駄菓子
配信画面に映るのは、山盛りの駄菓子。
テーブルの上に、カラフルな包装のスナックや、ふにゃっとしたゼリー、ヨーグルト風味のソフトキャンディ、ラムネ、粉ジュース、くじ付きチョコ、5円チョコがこれでもかと並んでる。
朝倉はニッと笑って、ラムネの袋を手に取った。
「買い占めてきた」
「……買いすぎじゃね?」
横で呆れたように笑うのは、東堂樹。
だがその目は優しくて、どこか楽しそうでもある。
「うん。でも、見てたら止まらなかった。子どもの頃って、お金ぜんぶは使えなかったじゃん。だから……今日は、ぜんぶ、買ってきた」
そう言って、ラムネをぽいっと口に入れる。
しゃくっと噛んで、少し顔をしかめたあと――ぱあっと表情が和らいだ。
「……これ。あっま」
コメント欄が和む。
《あ~~~朝倉かわいい》《顔が子どもなんよ》《ふつうに未成年だった》《めちゃくちゃ買ってるwww》《スーツ着てきそうなやつが一番楽しんでるじゃん》
朝倉はスナック菓子を開けて、パリパリと口に運びながら、しみじみとした声で話し始める。
「高いケーキとか、ホテルのデザートもすごく好き。手間とか素材とか、尊敬するし、ちゃんと味わうけど……」
一口、チープなうまい棒をかじって、鼻先をくすぐるソースの香りにふっと笑う。
「……でも、たまにこっちのほうが食べたくなる。雑で、甘くて、口ん中が変な感じになるやつ。小さい頃の記憶を、舌が思い出す感じ。……脳が喜んでるの、わかる」
「お前、ほんとに高校生か?」
苦笑しながら呟いた樹に、コメント欄も乗っかる。
《言ってることは大人なのに》《食べてるもんは完全に小学生》《顔が子ども》《味覚のセンチメンタルかよ》《朝倉、年齢が行ったり来たりするな》《今キラキラした目してたぞ?》
朝倉は、ふにゃふにゃのソーダ餅みたいな駄菓子を指先でぷにぷに触りながら、少し照れたように言った。
「こういうのって、たぶん“質”じゃないんだよね。“思い出”とか、“懐かしさ”とか、そういうのが一緒に味になってる。……だから好き。たまに無性に食べたくなる」
ゼリー菓子をつまんで、ヒョイと樹の口に入れてやる。
不意打ちにむせそうになる樹。コメントがまたざわつく。
《え、今のなに!?》《え、え、あーーーーー》《自然すぎて脳が追いつかん》《優勝です》《ここ、リピるやつ》
その後も、朝倉はとんでもない手際で色んな駄菓子を開けて、ひとつずつ嬉しそうに味わっていく。
ガチのモデルで、高身長で、たまに“黒豹”みたいな目をするくせに――
今、目の前でキラキラしながら粉ジュースを混ぜてる姿は、ただの“年相応の男の子”だった。
樹はふと、肩肘ついてその様子を眺めながら、ぽつりと漏らす。
「……やっぱ、未成年なんだな。お前」
「……何が」
「いや、今の顔。ラムネ一個でこんな目すんの、マジで若さって感じ」
「……そっか」
朝倉は目を細めて笑った。
「……でも、樹とこうやって駄菓子食ってんの、今が一番うまい」
一瞬、沈黙。
樹は何も言わずに、そっと手近なうまい棒を口にくわえた。
その背中を、朝倉は小さく笑いながら見つめていた。
――駄菓子って、チープだけど、幸せの密度がすごいんだ。
コメント欄にも、そんな“のんびりとした幸せ”が広がっていた。