怖い話?
【タイトル:『100の怪談を語る夜』~Discord通話企画~】
夏の夜。
複数人の配信者が集まり、それぞれが「怖い話」を一つずつ持ち寄って語るという企画が始まる。
会場はDiscordの通話サーバー。
リスナーはそれぞれの配信者のチャンネルから視聴可能、主催者は司会進行も兼ねて、順に参加者を呼び出していく。
そして――終盤。
「では……お次、朝倉くん。お願いできますか?」
「うん」
朝倉の声は静かで、よく通る。
普段から言葉少なめな印象があるぶん、その話し始めにみんな耳を澄ます。
「これは……俺が中学生の頃に、本当にあった話なんだけど」
《実話!?》《本物きた》《朝倉さんの語り口、なんか怖い》《音の消し方がうまいな》《なんかマジで鳥肌立ってきた……》
「その日、うちの部活メンバーの一人が、来なかったんだ。
いつも時間ぴったりに来るやつで、すごく真面目で……でもその日だけ、姿が見えなくて。
顧問も電話してたけど、出なかった。家にも連絡したけど、親も“出かけたまま戻ってない”って」
空気が凍る。Discord越しでも、その“異常な”気配が伝わる。
「でも――校舎の裏にある、小さな物置の中から、うっすら声が聞こえた。誰もいないはずの場所で」
主催者が一瞬、咳払いをする。コメント欄は沈黙に近い。
「それで、俺、確かめに行ったんだ。
物置の前に立ったとき、中から、“たすけて”って声がした。だけど――その声、友達の声じゃなかった」
《やめてやめて》《声まねとかじゃなくて?》《物置の話やばいって》《ここ、今夜寝られないやつ》
「でも、俺……気付いたんだ。
あれ、“俺を呼んでる”声だったんじゃなくて、“俺に近付く誰かを呼んでる”って。
つまり、“俺を餌にして誰かを誘ってる”ような、そういう感じで」
主催者「…………(無言)」
朝倉「で。開けたら、そいつがいた。
顔がぐちゃぐちゃで、骨の位置もおかしくて、関節も逆向きで、どう見ても人間じゃない。
笑いながらこっちに伸びてくるんだ。“見つけた”って顔で。
俺、たぶん、あのままだったら、ここにいなかったと思う」
リスナー「「「…………(コメント止まる)」」」
朝倉「だから、**蹴った。**全力で。回し蹴りで顔面ぶっ飛ばしたら、頭がゴンッて棚に刺さって動かなくなった」
主催者「……え?蹴った……?」
朝倉「うん。で、そこからバタバタ暴れだしたけど、
バランス崩した拍子に横のスコップ踏んで、自分で自分の首に突き刺して……気絶したっぽい」
コメント欄爆発。
《え?》《ええ??》《バイオレンスエンド!?》《心霊じゃなくて格闘だった!?》《棚に頭刺さるってなに!?》《え!?どゆこと!?》《オチ、カオスすぎんか?》
主催者「えーと……朝倉くん、それ、つまり……?」
朝倉「うん、だから“怪異だったかどうか”は分からないけど……
とりあえず、俺は“物理で解決した”って話。
霊とか怨念とかじゃなく、“殴れるなら倒せる”っていう感覚、あると思うんだよね」
《出たよ物理系除霊》《また殴って解決した》《なんでも回し蹴りすな》《朝倉くんの怖い話、途中まで本物なんだよ……途中までは》《格闘スピリチュアルは新ジャンル》
朝倉「俺、怖い話は嫌いじゃないけど……
“負けそうなやつの話”より、“勝ったやつの話”のほうが好きだからさ」
主催者「……ほんと、朝倉くんらしいよね……(笑)」
朝倉「ちなみに……スコップに突き刺さったやつ、後日また出てきたけど。
その時はハイキックで対応した。二度目はさすがに学習してたけど、負けなかった」
コメント欄:
《続きあるのかよ!》《だからなんでキックで勝てるんだ》《それもう武勇伝》《朝倉、なんなんだ》《完全に霊の天敵じゃん……》