夢の続き
* * *
あれから、お義兄様は半日以上眠り込んでいる。
「もう夜中だ……。僕が見ているから少しお休み」
泣きすぎて声も出なくなり、ぶんぶんと首を振ることしかできない。
(お義兄様は、私をかばって……)
けれど、義兄は目が覚めないほど怪我をしたわけではない。お医者様に見ていただいても、眠り続ける原因は分からなかった。
ただ、霜柱が現れては床を白く染め上げては消えることを繰り返している。
(氷魔法がコントロールできていないみたい)
そっと触れると霜柱は解けて消える。
そこからは義兄の魔力をほのかに感じる。
(あの時と同じ……そう、あの時と?)
ガチャガチャと開けてはいけない扉が乱暴に開かれようとしている。
「シルヴィス様……」
「はあ、しかたない。気が済むまで、そばにいるといい。僕は、今回の後始末をしてくる」
「お父様……これは、第三王子殿下の手によるものなのでしょうか」
「証拠はない。ただ、その可能性は高いだろうね」
「……」
父が私の肩に薄い掛け物をかけてくれた。
私はただ、義兄の手を握り早く目を覚ましてほしいと願い続ける。
そして明け方、私はベッドに突っ伏してうとうとと浅い眠りについた。
* * *
ひどくお腹がすいていた。
いつも美味しいものを食べて幸せに暮らしていたから、慣れてしまっていたはずの空腹がひどくつらく感じる。
それよりもつらいのは、義兄から告げられた婚約解消の申し出だった。
「やあ……。愛妾の申し出を受けてくれてありがとう」
「サフィール殿下」
「ようやく君を手に入れた」
「……」
「おや、そんな顔されると傷つくな」
サフィール殿下が、青い瞳で私のことを見つめてくる。
その瞳からは少しの恋慕も感じられない。
「……愛妾になれば、ヴェルディナード侯爵家に便宜を図ってくださるのですよね」
庶子である私でも、ヴェルディナード侯爵家に役立てる……愛妾であっても王族と縁を結ぶことができるのだ。
それはそれで良いかとしれないと、そのときは思っていた。
「うーん。残念ながら、ヴェルディナード侯爵領は、君が男子を産むまでは王家の預かりになりそうだ」
「……え?」
耳の奥でひどいノイズが聞こえる。
これ以上、思い出してはいけないと……思い出したくはないのだと。
「愛妾になる君の命を守ることを保証すると言ったら、シルヴィスはいとも簡単に飲んだよ」
「な……に、を」
「それは」
* * *
「う……寒い」
そのとき、あまりの寒さに身震いした。
目を開けば、部屋中が尖った水晶の原石のような氷に覆われていた。