83 遠征ふたたび・梅田ダンジョン2日目
翌日も梅田ダンジョンへ向かう。
受付で同じお姉さんが担当になって驚かれた。
「今日もですか!?」
「何か不都合でもありますか?」
「いえっ、そういうことではないんです。安全確保のためにも休んだ方が良いのではないかと思っただけですから」
大量にドロップアイテムを持ち込んだから疲れていると勘違いされたのかな。
「それはどうもご親切に」
とはいえ心配してくれたので礼を言っておく。
「明日は休みますので御心配なく」
別に休まなくても大丈夫なんだが、観光半分という建前できている以上はダンジョンに入り浸りだと矛盾してしまう。
という訳で当初より3日目のスケジュールは観光ということになっていた。
幸運にも昨夜は地元冒険者たちと食事を共にして情報収集できたから遊びに行く場所の候補は色々とある。
ユニバーサル・ランド・ジャパン──通称ULJ──は特にオススメされたので最有力候補だ。
今夜の食事の時に明日の予定を話し合うことになっている。
女子2人にショッピングを主張されるとULJではなくなってしまうが、さてどうなりますやら。
「明日は、と仰いますと長期滞在されるのですか」
「そのつもりですよ。梅田以外のダンジョンも行きたいですし観光もしようと思っていますので」
「そうだったんですね。明日はゆっくり楽しんできてください」
「ありがとうございます」
物腰の柔らかい感じの受付のお姉さんと話し込んでしまったな。
受付では軍服を着ていないせいで、ついお姉さんが軍人であることを失念してしまう。
よくよく考えると昨日はドロップアイテムの持ち込む量を自重すべきだったな。
内海氏が困っているからと調子に乗りすぎた。
このことが遠藤大尉に知られるとマズいかもしれない。
今更だが今日は持ち込みを控えるということで。
ゼロにするとあからさまだから半減させたくらいの量にしておこう。
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『こちらが隠し階段ですニャー』
ミケの案内で梅田ダンジョンの奥まで来た訳だが。
「これ、冒険者組合に報告できないよな」
「だよねー」
真利が脱力した感じの苦笑をしつつ同意する。
「よりにもよって奥の奥だよ。ギルドに知らせたところで誰が来るんだって話になると思うな」
迷いやすい梅田ダンジョンの奥地に階下へと下りる階段が隠されていた。
「おまけに湧き部屋の集まっている方だから、余計に人が来ないって」
「通り抜けなくていいからマシだけど、あふれ出すタイミングにかち合ったらダメだよね」
その場合は地元冒険者たちでは対処しきれず不幸な事故になりそうだ。
逃げても助かるかどうかはこの近辺の地図が頭の中に叩き込まれているかどうかにかかっている。
「それくらいはどうにかできるようにならないと結局は下の階層で通用しない気がするな」
「だとしたら意外に親切なダンジョンだね」
「そんな訳あるか」
俺は秒でツッコミを入れていた。
自己防衛システムが敵を寄せ付けないようになっている殺意高めなダンジョン相手に親切な要素は何処にもない。
真利はそのおかげで人が寄りつかないことを親切と言っているようだけど。
「いずれにせよ報告は義務ではないだろう」
英花が話を切るようなタイミングで言ってきた。
俺たちが言い合いにでもなったら、らちが明かないとでも思ったのかもね。
「そうだね」
真利もすぐに同意した。
「ならば言わなければいい」
「それもそうか」
逆に報告することで好奇心を刺激して確認しようと足を延ばす考えなしが出てくる恐れもある。
現状が梅田ダンジョンの奥は触らぬ神に祟りなしだと思われているなら、その方が好都合というもの。
それだけの実力がついてから来ればいい。
余計なことはしないに限る。
そんなやり取りをしている間に階下に到着した。
下の雰囲気は殺気が充満しているとでも言えば良いのだろうか、上よりも重苦しい感じがする。
「これはオークより強いのがいそうだな」
「何が出るんだろうね」
「異世界だと、こういう時のパターンはミノタウロスなんだが」
「どうやら正解のようだぞ、涼成」
英花が通路の先を剣鉈で指し示す。
そちらに目を向けると、こちらに向かって悠然と歩を進める牛頭の魔物がいた。
斧や棍棒などの武器を好んで使うと言われているが、連中も例に漏れず装備している。
「殺気の正体は奴らか」
「豚肉の次は牛肉なんだね」
真利が呑気なことを言っている。
ここに地元冒険者がいれば卒倒しかねない殺気を放っているのだが。
それだけ真利が強くなった証拠ではあるか。
あと、ドロップアイテムの予想は間違っていない。
奴らが残すのは魔石と高級牛肉と角、そして使っている武器。
これらが魔石とランダムでどれかがドロップする。
運が良ければ複数出ることもあるけどね。
「魔石も強さに応じたものだから期待できるぞ」
英花もすでに勝った後のことを考えている。
取らぬ狸の皮算用を始めるとは油断が過ぎないか。
とはいうものの、俺もドロップする武器は次元収納の肥やしになりそうだと考えたりしていたのだけど。
「おっ、来るぞ」
奴らが立ち止まって少しかがみ込むような体勢を取った。
「何?」
ミノタウロスの戦い方を知らない真利が聞いてきた。
「前を見ておけ。一気に距離を──」
詰めてくると言い切る前にミノタウロスが突っ込んできた。
「そういうことかぁ」
真利は不意を突かれる格好になっていたが、そこは英花がフォローした。
振り下ろされる棍棒の軌道を剣鉈の柄尻でずらす。
おかげで真利は慌てることなく間合いを取ることができた。
「英花ちゃん、ありがとー」
「いいから、そっちのを任せた」
「はーい」
そっちのとは本来であれば英花に向かってくるはずだったミノタウロスのことだ。
真利をフォローした英花を追撃しようとしていたので本来であれば無防備な姿をさらしたことになるのだが。
立ち位置を入れ替えることでその隙は消えていた。
あれなら大丈夫だろう。
俺は俺で残りの1頭に集中する。
少し後ろに下がれば斧の振り下ろしは空を切る。
ダッシュ攻撃のまま突っ込んで来れば良かったものを武器の攻撃にこだわるから楽に回避されるのだ。
オークより一回り大きな体躯でタックルなり頭の角を突き刺してくるなりすれば相応のダメージになったのだが。
まあ、それも当たればの話である。
3頭とも攻撃を外されたことで頭に血が上ったのだろう。
「「「ブモオオオォォォォォッ!」」」
雄叫びを上げて怒りをあらわにした。
こちらとしては知らんがなの心境である。
怒りにまかせて無茶苦茶に暴れられても面倒なので、さっさと始末しよう。
まずは地面にめり込んだ斧を手放さずにいる手を潰すべく手の甲を切りつけた。
腱を切れば武器を持てなくなるからだ。
ただし、コイツらは馬鹿力なので片手でも武器は振るうことができるのだが。
「ブモォッ!!」
それでも武器が持てなくなった右手を動揺して見てしまうくらいにはコイツらにも痛みの感覚はある。
それは大きな隙だ。
俺は奴の背後に回り込みつつ牛の脚を切りつけた。
膝裏を潰せばバランスを崩して倒れ込んでくる。
仕上げに魔力を流し込んで切れ味を増した剣鉈で首を切り落とせば一丁上がりってね。
英花や真利も俺とほぼ変わらないタイミングでミノタウロスを倒していた。
確かにオークよりは強いけど今の俺たちが苦戦する相手じゃないな。
オークキングよりは遅いし弱いからね。
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