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愛しいあなたと  作者: 飴とチョコレート
第二章 高校生編
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バレエ

雑談配信の夜。カメラ越しの空気はいつも通り穏やかで、朝倉と樹がゆるくお茶を飲みながら、リスナーのコメントを読んでた。


「最近始めたこととかありますか?」


その一言に、朝倉が少しだけ考える仕草をする。細長い指がマグカップをなぞり、ゆっくりと唇が動いた。


「……バレエ、始めた」


「ん?」


「クラシックバレエ。立ち方から、ポジション、プリエとか……今は基礎の動き。バーレッスン、毎週やってる」


コメント欄が一気にざわついた。


【え、バレエ?!】【想像つくけど意外!】【似合いそう】【しなやか系男子ここに極まれり】


樹はカップを置いて、ちょっと目を細めた。


「お前さ、また急に……なんでバレエ?」


「前から、やってみたかったんだ。体、柔らかいし。I字バランスとか、ピルエットみたいな動きも、基礎があればもっと綺麗にできるだろ?」


「……いやまあ、たしかにお前、昔から無駄に身体能力高いし。ヒール履いたまま跳ねるのとかもう意味わかんないレベルだったけど……」


「“無駄に”って何」


「いや、褒めてるよ。ほんとに。でも……バレエって、男役と女役で動き全然違うだろ。どっちやってんの?」


朝倉は少しだけ間を置いてから、ふっと笑った。


「……両方。せっかくだし。男役の跳躍とか持ち上げとかもやるけど、女役の指先の流れ、脚のライン、トウでの立ち方とかも練習してる。先生には、“あなたは骨格がどっちにも合ってて羨ましい”って言われた」


樹が目を丸くして、少しだけ笑う。


「……似合いすぎだろ」


「うん、自分でも思う。鏡見てて、“あ、これは使える”って瞬間があった」


「いやその言い方よ……使うって何に?」


「モデルとしてもそうだけど、配信でも使える表現がある。あと……俺、愛情を“柔らかく渡す”の得意だけど、それってたぶん、所作が綺麗だとより伝わりやすいと思う。バレエって、感情を指先と足先に込めて、何も喋らずに全部伝える芸術だから」


コメント欄がじわじわと感動に包まれていく。


【は?かっこよすぎ】【惚れる】【透明感の暴力】【性別を超えた存在】【もう王子と姫どっちもやって】


「てかお前さ、トウシューズ履けるの?あれ痛いやつでしょ?」


「履ける。でもちゃんと保護しないと危ない。まだポワントの時間は短いけど……“立つ”っていうより、“吊られる”ように立つ感覚、好きだな。細い先端でバランス取って、世界から少しだけ浮いてるような、孤独な感じが」


「……重いな」


「軽くして渡したはずなんだけど?」


「うん、受け取り手の俺が重さに慣れすぎた説あるな」


二人で笑い合う。コメント欄はというと――


【重くて美しい】【これが朝倉クオリティ】【表現の鬼】【映像化希望】【天使かと思ったら悪魔だった】【愛が深い】


「また動画でバレエの動き、載せてもいいかな」


「出したらみんな気絶するぞ」


「樹にも、見せたいんだけどな。……ちゃんとした、感情を込めた踊り」


「見たいけど、俺、泣くかもな」


「泣いたら、抱きしめるよ。踊ったまま、真っ直ぐお前のところへ行って、全部渡すから」


静かに、優しく、でも確かに響くその言葉に、配信は一瞬だけしん……と沈黙した。


――次の動画は、朝倉が踊る静謐なバレエのクリップだった、という噂がファンの間で囁かれるのは、この後の話だ。

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