77 遠征ふたたび・到着した日の夜
大阪に到着したのは日が暮れてからのことだった。
苦戦はしなかったけど神社のフィールドダンジョンであれこれ手間取ったせいだろう。
なんにせよ、あの場所で呪いが復活することはないと断言できる。
呪いをかけた奴には遭遇しなかったものの奴が呪いで得たものは消えるはずだ。
ちょっと時間がかかるかもだけど。
「駐車場の大きいホテルを取って正解だったねー」
真利がしみじみとうなずきながら言った。
チェックインする前に晩ご飯をということになって駐車場で車を停めたのだけど、すごく狭くてビックリしたのだ。
「数は停められるけど、あれはないよな」
隣の車がすごく近くて降車するのに苦労させられたのだ。
キャンピングカーが大きいのも、その理由のひとつではあるのだけど。
ただ、車がファミリーカーだったとしても狭いと言わざるを得なかったのは事実だ。
「キャンピングカーで来たのは失敗だったな」
英花がそんな感想を漏らした。
「でも、日常の足にしている軽自動車で長距離移動はしたくないぞ」
「だったら新しい車を買っちゃう?」
真利が贅沢なことを言い始める。
本人にしてみれば買えてしまうからそうは思わないのだろう。
「お前はカーマニアか」
思わずツッコミを入れていたよ。
「買うならキャンピングカーが軽自動車のどちらかを処分しないとな」
英花も3台は多いと思ったのだろう。
「置いておく場所なら余裕があるのにどうして?」
屋敷には駐車場所はいくらでもあるからこその疑問なんだろう。
以前は真利の爺さんがトラクターに始まる様々な農業機械を色々と所有していたからね。
その爺さんが亡くなった際にすべて売り払ったので空きスペースだらけになってしまったというわけ。
車を3台並べたとしてもガラガラ状態だから真利が不思議そうにするのもわからなくもない気はする。
いや、やっぱり理解できんぞ。
「乗る機会が激減するだろう。車だって乗ってやらんと哀れだぞ」
「そう?」
英花の説得のような言葉を受けても真利は共感できないようだ。
「車なんて乗らないとバッテリーがすぐに上がるぞ。オイルも循環しないから垂れ下がって壊れやすくなるだろうしな」
「そっかー。壊れるのは嫌だなぁ」
ようやく納得してくれた。
「そんなことより明日の予定を話し合うのだろう」
英花が脱線を終わらせろと言わんばかりに話題を強引に切り替えてきた。
食事の時は空腹が勝っていたから食べる方に集中していたので雑談だけに留まっていたんだよね。
「えー、お風呂はー?」
真利は後回しにしたいらしい。
今日はずっと車で移動だった上に予定にない戦闘もしたから気持ちはわからなくもないけどさ。
そんなことを考えていたら英花と真利の視線が俺に集中している。
「なんだよ?」
「予定を話し合うか風呂か選べ、涼成」
「どっち、涼ちゃん?」
2人とも俺に選べって言うのか。
勘弁してくれよ。
選ばなかった方から確実に恨まれるじゃないか。
「知らん。ジャンケンでもして決めろ」
俺が逃げるとジャンケンが始まって真利が勝った。
英花はぐぬぬ状態になってしまったが、渋々ながらも従うようだ。
という訳で必然的に俺もホテルの大浴場で入浴することになりましたよ。
平日のためか宿泊客が少ないらしく、ほぼ貸切状態だった。
「ふぃーっ」
大浴場で俺1人というのも寂しいものだ。
男湯なんだから2人が入れなくて当然なんだが。
「大阪に来て良かったなぁ」
誰に聞かせるでもない独り言を呟く。
ここから先が大変だとしてもそれはそれ、良いものは良い。
具体的に言うと晩ご飯だったんだけど。
事前情報なしに適当に入ったところが面白い店だったんだよな。
うどん屋だったんだけど何故かお好み焼きと串カツもメニューにあったのだ。
全部を頼むことなんてできないよなと思っていたら、満喫セットなるものがメニューにあるのを発見。
全部入りなんだけど串カツ以外は少なめだったので全部合わせて一人前の5割増しくらいの分量だった。
これなら何とか食べられるってことで全員で同じものを注文。
ちょっと食べ過ぎたけど味の方はセットの名前通りだったので満足している。
車に戻ってから胃薬に相当するポーションを飲んだので膨満感もすぐに収まったので今は特に苦しくもない。
「いよいよ明日は梅田ダンジョンの攻略初日かぁ」
この後、作戦会議だけどあんまり細々したことは決めない方がいいだろう。
大まかに方針を決めてダンジョンに挑み、そこから得られた情報を元に本当の意味で作戦会議をするべきだと思う。
つまり、大したことは決められないってことだ。
英花は気負っていたように見えるので作戦会議の時の様子しだいではなだめる必要があるかもしれない。
気持ちはわからんでもないけどな。
梅田ダンジョンの掌握ができればレベルはかなり上がると思う。
仮に期待外れの結果に終わっても難関ダンジョンをクリアすれば自信につながるのは間違いない。
東京の方へ遠征に行っても短期間で攻略できそうな気がするくらいにはね。
あそこは広大だと評判だから梅田ダンジョンのようには行かないとは思うけど。
そんな風にあれこれ考えている間に充分ぬくもったのでのぼせる前に湯船を出る。
脱衣場で体を拭いて身支度を調え外に出たが2人はいなかった。
先に部屋に戻ったか、まだ出ていないか。
しばらく様子見しようと思い自販機でコーヒー牛乳を買って飲んでいると英花たちが女湯から出てきた。
「待たせたようだな」
「いや、今さっき出てきたばかりだ」
「涼ちゃん、なに飲んでるの?」
「コーヒー牛乳」
ストローの刺さった紙パックを見せた。
「えー、風情がないなぁ。風呂上がりのコーヒー牛乳は瓶じゃない?」
「無いんだから仕方ないだろ」
そう言っている間に英花も紙パックのジュースを購入していた。
「紙パックの定番はイチゴ牛乳だろう」
知らんがな。
俺の中の謎の関西人がツッコミを入れた。
「あーっ。英花ちゃん、フライングだよぉ。私も買うもんね」
真利が選んだのはミックスジュースだった。
「風呂上がりにミックスジュース? 聞いたことないけどな」
イチゴ牛乳もだけど、まだ牛乳つながりがあるだけわかるような気がするのだ。
けれど真利はドヤ顔である。
もしかして関西では風呂上がりの定番はミックスジュースなんだろうか。
「大阪に来たらミックスジュースを飲まないとね」
「意味がわからん」
「涼成、大阪の隠れた名物らしいぞ」
そうだったのか。それは知らなかった。
「よく知ってたな」
「風呂の中で真利から聞いた。おかげでのぼせるところだったよ」
英花が苦笑している。
その様子だと他にも色々とうんちくを聞かされたみたいだな。
「何やってんだか」
その後、ジュースを飲み終わって部屋に戻り作戦会議となったのだが。
俺が風呂で考えたことを伝えると強く反対されることもなく受け入れられた。
英花をなだめる必要もなかったけど風呂でクールダウンできたのかね。
本人はのぼせそうだったと言ってたけど。
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