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9 臭いに今後に問題山積?

「とにかく」


 英花が真剣な面持ちでズイッと迫ってくる。

 やけに近いんですがね。

 ただ不思議なことにゾンビ臭は増したりしなかった。

 英花の方が臭いを落とせているのだろうか?

 同じように浄化を使っていたのだけどな。


「今はこの臭いを何とかしたい」


 そんなことはなかったようだ。

 どうしようもないという絶望感がある一方で、これは臭いを落とすための鍵となるかもしれないという期待感もある。


「そうだな。今後の方針とか話している場合じゃない」


 マジで臭いからな。

 戦闘中の激臭と比べればはるかにマシだが、今の状態がずっと続くのは嫌すぎる。

 この状態じゃ今夜は眠れそうにない。


「涼成はあと何回くらい浄化を使える?」


 あれこれ考えていると英花が尋ねてきた。


「全身を完璧にやろうと思ったら2回が限度だと思う」


 臭いが消えないせいで何度も浄化したせいだ。


「私はあと1回できるかどうかだ」


 英花がガックリと肩を落とした。

 俺と英花では髪の長さが違うから、その差が響いているんだと思う。


「迂闊なことはできないな」


 しばらく待てば魔力も回復はするだろうけど、浄化1回分が回復するまで待つ間に入る臭気ダメージがバカにならん。

 こうやって話している間もダメージがあるんだが、すでに無駄なあがきをした後だ。

 浄化できる回数も残りわずかだし慎重にならざるを得ない。


「そうは言っても鼻がやられているから原因を突き止めるのも楽じゃないぞ」


 楽じゃないどころか至難の業だなんて反射的に思ったのだが。

 ふと頭の片隅に引っかかるものを感じた。


「どうした、涼成?」


「いや、ずっと同じ臭いが続くなんてあり得るかなと思ってな」


「鼻が麻痺してるんだから、しょうがないさ」


「それなら匂わないと思わないか?」


「どうだろう」


 俺の疑問に英花も考え込む。


「ちょっと試してみる」


「おい、いま迂闊なことはできないと言ったばかりだろう」


「俺は失敗してもまだ1回分の余裕があるからな」


「それはそうだが、大丈夫なのか?」


 英花の心配をよそに俺は今までとは少し違う設定で浄化の魔法を使った。

 俺の推測通りならば頑固な悪臭は改善するはず。


 浄化が完了したタイミングで俺はスンスンと鼻を鳴らして臭いを嗅いだ。

 ゾンビ臭がない訳ではないが鼻の奥にこびりつくようだった臭いが消えている。

 残っている臭いも周辺に飛んだ飛沫の臭いだろう。

 それを確認するべく念押しするように再び嗅いでみた。


「どうだ、涼成?」


 不安げな面持ちで英花が聞いてくる。


「成功だ」


 ニッと笑う。


「マジで!?」


「マジで」


「どうやったんだ!?」


 鬼気迫る形相で英花が迫ってくる。

 先程よりも距離が近いのは、それだけ必死な証拠だろう。


「落ち着けよ。教えないとは言ってないだろ」


 俺は英花の両肩を押して遠ざけながら言った。


「これが落ち着いていられるかっ」


 グイグイ来るので押し返すので一杯一杯だ。

 こんな状態で説明しても頭に入るとは思えないんだが。


「間近に迫られたら説明しづらいって。自分で妨害しているようなもんだぞ」


 妨害という言葉が効いたのか英花がピタリと止まった。

 ただし目力の圧は増している。

 このまま黙っていると視線で体が射貫かれてしまいそうだ。


「体の内側に浄化をかけるだけでいい」


 さっさと俺がやったことを告げると英花が目を丸くさせて固まってしまった。

 もしかして意味がわからなくて考え込んでる?

 シンプルすぎて伝わらなかっただろうか。


「鼻と気道と肺だよ。臭いの粒子が原因だ」


 もう少し具体的にと言葉を選んで説明した途端。


「ええ──────────っ!」


 再起動した英花が絶叫レベルで驚きの声をあらわにしていた。


「やればわかる」


 その言葉で英花が真顔に戻り魔法を使い始めた。

 俺は魔力の流れを感じ取りながら無言で待つだけである。

 いや、どうせなら感動してほしいな。

 という訳で俺も浄化の魔法を使う。

 対象は周辺に飛び散った飛沫だ。

 これが消えればゾンビどもは素材になっているので臭いを発するものは存在しなくなる。


 俺がサクッと浄化する中で英花の魔法行使はまだ魔力を練り上げる段階だった。

 遅いとは言わない。

 魔物を倒すときのような表情で魔力を制御しているもんな。

 魔力の残量が気になるが故に慎重にならざるを得ないのだろう。

 そんな中で練り上げられた魔力が外に放出されず英花の上半身に浸透していった。

 どうやら魔力切れを起こすことなく無事に魔法が使えたようだ。

 まあ、全身に使った訳じゃないから浄化してもまだまだ余力はあるはずなんだよな。


「どうだ?」


 俺の時と同じように鼻を鳴らして臭いを嗅いだ英花はパチクリと目を大きく見開いた。


「驚いた。あの嫌な感じが綺麗に消えるなんて」


 そう言ってもらえるとギリギリまで魔力を使って周囲のヘドロじみた腐敗した飛沫を浄化した甲斐があるというものだ。


「とにかく、こんな目にあうのは二度とゴメンだな」


「それには同意する」


 そう言いつつも浮かない顔をする英花。


「昼からはどうする、涼成? 夜まで組み手をしてもレベル5には程遠いと思うんだけど」


 確かにゾンビ集団を全滅させてようやくレベル4になった現状では簡単にレベルアップなどできないだろう。

 かといって近辺ではゾンビしか確認できていない。

 俺も英花も無駄に魔法を使ってしまったせいで気兼ねなく浄化が使えるような状態ではない。

 活動しながらだと魔力が回復するのに時間がかかるからなぁ。


 いっそ休んで魔力の回復に専念したとしても今からだと完全に日が暮れてしまう。

 夜になってからゾンビ狩りなんてしたくない。

 あいつら夜の方が活発になるからね。


「もっと早く臭いの原因に気付けていたらなぁ」


 思わずボヤいてしまった。


「今更だろう。それにまともな武器もない現状ではどうにもならないのは同じじゃないか」


「相手と距離を取って魔法で攻撃する手がある」


 さすがに今回と同規模の群れを相手にするのは距離を詰められるリスクがあるので少ない集団を探す必要があるけどね。


「その手があったか。レベルアップは難しいと思うが経験値稼ぎにはなるな」


「そういうこと」


 頭の痛い問題である。

 俺たちが考えなしだったせいで半日のロスをしたのだ。

 ただでさえ食糧難だというのに、これは痛恨のミスだった。


「思うんだが」


「ん、どうした?」


 不意に英花が何かを思いついたように話しかけてきた。


「ゾンビを倒すのは別に魔法でなくてもいいんじゃないか」


「なにぃ!?」


 意外な提案をした英花は少し離れた場所に視線を向けていた。

 その先にあるのはゾンビを倒したことで得られる素材、魔石だ。

 とはいえレベルの低い魔物がドロップする魔石など質が低くて魔力も大して込められない。

 魔力が込められる許容量が魔物の強さと比例するのだから当然か。

 故にゾンビの魔石では全部かき集めても今の俺たちの魔力を全回復させるには到底及ばないのは目に見えている。


 だが、英花は俺が考えたのとは違う解決方法を思いついたのだろう。

 魔石を使ってそれをする?


「あ……」


「気付いたみたいだな」


 ニッと笑う英花。


「魔石を使った投石か」


「そうだ」


 投げて攻撃に使うとか普通はしないので思いつかなかったよ。

 異世界じゃ魔道具を動作させるエネルギー源として使っていたし。


「今の我々に魔道具は必要ないし問題ないさ」


「それはそうだけど、これを投げてもゾンビの頭を吹っ飛ばすのは厳しいぞ」


 投げる勢いしだいでは貫通はさせられるが、その程度でゾンビは止まりはしない。


「そこは抜かりないさ。魔力を過剰充填状態にして投げればいい」


 英花は自信満々に答えた。


読んでくれてありがとう。

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