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81 遠征ふたたび・ビビらせていたのか

「これをすべて納品されるのですか」


 受付のお姉さんが唖然とした表情をしている。

 大型バックパックいっぱいの高級豚肉を×3で積み上げたのだから無理もない。

 後方にいる冒険者たちからざわめきが起きていた。


「アイツらスゲー」


「俺らの狩り場じゃあれだけ集めるんは無理やぞ」


「奥に行ったんか」


「せやろな。それしか考えられへん」


「命知らずやなー。アイツらよそもんやろ」


「せや、それも今日はじめて見たで」


「ホンマかいな。普通は案内なしやったら迷うはずやのに」


「なんか上級の人らしいわ」


 情報を得るのが早いな。


「へえ~、若そうに見えるのに腕利きっちゅうことか」


「せやなぁ。初めてんとこでも迷わへんコツとか知ってるんちゃうか」


「お前、聞いてこいよ」


「アホ言うな。アイツらダンジョン入る前にレッドバイソンの連中と揉めてたんやぞ。関わったらロクなことにならんわ」


 俺たちに儲け話とか言ってきた連中はレッドバイソンというチーム名なのか。

 ヘラヘラ男からは想像もつかないな。

 奴は薄毛だったからピヨちゃんって感じだと思うが。

 他の連中も格好良さげな名前と釣り合いが取れていない風体だった。

 それでよくも英花を魔王呼びしたことを笑ってくれたなと思う。


「そうかぁ? 実力はあの人らの方が確実に上やんけ。赤牛の連中とか問題にならへんやろ」


 実際に奴らとぶつかることはないだろうが実力を知っておいて損はない。

 情報提供ありがとうと言いたいね。

 まあ、向こうは俺が聞き耳を立てているとは思わないだろうし、聞こえないように喋っているつもりなんだろうけど。


「お前はアホか。いくら実力があっても、いつまでもここにおる訳ちゃうやろ」


「そんなん関係あらへんわ。あの人らに色々と教わってワイらが赤牛の奴らを越えたらええねん」


 殊勝な心がけをした者がいるな。

 俺たちは若いからと侮られることはあっても教えを請いたいと言われたことはないんだが。

 とはいえ、それで教えるのかというと話は別だ。

 ダンジョンコアを掌握する目標に支障が出かねないからね。


「お前……、天才か」


「それはホンマええ考えやな」


「せやけど、あの人ら俺らが話しかけても断るんちゃうか」


「それなー。赤牛の奴らも専属卸の契約持ちかけとったけど、取り付く島もなかったで」


「一番背の高い姉ちゃんなんか、ひと睨みで小田の奴を黙らせとったしな」


「金髪の姉ちゃんも、杉吉のしつこい勧誘を完全にシャットアウトしてたで」


「マジかよ。杉吉はごっつうしつこいで」


「薄毛のくせになぁ」


「ホンマや」


「いっそのことハゲてまえっちゅうねん」


「いやいや、全部ハゲたら潔く剃ったとか言い出しかねんぞ」


「そんなん許されへん。カッパハゲになってまえ」


「それええなぁ」


 薄毛は奴のしつこさに関係ないと思うのだが不思議と盛り上がっている。

 ああやってノリで話を続けるのが彼らなりのストレス解消なんだろう。

 彼らの話に耳を傾けている間に精算は終わっていた。


「それでは指定の口座に振り込んでおきますね」


「ありがとうございます」


 対応していた真利が礼を言い、俺の方を見た。


「終わったよー、それじゃあ晩ご飯に行こっか」


「まあ、待て。まだ時間が早いだろう」


 そう言ったのは英花だ。


「えーっ、いまから観光に行くのぉ?」


 真利は目を丸くさせたが、都市部の観光は夜にこそという場所も少なくない。

 ライトアップされた名所や繁華街などだね。


「そうじゃない」


 何か思惑ありげな笑みを浮かべる英花だ。


「冒険者は情報が大事だろう」


「そうだね。だから下調べはちゃんとしてきたよ」


 確かに真利は遠征計画を立てた時からネットで入念に調べていた。

 半分は観光名所や名物についてだったけど。


「それでも生の情報は必要だと思わないか」


「……スゴく嫌な予感がするんだけど」


「大丈夫さ。真利のことはちゃんとガードするから」


「やっぱり地元民に声をかけるんだぁ」


「もしかして後ろで俺たちのことを話していた連中か」


「教えを請いたいらしいからな」


 どうやら英花も彼らの話を聞いていたみたいだ。

 先程の笑みを考えると単に情報を得るだけとは思えないんだよな。

 何かしら別の思惑があるはず。


「真利、諦めろ。どうしてもダメなら先にホテルに帰るか?」


 恨めしそうに俺の方を見てくる真利だが、矛先を向ける相手を間違えてるぞ。

 プランニングしたのは英花であって俺じゃない。

 むしろ逃げ道を用意したというのに、この仕打ちはどうなんだと思ったさ。

 そんなことを思っていると地元の冒険者たちがざわめき始めた。


「怖えー」


「やっぱ、おっかねえわ」


「あの兄ちゃん、よく平気でいられるもんやな」


「それどころか平然と相手してるやんか」


「同じチームメンバーだから慣れてんのか?」


「そうちゃうか。ええ度胸しとるわぁ」


「あんなん俺やったら無理やで」


「上級まで行くようなお人はやっぱちゃうんやなぁ」


 どうやらヘラヘラ男たちと揉めた際に真利が凄んだことが地元冒険者たちの間で広まってしまっているようだ。

 チラリと真利の方を見るが今にも泣きそうになっているのをどうにか堪えている。

 そうだとわかるのは幼なじみの俺くらいなものだろう。

 何も知らない相手だと激怒しているように見えるらしい。


 妙なことになってしまったな。

 そして真利には罪悪感を覚えるというかいたたまれない気持ちになった。

 朝の作戦がこんなにも影響を及ぼすなんて思いもしなかったんだ。

 何を言っても言い訳になるので俺からは何も言えない。

 真利から責められたとしても反論することなく受けよう。


 結局は本人が根性で飲み込んでしまったのだけど。

 後に聞いた話では人見知りを克服する良い機会だと割り切ったらしい。

 とはいえ、覚悟を決めたからといって即座に変われるものでもないからこの時の結果は言わずもがなである。


 俺が真利の様子に気を取られている間に英花が動いていた。


「諸君、我々に話があるようだな。聞こえていたぞ」


「「「「「うっ……」」」」」


 こういう時の英花は有無を言わさぬ迫力がある。

 その凄みに気押されて適当な口実を作って逃げることも叶わない。

 表面上は、にこやかに話しかけているだけなんだけどね。


「なーに、取って食おうなどとは言わない。安心するといい」


 口調も穏やかなんだけど妙に威圧感があるんだよな。

 地元の冒険者たちは少しも安心できておらず蛇に睨まれた蛙状態で固まっていた。

 さすがは魔王様と言うべきなのかね。


「朝の連中が気に食わなかったからって地元民を威圧するなよ、魔王様」


 俺がそう言うと、ようやく重苦しくなっていた空気が少し軽くなった。

 それでも冒険者たちは動けずにいる。

 本気でビビってるな。


「すまないね。変なのにからまれて虫の居所が悪いんだ」


 謝るとようやく動けるようになった者が出始める。


「もし良かったら怖がらせた詫びに晩飯をおごらせてもらえないか」


 英花の提案は意外だったようで即座に反応できた者はいなかった。

 俺だってマジかって思ったもんな。


『こんなので上手くいく訳ないだろ』


 俺は念話で英花に抗議した。


『そうでもないようだぞ、涼成』


 ニヤリと笑みを浮かべながら返事をする英花。


「ホンマにええんですか」


 冒険者たちのうちの1人が声をかけてきた。


『ほら見ろ』


 まさか英花の思惑通りに話が進むとは、ちょっと予想外だったよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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