91 遠征ふたたび・焦ってるのかね?
その後、俺たちの予想通りULJの地下にできたダンジョンは統合自衛軍の管理下に置かれた。
何故かすでにダンジョンの名前も決まっているらしい。
やけに気が早いと思ったら、何処かのネット掲示板で提案されたものをまるっと採用したとのこと。
その名もULJダンジョン2nd。
俺が考えたのとまったく同じとか最初はちょっと信じられなかった。
なんにせよ2ndはまだ調査中で冒険者が入れるような段階ではない。
大阪滞在中に解禁されるようなことはないだろう。
早くても数ヶ月後とかそんなものだ。
だから2ndのことは気にせず大阪市内のダンジョンを色々と回ったよ。
そして今日は3回目の梅田ダンジョン攻略の日である。
「聞いてますよ」
入場登録の手続きをしようと受付に行ったらお姉さんに声をかけられた。
「何をです」
そういや前に休まないのかと聞いてきたお姉さんだ。
俺たちのことを覚えていたんだな。
免許が大阪ではいない上級だからか。
「大阪市内のダンジョンを荒らし回っているそうですね」
「……人聞きが悪いですね」
「あら、ごめんなさい」
フフフと笑いながら言われてもあまり真摯さは感じられないんですがね。
嫌な感じはしないので冗談で言ってるというのはわかるけど。
「観光半分で来ていますから、ちゃんと休んでいますよ」
「そのようですね」
「え?」
「ULJは楽しめましたか?」
「どうして知ってるんです!?」
さすがに驚きを禁じ得ない。
もしかしてストーカーなのかと勘繰ったくらいだ。
「アナタたちは有名人なんですよ」
上級の冒険者ってのは思った以上にマークされるんだなと思ったのだが。
「ULJの地下にダンジョンができた日はちょうど後輩が非番だったんですよね」
「はあ」
どうやら自衛軍から監視されていたとかではないらしい。
「ダンジョンができた際に地面が陥没しましたよね」
「そんなこともありましたか」
無駄な気もしたけど一応はとぼけておく。
その後輩が俺たちを目撃したのだとしても他人の空似ということで……
無理だよなぁ。
高身長の美女2人にチビの俺というアンバランスな組み合わせに加えて英花は天然の金髪だ。
目立つなと言う方が無理があるわけで印象に残らないわけがない。
「あそこで救助活動に加わって名も告げずに去った3人の男女がいるって話題になったんですよ」
「あー、そうですか」
「次の日、担当部署に現れたからビックリしたみたいですよ」
そう言って受付のお姉さんはおかしそうにクスクスと笑った。
「………………」
「以降は大阪市内の冒険者組合で次は何処に来るのかって話題で持ちきりでしたから」
えー、何それと言いたい気分だ。
偶然にしてもできすぎなんだけど仕込みとも思えない。
俺たちからしてみると実害はあまりないとはいえ運が悪かったというところか。
からかわれるのは勘弁願いたいところではあるけれど。
「さて、あまり脱線しているわけにもいきませんね」
受付のお姉さんが表情を引き締めた。
「入場登録は完了しました。お気をつけて」
「どうも」
思った以上に動揺していたようでロクな挨拶もできずに受付を離れた。
ダンジョンの入り口の方へ向かう。
「ども。今日は梅田ダンっすか」
途中で見知った顔に声をかけられる。
いつぞやの晩ご飯を共にした冒険者の1人だ。
「ああ。そっちは潜らないのか」
梅田以外のダンジョンで何度か会ったことがあったことから気軽に挨拶を交わすようになった。
ちょっと地元民に近づいたような気がして嬉しくなる。
「メンバー待ってますねん」
ソロで梅田ダンジョンに潜る地元冒険者はいないよな。
そんな風にたわいもないことを考えていると、その冒険者がそっと近づいてきた。
(気つけた方がええですよ)
声を潜めて忠告してくれる。
(何をだ?)
(レッドバイソンの連中が手下大勢連れてさっき中入っていきましたわ)
(ふーん)
(張井さんらの入場登録するんを見てから連中も慌てて登録してました)
張り込んでいて登録に向かったところで自分たちもってことか。
話し込んでいる間に先を越されたらしい。
(何人か外に残してますけど)
俺たちが本当に入場するかを確認するためか。
とすると中で何かしらやらかす気は満々なんだろうな。
梅田ダンジョンの初日に恥をかかせたことの意趣返しでも狙っているのか?
だとしてもダンジョン内で冒険者同士のケンカなどは厳しく禁止されている。
命に関わることだからね。
もし違反すれば免停もあるのだけど、あの連中に常識的な行動を求めるだけ無駄だろうなぁ。
場合によっては証拠隠滅くらいは考えそうな気がする。
要するにダンジョン内で殺害して放置するってことだな。
死ねばダンジョンはさほど時間をかけることなく死体を吸収してしまうし。
行方不明になっても魔物のせいにしてしまえるからPK狙いの連中には好都合だと言える。
(アイツら、今まで暴力沙汰とかやらかしたことあるのか?)
(際どいトラブルは多いんですけど表だってはさすがにないですわ)
でなきゃ冒険者免許の剥奪もあり得るよな。
(せやけど色々とヤバい噂は飛び交ってるんで無いとも言えませんのや)
(わかった、気をつけておこう。情報サンキュな)
(いえ、こんくらいは当たり前のことですやん)
恐縮する冒険者に別れを告げて入場する。
確かに俺たちが動くと周りにいた冒険者の何人かが動いていた。
俺たちの後をつけてくるつもりなんだろう。
あわよくば挟み撃ちにしようって腹づもりか。
梅田ダンジョンは構造が複雑なのに果たしてそう上手くいくかな。
まさかと思うが、入り口付近でPKを狙ってくるつもりか?
さすがにあり得ないと思うけど非常識な連中は何をしでかすかわからんからなぁ。
「英花、真利、奴らすぐに仕掛けてくるかもしれん」
いつも通り一方通行の音声結界を構築してから2人に注意を呼びかけた。
「常識のない輩は思いもよらないことをやらかすからな」
「どう考えてもPK狙いだよね。バカなの?」
「バカなんだろうな。おそらく連中は半殺しにしてから脅迫で専属契約を求めるつもりだろ」
「まだ諦めてなかったんだー」
「聞くところによると何組かは契約解除して内海氏から紹介された弁護士が交渉しているそうだ」
英花の情報は初耳だ。
皆でフグを食べた際に何人かと連絡先を交換していたし地元冒険者たちに聞いているのだろう。
「だから連中は焦ってるのか」
このまま専属契約者が減り続ければ大阪の観光業界で取ってたアドバンテージを失ってしまいかねない。
黒幕がレッドバイソンの連中を焚きつけているといったところか。
PKまで狙っているのを知ってなお連中を使おうとしているのかは不明だけど。
「そのようだ。このままだと雪崩を打つように契約解除されかねないからな」
「それなら解除した人たちの方が危ないんじゃない?」
真利が疑問を呈してくる。
「もう、そういう段階は過ぎているのかもしれないぞ」
「どういうこと?」
「有り体に言ってしまえば普通の手段じゃ止められないから俺たちに契約させて再び取り込もうって腹なんだろ」
「ひと組ずつ対応するより、地元冒険者たちと仲良くなった我々を上手く利用しようと目論んでいる訳だ」
「ほえー、そんなこと考えてたんだ。無理だと思うけど」
真利もなかなか辛辣である。
俺も否定はしないけどね。
だって連中の思惑というか策がザルだもんなぁ。
読んでくれてありがとう。
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