上は本気で怖い!」
すると、朝倉がすっと顔を上げ、普段の落ち着いた無表情に戻り、淡々と一言。
「……以上、即興でした」
「おまえなあああああああ!!」
椅子をどんと鳴らしてのけぞる樹。
コメント欄が一気に爆発する。
《やめろマジで泣くかと思った》《演技かよ!!!》《心臓止まるかと思った》《樹の焦り方ガチだったな》《こわすぎてスクショも撮れなかった》《え、天才?俳優?》《配信でやることじゃねえって!》《これ見た人全員魂削れた》
「……お前、どんだけうまいんだよ……!演技ってわかってたのに、途中から心臓バクバクしてたわ!」
「よかった。じゃあ演技力には自信持っていいな」
「ちがう、そういう話じゃねえ!怖すぎるんだって!」
朝倉は特に悪びれる様子もなく、飲み物を一口。
「お前が見たいって言ったから」
「いやもう二度と言わねえ!!」
コメント欄も《樹のトラウマが増えた》《しばらく寝る前に思い出しそう》《でもちょっと……また見たい》《怖いけど好き》など、賛否両論で盛り上がり続けた。