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74 僕のダンジョン

 僕は小学生の頃からずっといじめられていた。

 切っ掛けは本当に些細なことだ。

 クラスでも目立たない方の僕が運動会の徒競走で隣のクラスの奴に勝っただけ。

 足の速さには自信があったからね。


 ただ、それが良くなかった。

 次の日から隣のクラスの奴に付け狙われるようになった。


「お前、ズルしてんじゃねえよ!」


「意味がわかんないんだけど」


「うるせえ! 50メートル走でフライングしただろうがっ」


「してないよ。してたら失格になるはずだよね」


「だからズルって言ってんだろうが! おかげで恥かいたじゃねえかよ!」


「怒鳴らなくても聞こえてるし」


「黙れっ! この犯罪者!」


「法律違反はしてないよ。ズルもしてない」


「うるせえ! うるせえ! うるせえーっ!!」


 最初は徒競走でズルをしたと難癖をつけられ罵られるだけだったけど、じきに小突かれるようになりどんどんエスカレートしていった。

 小学校を卒業する頃には殴る蹴るは当たり前だったよ。


 誰も助けてくれなかった。

 近くにいても通りがかっても見て見ぬ振りをするだけだ。

 隣のクラスの奴はケンカが強くて取り巻きも大勢いたから関わりたくなかったんだろうね。

 しかも僕は友達がいないから格好の標的だったわけだ。

 先生に言っても、まともに取り合ってくれなかった。


 おかげで地獄の日々だったよ。

 うちの親は共働きで多忙だったから相談することもできなかったし。

 まともに顔を合わせたのなんて年に何回あるかってくらいだったもんね。


 痛くて孤立無援だったけど自殺は考えなかった。

 死ぬのが怖いんじゃない。

 アイツらのせいで死ぬなんて絶対にしたくなかったからだ。


「どうして僕が死ななきゃならないんだ」


 死ぬべきはアイツらだ。

 絶対に僕じゃない。


 だから毎日アイツらを呪ったよ。

 隠し撮りした写真を印刷してコンパスの針で刺したりなんてのは定番の呪い方だった。

 刺さった場所を怪我すればいいと願いながら何度も何度も突き刺す。

 残念なことに効果が現れることはなかったけどね。

 写真を何枚印刷したのか覚えてないくらい何度もボロボロにしてやったんだけどな。


 中学生になれば何かが変わると期待したのだけど何ひとつ変わりはしなかった。

 いや、変わった点はあったか。

 悪い方にだけど。

 アイツの体格がどんどん良くなっていった。

 加減をすることを知らないバカだから殺されるかと思ったよ。


「し、死ぬ……」


「死ねばいいじゃねえかよ。クズ野郎」


 アイツの言葉に取り巻きたちが爆笑する。

 コイツらは人間じゃない。

 人間のクズという言葉すら生温い。

 だから死ぬべきはお前らなんだ。


 血反吐を吐いたことなんて一度や二度じゃない。

 それでも誰も助けてくれない。

 顔ぶれが変わった教師も何もしてくれなかった。

 顔にアザがあっても怪我だらけでも心配されることもなく、イジメの事実を告げても適当にあしらわれて終わり。


 誰も信用しないできない。

 自分を守れるのは自分だけだ。

 殺される前に逃げよう。

 だから僕は学校に通わなくなった。


 いや、学校に通わなくなったのはダンジョンを見つけたからだ。

 近所の神社にある鎮守の杜にできた小さなダンジョン。

 神社へと続く階段を途中でそれて足を踏み入れた場所にその入り口はあった。

 そんな場所には誰も入ろうとはしないだろう。

 僕のようにワラ人形を使って奴らを呪い殺そうとでもしない限り。


「うわぁっ、何だコイツ!」


 たまたま迷い込んで魔物に襲われた。

 運が良くなければ間違いなく死んでいただろう。


「来るなあっ!」


 恐怖と驚きで尻餅をつき魔物に飛びかかられたところを腕で顔をかばおうとしたら手にした五寸釘が刺さった。

 それが急所への一撃だったのはたまたまだ。

 だけど命拾いした。

 助かったことに安堵したけれど、偶然の一撃だけでは魔物は死ななかった。


「コイツ……、まっまだ生きて、るのか」


 致命傷を受けてなお殺意を失わないようで、ふらつきながらも上体を起こそうとする。


「こ、これが、魔物……」


 1年前、世界中にダンジョンができたというのは知っていたけれど、身近なものではなかったため他人事のように思っていた。

 それが目の前にいる魔物がダンジョンに踏み入ってしまったことを証明している。


「うっ、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 五寸釘が急所に刺さっても死なない魔物に恐怖を感じ、反対の手に持っていたハンマーで殴りつけた。

 ただただ必死だった。

 死にたくなかっただけだ。

 いじめられていたときには感じなかった恐怖がそこにあったから。


 殺さなければ食われる!


「死ねよっ! なんで生きてるんだよ! 来るなって言ってるだろ!」


 夢中でハンマーを何度も叩き込んでトドメを刺した。

 気がついたときには魔物は消えていた。


「どっ、どうだっ、僕の方が強いんだ!」


 残ったのはドロップ品と言い知れぬ高揚感。

 魔物を殺せた僕は強い。

 いじめてきた連中など恐れるに足りない。

 常識的に考えれば、生き物を殺したくらいでいじめてきた連中との立場が逆転することなどあり得ない。

 だが、相手は魔物で普通の生き物とは違うことを知る。


「経験値? レベルアップ? なんだかゲームみたいだ」


 魔物には経験値があり倒せばレベルアップするという事実を身をもって体験した。

 通常であれば魔物1匹でレベルアップすることはなさそうだ。

 僕はたまたま得たスキルの恩恵でレベルアップできた。


「スキル、英雄……」


 僕は選ばれたのだと思った。

 同時にもっと強くなってアイツらに思い知らせてやろうと復讐を誓った。

 3年分の恨みは万死に値する。

 奴らが死んで初めて釣り合いが取れるのだ。


 次の日から学校を休んでダンジョンに入り浸った。

 来る日も来る日も魔物を倒し続ける。

 気がつけばボスさえ倒せるようになっていた。


 中学を卒業する頃にはアイツらのことなど気にならなくなっていた。

 顔を合わせることがなかったからだ。

 そんなことより、もっと強くなりたい気持ちの方が勝っていた。


 なのにアイツらの方から僕のところにやって来た。

 僕がダンジョンに行くのは決まって夜中だ。

 他の誰かにダンジョンのことを知られたくなかったから。

 神社の近くでは見つからないよう注意していたけど自宅が近くなるとそうでもなくなっていたのが良くなかったらしい。


 取り巻きの1人に見つかってアイツが呼ばれた。

 そこから通り道にある廃工場に連れ込まれたけど、それは僕が拒否しなかったからだ。

 顔を見たら復讐心が再燃するのは当然だよね。

 人気のない場所に案内してくれるなら僕にとっても好都合だ。


「久しぶりだな、腰抜け。3年分のツケを払ってもらうぜ」


 すっかりゴツくなって不良然としたアイツが凄んできたけど魔物に比べたら可愛いものだ。

 少しも怖くない。

 3年分のツケって何だろうな。

 アイツから借金した覚えはないんだけど、アイツの中ではそういうことになってるのかな。

 理不尽が服を着ているような奴だからきっとそうなんだろう。

 バカに支払うお金なんて1円もないけどね。


「何か言ったらどうなんだ、ああっ?」


 返事はしない。

 こんな奴と話をするだけ無駄だ。

 僕は目的を果たすべく一歩踏み出した。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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