武器
配信も中盤、ふたりでまったりお茶を飲みながらコメントを拾ってた頃、こんな質問が流れてきた。
【朝倉くんって、武器の扱いも覚えてるって聞いたんですけど本当ですか?】
「……ああ。うん、覚えてるよ。実戦じゃなくて所作としてな。刀、ナイフ、弓、鞭、大鎌、槍とか」
「ちょ、待て待て待て、ナチュラルに“鞭”とか“大鎌”とか言うなよ」
「ん? 何が?」
「いや、“鞭”て……お前、どこで覚えたんだよそんなの」
「独学と、実演。道具揃えて、動き見て、練習して……部屋で音立てると怒られるから、貸しスタジオ借りたこともある」
「真面目か。いやマジで真面目すぎるだろお前……てかなんで鞭?」
朝倉はマグカップを机に置き、視線をふと上に向ける。目は真剣で、いつもより少し熱がこもってた。
「……人類で初めて、音速を超えた武器だぞ。先端がソニックブームを起こす。物理的に音速の壁を超えるって、単純にロマンあるだろ?」
「なるほど……」
「しかも、長い。刃物は間合いが短い。でも鞭なら、距離を取ったまま意志を伝えられる。相手に触れず、空気だけで支配するっていうのも……美しいよな」
樹がごく自然に目を見開いた。
「いや、それに感動してるお前の感性がもうちょっと怖いんだけど……」
「あと、体に巻きつけて携帯できるしな。しなやかで柔らかいのに、一撃で皮膚を割ける」
「やめてやめて説明がホラー。聞いてて背中がゾクゾクする」
でも、朝倉の顔はどこか嬉しそうだった。単なる知識の羅列じゃない。そこには、ひとつひとつの武器に愛着と敬意を持っている空気があった。
「なあ、樹」
「ん?」
「鞭、覚えろ」
「なんでだよ」
「俺に使っていいから。実験台になる。もちろん、ちゃんと安全な手順で、痛みも調整して」
樹は苦笑しながらも、ちらっと朝倉を見る。その目は冗談ともつかない、でも重すぎない絶妙な愛情の熱があった。
「お前さあ……ほんと、たまにヤバいよ?」
「わかってる。俺の愛は重い。だから、薄くして渡してる。……でも、これくらいはいいだろ?」
コメント欄がそわそわし始める。
【え、何この流れ】【こわいけど尊い】【まーた朝倉が重いこと言ってる】【鞭教えるとか新ジャンル】
「つか、そもそも俺が覚えるメリットある?」
「ある。たとえば……お前が限界きたとき、俺に怒りをぶつける方法の一つになる」
「……お前、それを“好き”に変換できるって言ってたな」
「うん。俺は、傷つけられることは、愛として受け止められる。そうやって、お前が楽になるなら、俺はそれで幸せになれる」
コメント欄は一気にヒートアップ。
【うわあああ】【歪な愛が美しい】【愛が深海すぎる】【地獄のような甘さ】【最高】
「マジで……俺、変なのに愛されてるわ」
「そうだぞ。お前、俺にめちゃくちゃ愛されてる」
「うん、知ってる」
笑いながら、二人はマグカップを軽く合わせた。
そんな配信だった。