マグロの解体ショー
【豪華なホテルのバンケットホール。配信者たちが集う一大パーティー。】
各テーブルでは、おしゃれなフィンガーフードとグラス片手に談笑する配信者たち。朝倉と樹も、壁際のテーブルでまったりしている。
「では皆さま、お楽しみのメインイベント、マグロの解体ショーのお時間でございます!」
(司会がマイク越しに高らかに宣言すると、軽くどよめく会場)
その瞬間、朝倉が「メイク直してくる」とぽつりと言って、すっと会場を抜ける。
「あ、いってら。……ん? メイク?」
(そのまま数分後――)
奥の扉が開き、氷を敷き詰めた巨大な台の上に、巨大な本マグロが搬入される。
「うわっでか……」「本物じゃん……!」
そのマグロの前に立っていたのは――
白シャツに黒ズボン、後ろで髪を結び、無駄な装飾一切なしのシンプルスタイルの朝倉。手には無骨な出刃包丁。
「……………………」
無言で、しかし躊躇なくマグロに向き合う。
包丁を軽く滑らせて、魚の表面を見極めるように撫でる手付きは、完全に素人のそれじゃない。
(ザクッ)
最初の一刀で空気が変わった。静寂。
そのまま、無言で部位ごとに丁寧に切り分けていく朝倉。
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「………………あっっっっっっっっっっっっっ!!」
突然、樹が叫んだ。
「言ってた!! 言ってたわ!!! 朝倉、“マグロの解体できるよ”って!!! 前に!!! 1回だけ!!!」
(思い出す:以前、料理の話をしてた時に、朝倉が「魚、解体もできる」って淡々と言っていた記憶)
「なんでスルーしたんだ俺! なんで“冗談だろ~”で流したんだ!?!? いや、あの時の朝倉、冗談っぽさゼロだったじゃん!?!?」
(目の前で中骨まで綺麗に取り分ける朝倉。無言で、手元を見つめ、ひたすらに冷静)
「うわ~~~っ!! もう俺のバカ~~~~~~~!!!」
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【コメント欄】
《いやマジで職人》《ガチのやつやん》《包丁さばきで黙らせる配信者》《これほんとに朝倉……?》《普段の配信とスイッチ違いすぎて怖い》《知ってたら呼ばないわマジで(尊敬)》
《「メイク直す」って言って職人服に着替えるやつ初めて見た》《それ伏線だったの!?》《てか樹さん今ごろ何思ってるんだろ……あ、喋ったwww》《「言ってた」wwwww》《過去の記憶が走馬灯のように甦ってる樹さん好き》《これが“配信に必要な男”……》《スキル表どこ?》《いやもう怖い、スキル無限なの!?》《最終的に世界を救いそう》
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【周囲の配信者たち】
「え? 朝倉くんがやるの?」「っていうか服装が変わってる時点でおかしかったんだよな……」「絶対料理人経験あるでしょ……」「うちのスタッフより手際いいんだけど」「てか“できる”って言われて信じなかった自分を殴りたい」「オフの日に刺し盛り作ってそう」
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【マグロ解体完了後】
(無言で包丁をふき取り、軽く礼をして退出する朝倉)
(解体された中トロと大トロの盛り付けが運ばれてくる。拍手が自然と起こる)
樹、口をぱくぱくさせながら刺身を食べる。
「うっま……。うん、これたぶん、今食った中で一番うまい……」
「……ほんと、何で気づかなかったんだ俺……いや、言ってたのに……」
(頭抱える)