96 遠征ふたたび・大阪攻略の成果は
今日も大阪のダンジョンに潜る。
結構な滞在期間になっているけど梅田ダンジョンは未だにクリアできていないんだよね。
あの広さで3層で終わらないどころか先がまだまだあるとか想定外もいいところだよ。
まあ、他のダンジョンも隠し階段から続く下の階層があったけど。
大阪のダンジョンって秘密主義なのか?
そんな風に勘繰ったくらいだ。
同じような性質のダンジョンコアが大阪に集中しただけだとは思うが、比較するためにはダンジョンを消滅させないといけない。
寂れているならともかく利用者の多いダンジョンは生活の糧としている人が多いので、そういう訳にもいかないよな。
小さいフィールドダンジョンはいくつか潰して回ったけど。
大きめの所は潰すのではなく小さい所で手に入れたダンジョンコアと入れ替えて弱体化させたりもした。
最初に掌握したのは道頓堀ダンジョンで、ここは2層までだったため探索もすぐに終わった。
難易度も高くない。
初級から中級の冒険者向けである。
ここは発見した隠し階段の報告をしたよ。
「えっ、隠し階段ですかっ!?」
興奮気味に聞いてきた受付の人はお姉さんではなくオジさんだった。
「場所はこのあたりです」
適当な手書きの地図にマークした部分を指差して隠し階段の見つけ方などを説明していく。
最初こそ動揺していたオジさんはすぐに表情を引き締めて聞いていた。
「具体的な説明をありがとうございます」
説明が終わると丁寧に礼を言われた。
「2層はホブゴブリンが出てくるので初心者は気をつけた方がいいですよ」
1層に出てくるゴブリンより体格が良いものの見た目が大きく変わらないので誤解されやすい魔物だ。
ゴブリンにどうにか勝てる程度であればボコボコにされてしまうだろう。
「わかりました。注意喚起が必要ですね」
ここでは守護者の情報は伏せた。
隠し階段の報告だけでも目立っているのにボスのことまで報告したら騒ぎが大きくなる。
そのうち誰かが報告するだろうということでスルーした。
ちなみに道頓堀ダンジョンのボスはゴブリンキングだ。
簡単に言うと、オークに対するオークキングみたいな存在である。
これに勝つためにはレベル2桁にならないと難しい。
オークキングほどではないとはいえスピードもパワーも1桁レベルで太刀打ちできるものではないし取り巻きもいるからだ。
もしかするとダメージを与えられることもあるかもしれないが、倒しきる前にパーティの中に犠牲者が出るだろう。
次に掌握したのが4層の頂点閣ダンジョンだった。
地下1階に受付とダンジョンの入り口がある一方で元からあった食品メーカーのアンテナショップが残っている。
顧客は冒険者と一般人が半々といったところか。
冒険者以外がダンジョンの入り口近くまで気軽に来られるのはここだけなので観光客が多い。
地元冒険者もノリがいいので観光客と一緒に写真に写ったりしている。
俺たちは声をかけられても地元民じゃないからと断ったけどね。
地元というのが大事なようで、しつこくせがまれたりはしなかったのは幸いだ。
ここでも2層につながる隠し階段を発見すると驚かれた。
「道頓堀だけじゃなかったんですね!?」
受付のお姉さんが驚愕して数秒ほど意識を飛ばしていた。
目の前で手を振ってようやく我に返ったくらいだ。
「失礼しました!」
直立して謝罪してきたのには苦笑させられたけどね。
俺たちは上官じゃないって。
こんな調子だったから3層の報告は後日にした。
時間の都合で4層の攻略はできなかったし日を改めて報告すればいいだろうってことでね。
そして……
「3層だけでなく4層まであるのですか」
前回のお姉さんとは別の落ち着いた感じの人が受付にいたので驚愕はされなかった。
「隠し階段じゃなかったので、すぐに見つかりましたよ」
「なるほど。普通に探索していれば見つかる訳ですね」
「3層から魔物が変わります」
1層と2層ではゴブリンと頭突きウサギという初級ダンジョン定番の魔物だったが3層からはガラッと変わり中級者でも油断できないのが出てくる。
「3層と4層の魔物はマッドモールです」
マッドモールは小型犬サイズのモグラだ。
魔法を併用して高速で地面を掘って移動するのが他の魔物とは異なる点だろう。
敵の近くまで接近したら地面から飛び出して突進してくるため発見しづらく冒険者たちから恐れられている。
地中魚雷なんてあだ名まであるくらいだ。
小さいからと侮っていれば大ダメージをもらってしまうだろう。
「ちょっと待ってください」
それまで冷静に話をしていた受付のお姉さんが慌て始めた。
「マッドモールなんですね? あの地面から飛び出してくる」
「そうですよ。そのマッドモールです」
「あんな危険な魔物がいる階層を2層分も回ってきたのですか?」
信じられないものを見るような目をしている受付のお姉さん。
どうやら俺たちが思っている以上にマッドモールは危険視されているようだ。
この調子だとボスがギガモールだと知ったら、どうなることやら。
コイツはマッドモールの親玉的存在で自分では地面に潜らないくせにマッドモールを操り攻撃してくる厄介な魔物である。
しかもサイズは牛並みとデカくて突進攻撃は闘牛のそれより威力があると言われている。
それだけ突進力があるということだ。
「これ、ドロップアイテムです。買い取りお願いします」
ドサッと積み上げた魔石と爪と毛皮は結構な量がある。
「本当に行ってきたんですね」
唖然としながらも査定を始める受付のお姉さんであった。
「あなた方は私が考えるよりもずっと強いようですね。だからといって油断していると痛い目を見ますよ」
どうにもお節介な人だがありがたいね。
こういう人を決して煙たがってはいけない。
冷静に判断を下せる人のアドバイスは貴重だよ。
「まあ、気をつけているつもりですよ」
安全マージンは多めに取っているからね。
この前のULJダンジョン2ndは緊急事態だったからちょっとギリギリのところはあったけど。
頂点格の次が全3層のULJダンジョンだった。
頂点閣ダンジョンより浅いけど、その分広いから手間取ったよ。
ここでもやはり2層は隠し階段だったことで驚かれた。
「ここもですか?」
今までより大きな反応じゃ無くなっていたけどね。
情報共有されているから可能性はあると思われていたのかもしれない。
「ええ、2層の魔物は1層とは異なってました」
「報告お願いします」
「1層のコボルトに対して2層はサーベルウルフでした」
コボルトは犬の頭をした人型の魔物で、体格はゴブリンに近いが素早さで勝っている。
その分、腕力で劣っているのでゴブリンとは攻略法が異なってくる。
「それはまた危険な魔物が出ますね」
サーベルウルフはかつて地球に生息していたと言われるサーベルタイガーの狼版といった感じの魔物だ。
後ろ足が短く太いため狼にしては遅い。
ただ、跳躍力があるので長い牙を上から刺してくるジャンプアタックは要注意である。
この日は3層まで行けなかったので報告はここまでだった。
後日、訪れた際も3層については言わなかったけどね。
魔物は同じくサーベルウルフだったし、ここは道頓堀や頂点閣より広いので奥までいける冒険者はそうそう出てこないだろう。
俺たちがそれに該当すると思われても困る。
ちなみに守護者はウルフベアだった。
狼の頭を持つ熊といった姿をしておりパワーファイターだ。
オークキングと同格だが力がある反面スピードがない。
だからといって与し易いという訳ではない。
毛皮で守られているから防御力は上回っており、生半可な攻撃しかできない場合は倒しあぐねるだろう。
ここに至れる冒険者は当面現れないと思うけどね。
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