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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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駄菓子

配信画面に映るのは、山盛りの駄菓子。

テーブルの上に、カラフルな包装のスナックや、ふにゃっとしたゼリー、ヨーグルト風味のソフトキャンディ、ラムネ、粉ジュース、くじ付きチョコ、5円チョコがこれでもかと並んでる。


朝倉はニッと笑って、ラムネの袋を手に取った。


「買い占めてきた」


「……買いすぎじゃね?」


横で呆れたように笑うのは、東堂樹。

だがその目は優しくて、どこか楽しそうでもある。


「うん。でも、見てたら止まらなかった。子どもの頃って、お金ぜんぶは使えなかったじゃん。だから……今日は、ぜんぶ、買ってきた」


そう言って、ラムネをぽいっと口に入れる。

しゃくっと噛んで、少し顔をしかめたあと――ぱあっと表情が和らいだ。


「……これ。あっま」


コメント欄が和む。


《あ~~~朝倉かわいい》《顔が子どもなんよ》《ふつうに未成年だった》《めちゃくちゃ買ってるwww》《スーツ着てきそうなやつが一番楽しんでるじゃん》


朝倉はスナック菓子を開けて、パリパリと口に運びながら、しみじみとした声で話し始める。


「高いケーキとか、ホテルのデザートもすごく好き。手間とか素材とか、尊敬するし、ちゃんと味わうけど……」


一口、チープなうまい棒をかじって、鼻先をくすぐるソースの香りにふっと笑う。


「……でも、たまにこっちのほうが食べたくなる。雑で、甘くて、口ん中が変な感じになるやつ。小さい頃の記憶を、舌が思い出す感じ。……脳が喜んでるの、わかる」


「お前、ほんとに高校生か?」


苦笑しながら呟いた樹に、コメント欄も乗っかる。


《言ってることは大人なのに》《食べてるもんは完全に小学生》《顔が子ども》《味覚のセンチメンタルかよ》《朝倉、年齢が行ったり来たりするな》《今キラキラした目してたぞ?》


朝倉は、ふにゃふにゃのソーダ餅みたいな駄菓子を指先でぷにぷに触りながら、少し照れたように言った。


「こういうのって、たぶん“質”じゃないんだよね。“思い出”とか、“懐かしさ”とか、そういうのが一緒に味になってる。……だから好き。たまに無性に食べたくなる」


ゼリー菓子をつまんで、ヒョイと樹の口に入れてやる。

不意打ちにむせそうになる樹。コメントがまたざわつく。


《え、今のなに!?》《え、え、あーーーーー》《自然すぎて脳が追いつかん》《優勝です》《ここ、リピるやつ》


その後も、朝倉はとんでもない手際で色んな駄菓子を開けて、ひとつずつ嬉しそうに味わっていく。


ガチのモデルで、高身長で、たまに“黒豹”みたいな目をするくせに――

今、目の前でキラキラしながら粉ジュースを混ぜてる姿は、ただの“年相応の男の子”だった。


樹はふと、肩肘ついてその様子を眺めながら、ぽつりと漏らす。


「……やっぱ、未成年なんだな。お前」


「……何が」


「いや、今の顔。ラムネ一個でこんな目すんの、マジで若さって感じ」


「……そっか」


朝倉は目を細めて笑った。


「……でも、樹とこうやって駄菓子食ってんの、今が一番うまい」


一瞬、沈黙。

樹は何も言わずに、そっと手近なうまい棒を口にくわえた。


その背中を、朝倉は小さく笑いながら見つめていた。


――駄菓子って、チープだけど、幸せの密度がすごいんだ。


コメント欄にも、そんな“のんびりとした幸せ”が広がっていた。

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