97 遠征ふたたび・梅田はしぶとい
「さて、残るは梅田か」
「ホントシャレにならないダンジョンだよね」
真利が愚痴りたくなる気持ちもよくわかる。
大阪城ダンジョンや長居公園ダンジョンも広くて手こずったけど、ここはさらに広い上に入り組んでいたからね。
迂回路がいくつもあったおかげで杉吉たちがこれを利用して奥の方へ誘い込まれたくらいだし。
おまけに深い。
大阪城は2層で長居公園は3層までだったけど報告は控えたくらいである。
それくらい広いのだ。
「ここはさすがに2層はないですよね」
大阪城ダンジョンでは受付のお姉さんから聞かれたけどね。
「ハハハ、どうでしょう? ここは広いですから奥まで行き着ければあるかもしれませんよ」
なんて答えて煙に巻いておいた。
「まだ誰も隅々までマッピングできてないですからね」
苦笑している受付のお姉さんに2層の階段は発見済みだと言ったら、どんな反応をするだろうか。
大阪城ダンジョンは広いは広いけど構造は単純だし1層で出てくる魔物はゴブリンやオークだから手こずることはないけどね。
オークがいるからレベルを上げていないとキツいかな。
2層はオークのみで守護者はオークキング。
わかりやすいパターンのダンジョンではあった。
難易度も長居公園ダンジョンの方が上だね。
1層からオークしか出てこないので危険度は梅田と同じだし。
地元では肉ダンジョンと呼ばれているらしい。
下の階層もその傾向があったよ。
2層がオークとミノタウロス、3層はミノタウロスのみで守護者はソードホーンブルだし。
ソードホーンブルは通常の牛より二回りほど大きく角が剣のようになっている牛の魔物である。
そんなのが闘牛の牛よろしく突進してくるのだ。
あの攻撃は決して直線的ではなく機敏に方向を変えてくるため並の冒険者では太刀打ちできるものではないだろう。
おかげでドロップアイテムは死蔵することになったけど。
牛革はともかく剣角なんて絶対に誤魔化しようがないからね。
高級牛肉は俺たちのお腹に収まる予定なのでノープロブレムだ。
焼き肉、ステーキ、ハンバーグ、色々と夢は広がるよ。
とはいえ、梅田ダンジョンを掌握しない限り帰らないと決めていたのでそれは家に帰ってからの話なんだよなぁ。
待ち遠しくてしょうがない。
故に今日も梅田ダンジョンに潜る。
「今日は梅田なんですね」
すっかり顔なじみとなった受付のお姉さんに言われてしまった。
今日はなんて言うのは、カモフラージュのために掌握した他のダンジョンにも通っていることを把握されている証拠だな。
「明日は休みますよ」
「先手を打たれましたね」
フフフと笑うお姉さんだが登録手続きの手は止まっていない。
手慣れるとこういうものなんだろうと改めて思った。
先日、研修中の札を下げた新人がモタついていたのに当たってしまったのだ。
今まで当たり前と思っていたことがそうではないということに気付かされたよ。
「登録完了しました。お気をつけて」
「ありがとう。行ってきます」
レッドバイソンの連中との一件があったので最近は後ろに並んでいるチームがいなくても受付を手短に済ませるようにしている。
念のため受付後も周囲の動きに気を配りながらダンジョンの入り口へと向かう。
「クリア」
「こっちもクリアだよ」
周囲の警戒に専念していた英花と真利が報告してくる。
「じゃあ、今日も頑張ろうか」
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ダンジョンに入った後は人気のない方へ向かい周囲を警戒する。
下層の探索時間が削られるから2層への階段は使わない。
その代わり魔法を使って周囲の把握を徹底する。
「人も魔物もいないよ」
「うむ、問題ない」
真利と英花のダブルチェックで問題ないと確認できれば大丈夫だな。
「じゃあ、行こうか」
英花の転移魔法で下層のマーキングポイントへ跳ぶ。
前回マーキングした最新のポイントは7層だがダンジョン内なので魔力消費は少ない。
転移後に休憩することなく、そのまま探索を続ける。
「これだけ広いのに、まだまだ終わりじゃないって初めてだよね」
真利は延々と続くダンジョンに挑むのは初めてか。
俺と英花は日本に戻ってきた時に経験済みだからな。
まあ、あれはフィールドダンジョンだったから通常のダンジョンとして考えれば俺たちも初めてということになるか。
「ミケの話じゃ8層でも終わりじゃないんだろ」
「下手をすれば10層以降もありそうだな」
「その場合は守護者もスゴいのがいそうだね」
「それはどうかな」
真利の予測に懐疑的な返答をする英花。
「えー、こんなに大きいならダンジョンコアも大きいはずだよね」
「通常よりは大きいだろうが空間拡張が桁外れだから何とも言えないな」
うちのフィールドダンジョンも掌握する前はそうだった。
これだけあからさまだと経験済みの身としては笑うしかない。
「そちらにリソースを使って守護者を強くできないことは珍しいことではない」
これだけ潜っても出てくる魔物は2層からずっと同じ魔物のままだからその可能性は高いものと思われる。
ちなみに魔物の種類はオークとミノタウロスだ。
1層はオークだけなので誘い込む意図があるのだろう。
その割には湧き部屋も用意されていたりと殺意が高めだけどね。
「そうなんだー」
「真利の予測通りということもあるから油断はできんがな」
どちらに転ぶかは今のところ不明だ。
「ただいま戻りましたニャン!」
不意のタイミングでシュバッと現れるミケ。
だが、みんな慣れたもので誰も動じない。
「10層を発見しましたニャ!」
「やれやれ、どこまであるんだか」
呆れてため息も出やしない。
「ミケよ、魔物の種類は変わったか」
「ハイですニャ。完全に入れ替わってますニャン」
「ほう」
英花が不敵な笑みを浮かべ目で先を促した。
「ワーウルフとマッドモールですニャー」
「殺意を上げてきてるなぁ」
「サービスが悪くない?」
真利がなんだかトンチンカンなことを言ってくる。
「何を言っているのだ、真利?」
英花も思わずと言った様子で怪訝な表情をして問いかけている。
「だって、今まで肉々しいラインナップだったのに肉ゼロだよ」
「あー、そういうこと」
言いたいことはわかったが今それを言うことだろうか。
「これは少し方針を考え直した方がいいかもな」
「どういうことだ、涼成?」
「今の時点で俺たち以外がここまで到達することは考えられないだろ」
「遠藤大尉たちでも?」
真利が聞いてくる。
今の大尉たちのチームならオークの湧き部屋でも対応できる実力があると見ているからだろう。
その見立て自体は間違っていない。
「よく考えろ。俺たちだって隅々まで見て回ったら、ひとつの層で半日仕事なんだぞ」
「そうだな。たとえミノタウロス相手に後れを取るようなことがなくても野営を続けてここまで来るのは厳しい」
俺の言葉を英花が補足してくれた。
「そうかな」
真利はピンとこないようで首をかしげている。
「往復しなきゃならないだろ。行きよりも帰りの方が疲労が蓄積している分キツいということも忘れるなよ」
「それに地図作成スキルなしでセーフエリアを探しながら探索するのはかなり消耗するぞ」
「俺たちはダンジョン内で転移しているから何の問題もないけどな」
「ううっ……」
真利が呻きながら小さくなっていく。
見落としていた部分を含めて再考した結果が出たようだ。
脱線した話を本来の方へ戻すとしよう。
読んでくれてありがとう。
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