ナニカ
【夜の二人配信。ジャンルはホラーゲーム。ゲーム内の探索中、まったりした空気】
「こっち行く? 鍵かかってるっぽいけど……あ、いや、その前にこの部屋探索するか」
(カチャカチャカチャ……)
(唐突に、朝倉がすっと立ち上がる)
「……? どした?」
(そのまま無言で部屋の隅へ歩き出す)
(そして――何もない空間に向かって、まるでそこに“何か”がいたかのように、片足で虚空を――)
ズドンッ!!!
(明らかに重いものを蹴り飛ばしたような鈍い衝撃音)
(……一瞬の沈黙)
(そのまま何事もなかったように椅子に戻り、イヤホンをつけてコントローラーを握る)
「……さて、続きやるか」
「……待て待て待て待て」
(ジト目)
「今、お前、何蹴った?」
「……ん? ああ、まあ……なんでもない。気にしないで」
「いやいやいやいや気にするだろ!?!?なにあの音!?絶対に“何か”いたろ!?俺がヘッドホン越しでも“鈍い音”ってわかったぞ!?」
「……いや、別に……そういうのじゃない。気のせい。うん。まあ……一瞬だけ“現れた”ってだけで。問題ない」
「え、現れた!?!?えっ!? やっぱなんかいたの!?!?いや怖い怖い怖い怖い!!!!“現れた”って、霊的な方の“現れた”じゃないよな!?生物!?実体!?害虫!?精霊!?何だよ!!」
(朝倉は淡々とゲームを再開しながら、小さく笑ってるだけ)
「お前さあ、もうちょい……説明してくれよぉ……怖いじゃんよぉ……」
---
(コメント欄)
《今の音ガチで怖かった》《誰か巻き戻して何秒か確認してくれ》《なんか蹴った音だったのに、画面に何も映ってないの何!?》《朝倉さん今……「一瞬現れた」って言ったよね!?》《なにが!?なにが!?》《また何か“視えてる”系!?!?》《蹴ったってことは見えてるだけじゃない!?》《サラッと除霊しないで!?!?》《やめてほんとこわい》《ホラーゲームより朝倉の動きの方がホラー》《怖いけど……好き……》《樹さんが人間代表で安心する》《なんでもないって言われて何もないわけあるかあああああ!!》《逆に何があって“なんでもない”って言えるんだよ……》《朝倉さん、たぶんそういうとこだぞ……(好き)》
---
「……まあ、消えたからいいじゃん」
「よくねぇよ!!“消えた”って言うな!!!」
(朝倉は、静かにコントローラーを動かしながら、ニコッと笑う。その目は、ちょっとだけ、冗談には見えなかった)