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86 遠征ふたたび・見られていないから使える手

 このダンジョン──仮にULJダンジョン2ndとする──はレベル28となった今の俺たちでも危険だ。

 出てくる魔物に対応することは、さほど難しくはない。

 だが、連戦することになれば話は別。

 厄介な敵がいることもあって消耗が激しくなるのが目に見えている。

 その状態でより強いであろう守護者と戦うのは避けたいところだ。


 しかしながら、このダンジョンから撤退するわけにもいかない。

 それをしてしまうと自衛軍の調査が完了するまでは立ち入り禁止になってしまう。

 しかも調査が終わって再び入れるようになる保証は何処にもない。

 むしろ誰も入れなくなる恐れがある。

 そんなことになるくらいなら、ここは消滅させるのがいいだろう。

 陥没した地面の復旧までは俺たちにはできないけど地下空間はなかったことにできる。

 ULJの運営会社にしてみればとんだ災難だけど、こればっかりはどうしようもない。


 問題は、ここの攻略をできるだけ短い時間で終わらせる必要があるということか。

 俺たちが下ってきた坂道に誰かが入ってくるのは時間の問題だ。

 興味本位で入ろうとする考えなしの連中がいれば、すぐにでも来る恐れがある。

 そういう連中が被害にあっても自業自得なだけなんだが警察とかだった場合はさすがに罪悪感が湧いてしまう気がする。


 念のため結界を構築して入ってこられないようにしておこう。

 それでもULJの閉園までには何とかしないと面倒なことになる。

 危険度が高いここでリアルタイムアタックすることになるとは思わなかったよ。


 結構、ヤバいから何か手を打たないとな。

 今よりも強力な武器を使うというのは無理だし。

 威力の高い魔法を使うのは魔力の消費が増加するので連戦は難しくなる。

 正直、猫の手も借りたいところだ。

 しかしながらミケは補助はできても魔物に大ダメージを与えるのは得意ではない。

 そうなると導き出される結論はひとつ。


「なあ、英花」


「どうした、涼成」


 俺が英花に声をかけるといぶかるように視線を返してきた。

 考え込んでいた時の表情が残ったままだったんだろうな。

 ちょっと深刻に考えすぎたかもしれない。


「紬を呼べないか」


 コルンムーメの紬なら戦力として申し分ない。

 このULJダンジョン2ndでなら呼び出しても誰かに見とがめられるようなことにもならないし。


「なに?」


「眷属召喚のスキルを使えば呼べるだろう?」


「ああ、それはもちろん。あれは距離も魔力も関係ないからな」


 突然の提案だったせいか英花は戸惑い気味に返事をした。


「だが、屋敷の警備はどうする」


「ここの攻略をする間だけだから、そっちはリアに頑張ってもらうということで」


「ふむ」


 英花は即答を避け思考の海に潜っていく。

 潜水している時間はさほど長くはなかったけどね。


「わかった。今の状況を考えるとその方が良さそうだ」


 そう返事をして含み笑いをする英花。


「なんだよ」


「ずいぶんと真剣に考え込んでいると思ったら、これを考えていたんだな」


 どうやら英花にあれこれと思考を巡らせていたことがバレたようだ。


「まあね」


 照れくさくてそっぽを向く感じで返事をしたんだけど、英花は追及することなくスルーしてリアや紬と念話でやり取りし始めた。

 すぐに了承を得られて紬が召喚される。


「お待たせしました」


 眷属召喚で呼び出された紬の第一声である。

 言うほど待ってはいないんだけどね。

 屋敷でいるときのようなメイド服ではなく作業着姿だったもので違和感がある。

 単に見慣れていないってだけだとは思う。


「武器はどうする」


 そう問うと用意してやる必要はないらしく紬は頭を振る。

 腕を斜めに構え手を顔の前あたりに持ってくると爪を伸ばした。

 鋭く切れ味の良さそうな爪だ。

 まるで何処かのアメコミヒーローのようだね。

 すぐ普段の長さに戻していたけど。


 パーティ編成して紬を一時的に俺たちのチームに組み込んだら準備完了。

 梅田ダンジョン2ndに出てくる魔物などの情報も共有済みだ。

 そこからミケの案内で奥へと進む。


 紬を戦力に加えて最初の遭遇戦はワーウルフの群れであった。

 向こうは8体と、こちらの倍はいる。


「通路で数だけいてもね」


「油断するな、涼成」


 英花に釘を刺されてしまった。

 そのやり取りの間にワーウルフたちの数体が突っ込んできた。


「ガアアアァァァァァッ!」


 俺の目の前に来た奴は大口を開けて首筋に噛みついてくる。


「わざわざ反撃しやすい所に飛び込んできてくれてありがとう」


 言い始めたぐらいの時点で剣鉈が狼頭の口腔に飲み込まれていく。

 自爆したようなものだ。

 飛び込んできた勢いが残ったままだと腕まで口の中に突っ込んでしまいそうだったので蹴りを入れて動きを止めた。


 これで一丁上がりなんだが終わりではない。

 仲間の体に隠れて控えていた奴が接近していた。

 跳躍し頭上を飛び越えてくる。

 剣鉈を引き抜くタイムラグを利用して俺の背後から攻撃しようって腹か。

 死角と筋肉の抵抗で仲間の体を二重に利用しようなどと小賢しい。


 俺は剣鉈から手を離して振り返り様に抜刀して真上に切り上げた。

 体を斜めに傾けた窮屈な姿勢での居合抜きとなったが横に刀を振るうとフレンドリースラッシュになりかねないからね。

 なんにせよ2体目も始末した。


 血振りをして納刀する。

 英花たちも各々が2体目の相手をしているところだったから加勢をする必要はないだろう。

 紬は爪でワーウルフをズタズタに切り裂いていて終わる直前だったし。

 真利はナックルダスターでアッパーカットを決めるとワーウルフのアゴを消し飛ばした。

 あれは魔力を込めて殴ったな。

 残る英花はワーウルフの攻撃の要である両腕を切り落としていた。

 それでも戦意を失わないワーウルフにもたじろぐことなく剣鉈を振るう。

 後は時間の問題だろう。


 読み通り戦闘が終わった。

 ドロップアイテムも拾い終わって一息つく。


「レベル20を切ってたら厳しい相手だったね」


 真利がそんな感想を漏らす。


「ここに自衛軍が調査に来たらアウトだな」


「遠藤のチームでもダメだろう」


 英花も俺の意見に賛同する。


「絶対に今日で潰さないと」


「ああ、急ごう」


 そうして再びミケの案内で守護者の間を目指してダンジョンの奥へと進む。

 途中で何度か遭遇戦はあったが被害はゼロだ。


「涼ちゃん、メガバイパーのドロップアイテムはどうしよう」


 メガバイパーとの戦闘でドロップしたアイテムを前に真利が困り顔で聞いてきた。

 毒蛇だけあって毒腺がドロップアイテムに含まれるんだよな。

 結構な数を倒したので、かなりの毒腺が目の前にある。

 これでも牙の方が少し多めなんだけどね。

 牙か毒腺かを選べるならすべて牙にしたかったくらいだ。


 というのも奴らの毒は出血毒と神経毒の強力なやつだから使い勝手が悪い。

 魔物相手に使うという手もあるけど、そんなものを他の冒険者に目撃されたら出所を詮索されるのは目に見えている。

 そんなものを回収するメリットはないよな。


「捨てておけばいいさ。そのうちダンジョンに吸収されるって」


「あっ、そっか。そうだね」


 手を伸ばしかけていた真利が拾うのをやめた。

 ドロップアイテムはすべて回収しなきゃならないなんて決まりもないんだし不要品は放置するに限る。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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