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94 遠征ふたたび・タコパって何だ?

「魔王様、お疲れ様っす」


 ダンジョンから出てきたところで英花が顔なじみになった冒険者に声をかけられた。


「お疲れ」


「今日は上がりっすか」


「ああ。そうだがなにかあるのか?」


「これから情報交換会をかねたタコパしよて話になっとるんですけど、魔王様たちも一緒にどないでっしゃろ」


「タコパ? 何だそれは?」


「たこ焼きパーティの略ですわ。たこ焼きだけやのうてお好み焼きとか焼きそばも作るんですけど」


 たこ焼きという単語を耳にして真利がビクッと反応した。

 お好み焼きと焼きそばでもさらに体を震わせる。


「ひっ」


 地元冒険者が真利の形相を見て短く悲鳴を上げた。

 完全な誤解なんだけどね。

 すごく興味があってニヤけそうになるのを必死に堪えているだけだから。

 英花が地元民との交流窓口みたいになっているので真利は地元民に慣れる間がなくて人見知り継続中なんだよな。

 難儀な話である。


「あー、心配いらないから」


 慌てて俺がフォローに入る。


「たこ焼きとか大阪名物の食べ物に興味があるだけだよ」


「そ、そうなんや……」


 引きつった頬でぎこちなく愛想笑いを浮かべる地元冒険者。

 怖い思いをさせて申し訳ない。

 真利も内心ではそう思っているのだろうけど表情は変わらぬままだ。


「ほな、ええ店押さえたんで良かったらどないですか?」


 勇気を振り絞って真利に尋ねる地元冒険者はチャレンジャーだと思う。

 表情は変わらぬままだったけど真利もゆっくりとうなずくことで返事をした。


「私には聞かないのか」


「えっ、魔王様は無しですか!?」


 一緒に行動するものと思っていたらしい地元冒険者が驚いている。


「冗談だ。真利が行くなら私も涼成も行かないはずがない」


 返事を受けて地元冒険者がホッとした表情を見せる。


「ほな、自分が案内しますさかい行きまひょか」


 切り替えも素早く軽い感じで同行を促してくる。

 メンタル強い奴だな。

 思わず苦笑が漏れるが、それは英花も同じようだ。

 真利はそれどころじゃないようだけど仕方ない。

 とりあえず今日の晩ご飯は決まった訳だし案内してもらうとしよう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「おう。そんな訳やから3人追加で頼むわ」


 案内しながら電話をかけている地元冒険者。


「せやで。魔王様と魔神様と神執事の兄ちゃんや」


 色々とツッコミどころのある会話内容である。

 英花が魔王様なのは大阪に来て間もない頃からのことなので良いとして、真利や俺の呼称が決まっているのはどういうことなのだろうか。

 自称した覚えはないしリクエストしたこともない。

 真利の魔神様は彼らが抱いてしまったイメージと英花の魔王様が影響してのことなんだろうが、俺の神執事ってのはというのはどういうことだ?

 さっぱり分からん。

 まあ、わざわざ由来を聞くこともないだろう。

 そのうち呼ばれなくなるさ。


「前におごってもろたから今日はワイらが勘定持つて皆に言うといてや」


 あまりに高額だったからか、ずっと気にしていたらしい。

 気に病みつづけるのは良くないだろうし彼らの気遣いは素直に受けておこう。

 英花と真利も同じように思っているようで視線を交わすとうなずいている。

 そうと決まれば地元冒険者たちには後で礼を言わないとね。


「ここですわ」


 途中で地下鉄に乗ったりして案内してもらい到着したのは年季の入った店舗だった。

 外から見る限りは下町情緒あふれる食堂という感じなんだけど夜はお酒も出すようで居酒屋的な営業もしているらしい。


「ホンマはお好み焼き屋なんやけどタコパするから言うて貸し切りにしてもろたんや」


「いいのか?」


「大丈夫ですわ」


 英花の問いに自信たっぷりに答える案内くん。


「ここの店主が親戚やっちゅう仲間がいてるんでオッケーもろとります」


「そういうことか」


 ならば気兼ねなく楽しめるか。


「だが、お好み焼き屋でたこ焼きはできるものなのか?」


 そっちの問題もあったな。


「できまっせ」


 これまた自信たっぷりに答える案内くんだったが次の言葉は些か疑問を感じるものだった。


「ここはテーブル席に鉄板置いてない珍し店やからたこ焼き器が持ち込めますのや」


「おい、持ち込みはダメだろう」


「それも心配いりまへん。店主の指示でっさかい」


「意味が分からん」


「材料は用意してやるからたこ焼きは自分で焼けて言われてますねん」


「つまり支払いは材料費のみということか」


「たこ焼きに関してはそうですな。せやけどお好みと焼きそばはちゃいまっせ」


 そっちは普通の支払いになるようだ。


「よくわからんが了承を得ているなら構わないか」


 英花が確認するべく俺たちの方を見てきたのでうなずいておく。


「ほな、入りまひょか」


 案内くんがガラガラと店の引き戸を開けた。


「連れてきたでー!」


 案内くんが店に入るなりの第一声。

 どうやら貸し切り状態のようだ。

 店内はそれなりの広さがあるにもかかわらず席の大半が埋まっている。

 前の料亭での食事会の時よりも明らかに多い。

 あの後から知り合った冒険者たちもいるからね。


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


 どよめきが大音量で帰ってきた。

 あ、これはいかん。

 俺の斜め後ろで身構えていた真利がガチガチになっている気配が伝わってくる。

 千里眼で後ろを見ると魔神様のあだ名の由来となったであろうスゴい形相だ。


 歓迎の挨拶があちこちから出ていたが急にボリュームダウンした。

 気付いた面々がビビってお口チャック状態になったからだろう。

 そして波が引くように静かになっていく。

 彼らの言う魔神様のお怒りモードに気付く者が1人2人と増えていったからだ。

 気付かない者もいたが、隣にいる仲間から聞いて強制的に知らされる結果となり静かになる。


 1分とかからず店内は静まりかえり気まずい沈黙が流れる。

 このままだと、せっかく招いてもらった身としてはいたたまれない。


「あー、真利は──君らの言う魔神様は怒ってる訳じゃなくてビックリしただけだ」


 そう説明すると少しずつだが緊張感漂う空気が柔らかくなっていく。

 完全に解きほぐされるまでにはまだまだ時間がかかるだろうが、とりあえずは入店しても大丈夫そうだ。

 そうやって入店したが空いている席は店の中央で一番目立つ場所だった。

 これは周りの冒険者たちにも真利にも緊張が強いられるポジションじゃね?

 今更変われと言えないからそのまま席に着くが真利の周りだけ距離感があるのは気のせいではないだろう。


 結局、今宵も真利は皆から距離を取られてしまうのであった。

 人見知りを克服したいと思っている割には毎回と言っていいほど同じようなパターンになるのは何なんだろうね。


「今日は酒はなしやけど、たこ焼きは思いっきり焼いて食うて帰ってや。ほな乾杯!」


 案内くんの音頭で乾杯をしてタコパが始まる。

 宣言通りアルコールはなしだけどね。


「これ、使てやー」


 地元冒険者の1人が俺たちのテーブルにたこ焼き器を置いてくれた。

 四角くてカセットボンベを入れて使うタイプのようだ。


「ガスは電気より火力あるからすぐに焼けるんやで」


 あと店でやる場合はコンセントの問題もある。

 店に持ち込まれたのはすべてガスを使うタイプばかりだった。


「ほな、焼くんは自分がやらせてもらいまっさ」


 案内くんがそう言ったところでピキッと固まった。

 またしても真利がすごい形相になっていたからだ。


「やってみたいのか?」


 俺が問うとコクリとうなずいた。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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