あなたのことが○○くらいに好きです
「あなたのこと、○○くらいに好きですって、コメントでよく見るじゃないですか。おふたりは普段、そういうの言うなら、どんな感じなんですか?」
って質問がコメント欄に流れてきた瞬間、画面の前の二人はぴたりと動きを止めた。
「……なあ、朝倉」
「ん」
「真剣に考えていいやつか?これ」
「いいだろ。別に隠すようなもんでもねえ」
そう言って、朝倉はふわりと笑った。けれど、その微笑の奥には、何層にも重なった愛情の温度が隠れている。
少し沈黙があって、樹がぽつりと呟いた。
「……お前を、殺したいくらいには、好き」
「は?」
コメント欄がざわつく。
【え?】【ええ……】【怖ッ】【待って待って】【物騒すぎるwww】
でも、朝倉は笑いながら首を振る。
「はは、バカだな。じゃあ、俺は……お前に殺されてもいいくらいに、好き」
その言葉に、樹もつい吹き出した。
「おい、それ完全に狂ってるやつじゃん!」
「お互い様だろ。俺ら、わりと普通の愛の持ち方してないぞ」
コメント欄は案の定の反応だ。
【こっわ】【メンヘラカップルじゃん】【でも尊い】【地獄のラブソング流れてる】【ホラーかよ】
けれど、朝倉の目だけは笑っていなかった。
彼の中でその言葉は、冗談でもなんでもなく、ただの“事実”だった。
相手に全てを渡したい。自分のすべてを捧げたい。たとえそれが、傷になるものでも、痛みでも。樹が望むなら、朝倉はそのすべてを“好き”に変換できる。
だから、彼にとって「殺されてもいいくらいに好き」は、ただの比喩じゃない。
「ま、現実にはちゃんと、お互い嫌なことはしないし、俺はお前を傷つけたりしねえよ?」
と、樹が補足するように言えば、
「うん、知ってる。俺もそう。……けど、お前がやりたいって思うことなら、俺は大体受け入れられる」
「お前さあ、それほんと重いって……」
「分かってる。でも、俺の愛は重いから。だから、お前が持てる分だけにして、柔らかくして、甘くして渡してる」
さらっと言うその一言に、樹が目を見開いた。
コメント欄も一瞬、静まりかえって——
【えぐ……】【そういうの急に言うのやめて】【甘いけどこわい】【それが愛……?】【深い】
「……なあ」
「ん?」
「ほんと、好きだよ。お前」
「……俺も。ちゃんと、持っててくれてるって分かる。だから、安心して重くなれる」
二人は画面越しに見つめ合って、微笑み合った。
視聴者たちには到底ついていけない愛の形。けれどそれが、このふたりにとっての“ふつう”なのだった。