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85 遠征ふたたび・オークが雑魚レベル?

「行くぞ」


 英花が決断した。


「ええっ、未知のダンジョンだよ?」


 真利が目を丸くさせて驚きをあらわにする。


「関係ない。ここでグズグズしていると入れなくなる」


「そうだな」


 新しいダンジョンができた場合、自衛軍が時間をかけて調査をするのがお決まりのパターンだ。

 その間、冒険者であっても中に入ることはできない。

 入れるようになるのは中の危険度が査定され周辺整備などしてからということになる。

 例外があるとすれば、今回のように自衛軍が駆けつけていない状態だけだろう。

 もしくはフィールドダンジョンか。


『では、中を見てきますニャン』


 ミケがいつものごとくシュバッと素早い動きでダンジョンへ飛び込んでいった。

 俺たちも迷っている暇はない。

 誰かに止められちゃ意味ないからね。

 現場が混乱している今がチャンスだ。

 規模が小さいなら、そのまま掌握するとしよう。


「けど、このまま入るのは良くないな」


「どういうことだ?」


 珍しく険のある表情で英花が詰め寄ってくる。


「落ち着けよ。目撃者がいっぱいいる状況で入ったら後で面倒なことになるぞ」


「くっ、そうだな。で、どうする」


 焦りを感じさせる表情を見せる英花が納得しながらも性急に事を進めようとする。


「なにかヤバいのか、ここ?」


 あの神社のフィールドダンジョンの時のように呪いでもかけられた状態なのかもしれない。

 だとすれば俺たちも把握しておいた方が解決しやすくなるだろう。


「わからない」


 英花が頭を振る。


「だが、自衛軍に任せるのはダメな気がする」


「直感でそう思ったってことか」


 そういうのは信じた方がいいよな。

 何もなければ、それで良かったと笑って終わらせればいいだけのこと。

 もしも英花の嫌な予感通り良くないことが起きたのであれば即応するまでだ。


「だったら幻影の魔法を使おうか?」


 あまり危機感を感じていなさそうな真利が聞いてきた。

 一応はマズいことが起きつつあると俺たちの雰囲気から察したのだろう。


「頼む。けど、それだけじゃ足りないな」


「そうなの?」


「真利は気にせず幻影を使え。向こうへ俺たちが向かったように見せればいい」


 あえて人が集まっている方に視線を向けた。

 こんな場所だと目立つから指差すのは無しだ。


「わかった」


 そうして幻影の魔法で俺たちの幻を指し示した方へ向かわせつつ、こちらには光学迷彩の魔法を使った。


 で、俺は幻影の方に認識阻害の魔法をごく弱めにかける。

 幻が歩を進めるごとに魔法の強度を上げていけば目撃されても何処に行ったのかなどは気にとめられなくなるという寸法だ。


「もういいぞ」


 真利に幻影の魔法をやめさせる頃には誰にも注目されなくなっていた。

 後で警察などが情報を集めても知らない間にいなくなったことになるだろう。


「では、行くか」


 英花が先導する格好で少し急な感じの坂を下っていく。

 このあたりはまだダンジョンの領域という感じはしない。

 後で整備されれば、緩やかな勾配に変更されるだろう。


「武器とか防具はどうしようっか」


 背後から真利が聞いてきた。


「次元収納に仕舞ってあるだろ」


「あっ、そうだね。じゃあ、セーフエリアで装備しないとね」


 いま下っている坂道は並んで歩くと窮屈になるような場所だからな。

 セーフエリアに行き着くまでは魔法で対応するしかないだろう。


 話している間に坂道は終わり開けた空間に出た。

 何もいないが気配は漂ってくる。

 この場に繋がっている通路の方から感じられるものだ。


「これは濃厚だな」


 濃密な気配がするということは強敵だということだ。

 ここではオークが雑魚扱いされてもおかしくない。


「ああ、来て正解だった。これは自衛軍の手に余る」


 俺もそう思う。

 遠藤大尉たちなら対応できるとは思うが他の自衛軍では全滅もあり得るだろう。


「大丈夫かなぁ」


 真利が心配そうに呟いた。


「俺たちという意味でなら大丈夫だろ。それより武装しようぜ」


 次元収納から防具を出して装着し剣鉈と刀を装備する。


「この間、作った刀も使うんだ」


「ここなら誰かに見られる恐れがないからな」


 ちなみに用意した刀は大阪遠征前に次元収納から出てきた少量のミスリルと鋼鉄とで作成した代物である。

 こんなこともあろうかと思って作っておいたのだってね。


「でも、どうして剣鉈も装備するの?」


「さっきみたいな狭い通路で遭遇戦になったら刀なんて振り回せないだろ」


 パッと見、この先は狭い通路ではなさそうだけど奥がどうなっているかは不明なので油断は禁物だ。


「そっか。じゃあ弓を使うのはやめた方がいいよね」


「そうした方が無難だな」


「うん、わかった」


 そんなこんなで装備を選択し終えて探索を開始する。

 数分ほどで最初の遭遇戦となった。


 出てきたのはミノタウロス。

 入り口付近で出てくる魔物としては強い方だ。

 梅田ダンジョンに出入りしている冒険者たちでは太刀打ちできないだろう。


「いきなりミノタウロスか。奥に行ったら何が出てくるやら」


 速攻で倒しはしたが先が思いやられる状況ではある。

 頭を痛めつつもドロップアイテムを拾い終わったところでミケが戻ってきた。


「ただいま戻りましたニャー」


 戻ってくるなり霊体モードを解除する。


「御苦労。で、首尾はどうだ?」


「そんなに広くないですニャン。真っ直ぐ守護者のところへ向かうなら1時間とかかりませんニャー」


 英花の問いに答えたミケの情報は朗報と言えた。


「でも、魔物は弱くないのばかりですニャ。戦いながらだと時間がかかりそうですニャ」


「それでミノタウロス以外には何が出るんだ」


「ワーウルフとメガバイパーですニャ」


 その回答に英花がチッと舌打ちした。


「面倒な」


「ねえ、涼ちゃん。そんなに危険なの?」


「メガバイパーが特にな。魔物でないバイパーの3、4倍くらいの大きさで、かなり強力な毒を持ってる」


「うわぁ……」


 真利の顔がしかめられた。


「図体がデカいから不意打ちは食らいにくいがな」


 そう言ったのは英花だった。


「むしろワーウルフの方が面倒だぞ」


 それは人によって見解が違うと思う。

 ただ、ミノタウロスよりは強敵だと言えるだろう。


「そんなに?」


 真利はビビり気味で聞いている。


「人狼と言えばわかるか? 端的に言えば二足歩行の狼みたいなものだ」


「映画とかで見たような感じかな。うん、わかるよ」


「奴らは素早く膂力も優れている」


「あー、それは強そうだね」


「単純な膂力ではミノタウロスの方が上だが奴らは速さで圧倒するからな」


 力任せの脳筋は対処の仕方がわかれば難敵ではない。

 が、ワーウルフは違う。

 奴らは言ってみれば手練れのハンターだ。

 ただ速いのではなく、そのスピードを生かした戦い方ができる。

 もしもワーウルフがミノタウロスと戦ったなら一方的に翻弄して勝つだろう。

 まあ、魔物同士が戦うことなど、まず考えられないのだけど。


「ミノタウロスより手強いんだね」


「そういうことだ」


 パン!


 英花の返事を聞いた真利が自分の両頬を叩いた。

 ビビりが入っていた自分に気合いを入れたのだろう。

 つまり、やる気になっているということだ。

 引き返すなら今のうちだと言おうと思っていたのだけど、これは無理そうだ。

 生来の頑固者である真利が気合いを入れて決断したことを覆させるなど至難の業どころの話ではない。


 ならば万が一の事故を防ぐためにどうフォローするかを考えるべきだ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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