凍り付いた薔薇
本当はそんなことを思っている事態ではないと理解しながらも、ただ美しいと思った。
(かつての人生で、自分の命を奪った魔法を美しく思うなんて)
けれど、やはり義兄は故意に私のことを殺めてしまったわけではなかったのだ。
「お義兄様?」
魔力のコントロールが効かず、そこに私が駆け寄ってしまった……。
(あのあと、お義兄様はどうなったのかしら……)
すでに傷だらけだった、あのときの義兄。
もし、私のことを守ってくれていると信じ切れていたら、結末は違ったのだろうか。
水晶のような氷の魔法は、ひび割れた部分に七色の光を帯びていた。
すでに部屋の中に義兄の姿はない。
もしかすると、あのときのように傷だらけなのではないかと、氷に導かれるように後を追う。
外に出ると、初夏だというのに庭はヒンヤリと凍り付いていた。
(きっと、あの場所にいる)
半ば確信して、あの場所へと向かう。
淡い紫色の薔薇が咲き乱れるあの場所に。
* * *
予想通り、義兄はその場所にいた。
そして、淡い紫色の薔薇は全て凍り付いていた。
「近寄るな……!」
義兄がまだ怪我をしていないのを確認して、安堵の息を吐いた。
けれど、義兄の周りで氷の魔法は解けては再生を繰り返している。
「いつから知っていた?」
「……何をですか」
そう返事をしながらも、義兄が言うのがいつのことなのかは明白だろう。
「俺がアイリスを」
「お義兄様のせいではありません」
「いや、間違いなく俺の魔法が君を」
「……今世で初めてお会いしたときから知っていました」
だから、始めは私を殺した義兄のことがひどく恐ろしかった。
けれど、それと同時に惹かれてやまない気持ちが消えることもなかった。
「っ……そばにいたいです」
「また、同じことが起こる」
「……やり直し前の、私の最期を夢に見たのですね」
そばに歩み寄り、冷たく凍えたような体を抱き締めた。
「第三王子が俺の魔力を不安定にする薬を使ったことまでは夢に見ていた。もう、君を守れないからと婚約を解消したことも」
「……わかりにくいですよ。ちゃんと理由を言ってくださらないと」
「父上にも相談していたのに、まさか君のほうを狙うなんて」
「……私には魔力がありません。ちょっと痛い思いをしただけです」
バキンッと一際大きな音がした。
「離れろ、アイリス!」
「絶対に離れません!!」
氷が私たちに向かって降ってくる。
動けない様子の義兄を抱き締めて、何が起ころうと絶対離れてなるものかと、覚悟して強く目を瞑った。