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87 遠征ふたたび・真利の新技

「ここですニャン」


 ミケの案内で守護者の間の前まで来た。

 そういえば守護者が何者かを聞きそびれていた。


「見ての通りの守護者ですニャ」


 守護者の間はいつぞやのオークキングの時のように扉のないタイプであった。

 暗闇に閉ざされているが軽く目を凝らせば大きくて長いものがいるのが見て取れる。

 それの姿はメガバイパーにそっくりだったがサイズがまるで違う。

 全長十メートルは超えておりアレの3倍はあるようだ。


「あれはギガバイパーだな」


「メガバイパーの親玉?」


 真利が聞いてくる。


「その認識で問題ない」


「そうなんだ」


 大きくなった相手を前にしても真利は動じていない。

 ベテランの冒険者でも戦慄するような相手なんだけどな。

 遠藤大尉でも、あの姿を確認した瞬間に撤退を決意すると思う。

 頼もしいと言えばいいのか自信過剰と見るべきなのかは判断に迷うところだ。


 現に英花は見た瞬間にチッと舌打ちしていた。

 それだけ嫌な相手ということであり俺も同じ気持ちである。

 油断していい相手ではない。


「よりにもよってコイツか、面倒な」


 嫌そうに英花が吐き捨てる。


「守護者の間にドアがないだけマシじゃない?」


 真利がそんなことを言ってフォローしようとしてくるが効果は薄い。


「何がいるか確認できたのは僥倖だが、それだけだ。仮に引き返せるタイプだとしても我々は逃げ帰ることはできないのだぞ」


 ULJの閉園時間までに討伐しなければならない。

 不利になったときに一時撤退してリトライするくらはいできるかもしれないが。

 それとて回復に時間を奪われることを考えると何度も繰り返していられない。


「そんなにヤバい相手なの?」


 真利は英花の機嫌の悪さを感じ取ったのか俺に聞いてきた。


「デカくなったぶん、鱗が堅いんだよ」


 剣鉈で斬りつけても傷ひとつつかないくらいには。


「重装甲ってこと?」


「そ。堅牢そのものだ。それに加えてスタミナお化けでもあるな」


 真利が俺の返答を受けて「うわぁ」という顔をする。


「剣鉈だと通用しないかなぁ」


 不安そうに手にした武器を見る。


「頑丈な鱗のおかげで普通に斬りかかっても傷ひとつつかないぞ。中はそうでもないけどな」


「十メートル超えの体でそれだとシャレになんないよー。HPもたっぷりあるんでしょ」


「言っただろ。スタミナお化けだって」


 追い打ちをかけられ真利の顔が一気に辟易させられていますと言わんばかりになった。


「毒もあるんだよね」


「当然だな。幸か不幸か毒自体は強力になったりはしていない」


「元からヤバい毒だよ。何の慰めにもなってなぁい!」


 秒で反論されてしまった。


「そうか? デカいから噛みつき攻撃のタイミングは見切りやすいぞ」


「大きくなったぶん、スピードも上がってるでしょ」


「まあ、そうだな」


 そんなのは想像するまでもない話だ。

 だって守護者に選ばれるくらいなんだし。


「涼成、真利の武器を何とかした方が良いのではないか」


 英花が口を挟んできた。

 刀を持たせていないからだろう。


「魔法で援護してもらおうと思っていたんだがな」


「後衛にする訳か。しかし、アレの突進力からすれば一瞬で距離を詰められる恐れだってあるだろう」


「その時は剣鉈に魔力を流すかナックルダスターで殴るかすればいいさ」


「おい、それはないだろう」


 英花が抗議してくるが、ちゃんと理由はある。


「刀の扱い方なんて教えてないだろ」


「むう」


 俺の反論に英花が短くうなった。


「使い慣れない武器だとヘマをすると?」


「そこまでは言わんがロクなダメージを与えられないと思う」


「そういうことか」


 俺だって考えなしではないんだよ。

 あまり深く考えず臨機応変というのが俺のスタイルってだけだ。

 誰だ? 行き当たりばったりなんて言うのは。


「ひとつ思うんだけど」


 真利がおずおずと小さく手を挙げながら言ってきた。


「なんだ、何かあるのか?」


「うん。重装甲の敵は斬撃より打撃かなって」


「ふむ」


 英花が考える仕草を見せながら俺の方を見てきた。

 ギガバイパー相手に打撃での攻撃をしたことがないからだろう。


「俺もアレは首を切り落とすしかしたことないぞ」


「なんだ、涼成もか」


「だってアイツらが出てきたのは中盤以降だったからな。後半なんて雑魚みたいな扱いだったし」


「うむ、私の時もそうだった。序盤に出てきたのであれば結構な強敵だったと思うのだが」


「確かに。最初に出てきたときは一撃じゃ切り落とせなかった」


「私もだ。今の我々だと何回斬りつけなければならんだろうな」


「さあて、どれくらいだろう。2回や3回では無理だというのはわかるけどさ」


「二桁は確実だろう」


「下手をすれば数十回なんてこともありえるか」


 むしろその可能性が高い。


「ならば打撃で弱らせるという考えも悪くないかもしれんな」


「弱らせるんじゃなくて倒すんだよ」


 真利が強く主張してきた。


「それはさすがに無理だろう。トドメは首を切り落とさないとな。アレはしつこいぞ」


 少し困惑の色を見せつつも英花はかつての経験を元に語る。


「頭とか心臓を潰せばいけるよ」


 フンスと鼻息も荒く力説する真利。


「いや、アイツらは心臓を潰したくらいじゃ死なない」


 動きは鈍ると思うけど魔石の補助があるから心臓が潰れたくらいじゃ止まらない。

 普通のヘビよりも本当にしつこいのだ。


「頭は?」


「さすがに死ぬが堅いなんてもんじゃないぞ。だから首を切り落とすんだ」


「それなら大丈夫。我に秘策あり、だよ」


 この状況で楽しげに笑みを浮かべながら、そんなことを言う真利である。

 普通に考えてギガバイパーの頭骨を叩き割るほどの打撃を入れようとすると今の俺たちでも拳がやられる。

 それで向こうは、おそらくヒビが入るかどうかだからなぁ。


「秘策ってナックルダスターで殴るとかだったら論外クラスのアウトだぞ」


「違うよぉ」


 真利が唇を尖らせて抗議してくる。


「じゃあ、どんな秘策なんだ」


 ここで確かめておかないと、ぶっつけ本番で通じませんでしたじゃ笑い話にもならないからな。

 英花も黙って聞いてはいるけど視線は冷ややかだ。


「うーんと、言葉だと上手く説明できないなぁ」


 とか言いながら真利は魔力を練り始めた。

 属性魔法を付与させた状態で殴るってことか?

 それならそう言うだろうし、何か違和感がある。

 そう思って黙って見ていると地属性の魔法で石柱を作った。


 なんだ?

 もしかして石柱とサンドイッチにする格好でぶっ叩くとかじゃないよな。

 それだってギガバイパーには通用するはずもない。

 真利の意図が読めずに英花の方を見たが頭を振って肩をすくめられた。

 俺と同じように皆目見当がつかないようだ。


 で、真利はというと再び魔力を練り上げている。

 利き腕に集めているようだけど属性が感じられない。

 純粋に魔力だけを集めているようだ。


(何をするつもりだ?)


 謎だらけすぎて思わず声が漏れてしまった。

 さすがに真利の集中を乱すのはマズいと思ったので声は潜めたけれど。


(さてな。今はナックルダスターも外しているから武器に付与する訳でもなさそうだが)


 そのつもりはなかったのだけど英花が返事をした。

 俺と同じように推測でも答えは出せないようではあったが。


「行くよ!」


 気合いの入った真利の声に視線を戻す。

 次の瞬間、真利は石柱を掌で叩きつけた。


「掌底か」


 しかし、ただの掌底ではない。

 掌から放出された魔力の波が石柱内で反響している。

 やがて石柱にヒビが入りボロボロと崩れ落ちた。


読んでくれてありがとう。

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