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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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入学式

春の空気はまだ少し冷たくて、制服の上着を着ていてちょうどいい。入学式の朝、校門前で保護者に混じって立つ樹の目に、ひときわ目立つひとりの男子生徒の姿が映った。


「……透?」


人混みの向こうから歩いてくるのは、間違いなく透だった。すらりと伸びた長身はもう樹と並んでも引けを取らない。いや──少し、追い越してるかもしれない。黒髪は艶やかで、背中まで伸びた髪をひとつに束ねているのがよく似合っていた。歩くたび、髪の束がふわりと揺れて、その姿はどこか神秘的ですらある。


「あ、樹」


透が気づいて、軽く手を上げた。無表情だが、どこか柔らかい空気がある。口数は少ないのに、感情はきちんと伝わってくる。不思議な奴だ、と樹は思う。


「でかくなったな……びっくりした」


「そう?」


透は立ち止まり、樹の前にぴたりと並ぶ。見上げていたはずの透の目線が、もうほぼ同じ高さだった。


「……なんかさ、変な感じだな。俺が保育園に迎えに行ってたのに、今じゃこっちが迎えられそうな身長差じゃん」


「成長しただけ。……俺、ずっと一緒にいたいと思ってるから。樹と並んで歩けるくらいにはなりたいって、思ってた」


さらりと、でも迷いのない声。心の奥に小さな熱が灯る。樹は思わず笑ってしまった。


「お前ってやつは……ほんと、昔からブレないよな」


透はふと、小さく笑った。ふわりと表情がほどけて、その一瞬の笑みが樹の胸を打つ。ああ、やっぱり──この子は、昔から変わらない。けれど、ちゃんと大人になっていってる。


「高校生活、楽しめよ。……なんか困ったことがあったら、いつでも言え」


「うん。でも、困らないように頑張る。樹に、カッコ悪いところ見せたくないから」


たぶん、恋だとか愛だとか、そんな単語にするにはまだ幼くて。でも、確かに「想い」はあって──


高校の門をくぐっていく透の背を、樹は目を細めて見送った。


「……あの頃、小さな手でハグしてくれた子が……なぁ」


心の中で、誰にともなくつぶやく。少しだけ、胸が熱かった。


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