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75 遠征ふたたび・西へ行こう

 初めての遠征から帰還してしばらくは近場でダンジョン攻略をしていた。

 いくつか有名どころのダンジョンを巡るつもりが最初の樹海ダンジョンで帰ってきたのが原因だ。

 イレギュラーで遭難者の救出に向かうことになったのは俺たちとしても想定外だった。

 地元の冒険者チームが思った以上に疲弊していたのが帰ることになった原因である。


「今の状態で次のダンジョンへ向かうのは自衛軍に目をつけられるかもしれない」


「どういうことだ、涼成?」


「余所者がピンピンした状態で次のダンジョンへ向かって精力的に活動してたと知られたらどう思う?」


「また勧誘されそうだね」


 辟易した表情で真利が答えた。


「それだけなら、まだマシだな」


 険しい表情を見せる英花。


「マシって……、どんな酷いことがあるの?」


 恐る恐るといった様子で英花に問いかける真利。


「我々が実力を隠していることがバレかねない」


「あー、それはダメだよね。しつこくマークされそうだよ」


 説明を受けて納得した真利は諦観の感じられる溜め息を漏らした。

 もちろん、俺も同意見なので予定を取りやめて帰ってきた訳だ。


 そうして何日か休養していると見せかけて、うちのダンジョンでの訓練にいそしんでいた。

 それだけじゃなくて次の予定を練り直してもいた。

 本来であれば東京方面のダンジョンに向かう予定だったが次回の目的地からは除外。

 理由は遠藤大尉たちと鉢合わせる可能性が高そうだと思ったからだ。


 大尉は妙に勘のいいところがあるからなぁ。

 日を置かずに会うと俺たちのことに気付くかもしれん。

 勘繰りすぎだと言われそうだけど用心に用心を重ねても損はないはずだ。


 という訳で今回の遠征は表向きの名目を観光ということにして逆方向へ行くことに決定。

 ダンジョン攻略はするけど、観光のオマケということにしておく。


「西でダンジョンのある所か」


「関西だと観光名所の有名どころが多いよね」


 真利はそんな風に言うが知識に偏りがあるだけだと思う。

 昔、家族旅行で関西によく行っていたからね。

 土産話をよく聞かされたものだ。


「観光もいいがダンジョンがメインだぞ」


 浮かれ気味になっている真利に釘を刺す英花。


「あー、そうだった。ゴメンゴメン」


「まったく……」


 テヘペロで謝る真利に英花は嘆息する。


「じゃあ、大阪にしようよ」


「大阪というと梅田ダンジョンとか色々あるな」


 特に梅田は本物のダンジョンができる前から梅田ダンジョンという名があった有名な場所だ。

 地下街が複雑でよそから来ると確実に迷うと評判だったため、その名で呼ばれるようになったそうだ。

 今は地下街のさらに下にダンジョンができているため本物の方がこう呼ばれている。

 ちなみに地下街の方は梅田ダンジョン初級と呼び方が変わったそうだ。

 地元では略して梅ダン初級と言われているらしい。

 まるでパンダとレッサーパンダの関係みたいだ。


「難易度は高めだな」


「出てくる魔物は中級で対応できるくらいって聞いたけど」


「上の地下街に負けず劣らずの迷宮だそうじゃないか。舐めていると痛い目を見るぞ」


「そうだね」


「あと奥へ行くと魔物も強力なのが出てくるらしい」


 らしいというのは情報が少ないせいだ。

 迷宮で迷ったあげく強い魔物に遭遇して全滅することが少なくないという。

 まれに生き残りが出るがショックを受けているためか証言の信憑性が高くないそうだ。

 仲間が死んで自分だけが生き残ったんじゃ平気でいられるはずもないだろうし仕方あるまい。


「あんまり深いところには行かない方が良さそうだね」


「おいおい、俺たちの目的を忘れてるぞ」


 ボスを討伐してダンジョンコアを掌握するためのダンジョン攻略なんだから奥に行かないという選択肢はない。


「じゃ、じゃあ、マッピングが重要だね」


「地図作成のスキルがあるから必要以上にビビる必要はないぞ」


「そうなのぉ?」


 何故か真利はビックリしてあんぐりと口を開けているが、そんなに驚くようなことだろうか。


「中級スキルだからレアでもないと思うんだけどなぁ」


 異世界でゲットしたスキルの中では早い段階で得たものだ。


「私も持っているぞ。ダンジョン攻略には必須のスキルだからな」


「聞いたことないよ?」


「ほとんど無意識で使うようなスキルだからな」


 英花の言葉に俺もうなずく。

 実際、樹海ダンジョンでも使っていたし。


「熟達するとゲームのオートマッピングに等しいから筆記用具も必要ないんだ」


「ガーン! スゴすぎ」


 ショックを受けたのか真利は唖然としていた。


「言うほどスゴいか?」


 英花に問うが。


「当たり前すぎて、そういう感覚はないな」


「だよなぁ」


 使い慣れてしまうと呼吸をする感じで使っているので真利に驚かれる方が違和感を感じるのだけど。

 こういうのは人によって感じ方が違ってくるものだから、これ以上はとやかく言わない。


「何にせよ、梅田ダンジョンなら挑戦しがいがあるか」


「そうだな。経験値も稼げそうだ」


 腕が鳴るとばかりに英花が不敵な笑みを浮かべている。


「ボスはどんな魔物だろうね」


 真利が早くも思いを馳せているが、情報が皆無なので想像も満足にできない。


「難関迷宮だから幻惑系の魔物かもな」


 こじつけに近い形で英花が予想する。


「魔法が主体の魔物かもしれないよー」


 真利の意見も複雑な迷宮から連想したものらしい。


「強いのは間違いないだろうな」


「ああ、場合によっては撤退も視野に入れないといけないかもしれん」


 俺の言葉に英花もノータイムで賛同した。


「そういうの、わかるものなの?」


 真利が不思議そうに聞いてくる。


「どうやら空間拡張はあまりされていないようだからな」


 実際に行ってみなければ断言はできないが、流れてきた情報で判断するとそんな風に感じる。


「そのくせ、やたら広いと評判のダンジョンだ。ということは強力なダンジョンコアがある」


「強力なダンジョンコアのあるところ強い守護者あり、なんだね」


「そういうこと」


 真利も納得したようで表情を引き締めている。

 今から気合いを入れすぎても疲れるだけなんだけど。


「肩の力は抜こうぜ。タイムアタックする訳じゃないんだし」


「そうだな。腰を据えて挑んだ方が良いだろう」


「アハハ、そうだねー。ついゲームをしているときのクセで早く終わらせるつもりになってたよー」


 真利がはにかみながら笑っている。

 勇み足になったのが恥ずかしいようだ。


「観光がてら行くってことになるんだから、そのあたりも考えて計画を立てよう」


「それが無難か。1日2日で終わりそうもないしメリハリは大事だな」


「じゃあ私、新喜劇に行きたーい」


 おいおい……、ダンジョンに気合いを入れたかと思ったら今度は観光に前のめりになってないか?

 両極端というかメリハリがききすぎだろう。

 どっちも全力投球しすぎて早々にダウンするなんてことにならないといいんだけど。

 そのあたりは俺や英花が目配りする必要がありそうだ。


「ふむ、大阪というと食い倒れだと思ったのだが」


 真剣な表情で考え込む英花。

 串カツ、たこ焼き、お好み焼き、てっさ、カニ、とブツブツ呟き始めたし。

 こちらも気合いが入っている様子である。

 もしかして俺が2人の手綱を一人でコントロールしないといけないのか?


 なんだか、だんだんと怖くなってきたな。

 梅田ダンジョンの攻略、無事に終われる自信が無くなってきたぞ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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