73 誰にでも魔法が使えるとは限らない
初の遠征から帰宅して日も浅いある日の夕食時のことだ。
『ですから魔法なんてものは実在し得ないのです』
テレビを見ていると、そんな音声が聞こえてきた。
画面を見ると何かの情報番組のようでゲストとして呼ばれた大学教授がドヤ顔で語っていた。
『それってあなたの主観で語ってますよね』
別のゲストが反論している。
最近、テレビに出てくるようになった何をしているのかよくわからない人物だ。
『魔法を使っている動画は色々とアップロードされていますよ』
『そんなものは画像を加工しているに決まっている』
『中にはそういうのもあるようですが加工していないと証明されているものもありますよ』
『だったらトリックだ。手品と同じだ。まやかしだ』
この教授は一昔前に非科学的なものを徹底して否定することで有名になった人だな。
久々に見たけど、相変わらず独演会に持ち込もうとしている。
『じゃあ、どういうトリックなのか解明して見ている全員にわかりやすく説明してください』
ただ、もう1人のゲストが阻止するので自分のペースには持ち込めないようだ。
『どうして私が手品の種など解き明かさねばならんのだ』
『私が本物だと思っている動画を手品だと主張されるからですよ。ちゃんと証拠を提示してください』
『ぐぬぬ』
教授は反論できずにいる。
『あれえ、どうしたんですかー? はやく証拠を出してくださーい』
ゲストが棒読み台詞で教授をあおっているな。
『ああ、今すぐは無理ですか。時間がかかりますもんね』
ちょっと馬鹿にした感じで言われると腹が立つな。
テレビを見ている側に対しての態度ではないのはわかっちゃいるんだけど。
『いいですよ、待ちます。どのくらいの猶予が必要ですか?』
このゲストは本当に人を追い込みたがるよな。
そのうち刺されるんじゃないかとさえ思うほどだ。
『1週間じゃ短いですかね。じゃあ1ヶ月でどうです? まさか1年とか言いませんよね』
ホントあおるのが上手いなぁ。
教授のオジさん、完全に封殺されてるよ。
「自分が論理的だと思って感情で喋るような輩が大学教授とか信じられないな」
英花がそんな感想を漏らした。
「こんな感じでも一昔前はテレビで引っ張りだこだったんだよね-」
「本当か?」
真利の言葉に英花は驚き呆れている。
「非科学的だと思ったら何でもかんでも否定するのが面白いと思われたみたい」
「そういうことか。今は見る影もないようだが」
「昔は理詰めで反論してくる人なんていなかったから」
「攻撃する側が攻撃されると弱いのか。あるあるだな」
「そんなのはどうでもいいさ。それよりも魔法が思わぬ形で普及し始めているな」
「誰でも使えるわけじゃないみたいだけど、どうしてかなぁ」
俺が話題を変えると真利が首をかしげて不思議そうに語った。
「レベル1だと魔法は使えないからだよ」
「そうなのぉ?」
目を丸くさせて聞いてくる真利。
「レベルアップすることで初めて魔力が使える状態になるからね」
「それまでは封印されているってこと?」
「封印とは違うな。植物の種みたいなものかな」
「種?」
「そのまま放置してたら発芽なんてしないだろう」
「そうだね」
「色々と世話をして初めて芽が出る」
ここまで説明すると真利が上を向いて考え始めた。
そして、すぐに結論を出す。
「世話をするのが経験値の獲得で芽が出るタイミングがレベルアップということ?」
「そういうことだ」
「発芽していないと魔法が使えない?」
「そうそう」
「ダンジョンができる前の人類が魔法を使えなかった理由がそれだったんだね」
そこまで考えるとは思わなかったが、それも事実なのでうなずいておく。
「じゃあ、子供が魔法に目覚めたらどうするのかって色んなところで論争になってるけど……」
「全くの無駄だ」
俺が答える前に英花がバッサリと言い切った。
「魔物を倒してレベルアップした者ですら魔法が使えるようになるとは限らないんだからな」
「えーっ!? そうなのぉ?」
「魔法はイメージだと言っただろう。それが難しい者は意外にいるものだ」
「そうかなぁ?」
真利にはいまいち信じられないようだ。
「さっきテレビに出ていた教授などは無理な口だ」
「あー、なるほど」
ようやく納得がいった真利が苦笑している。
「あの教授は極端な例だとしても、理詰めで考えるタイプはイメージしながらも信じ切れなかったり心の何処かで否定したりするから難しいだろう」
「そうなんだね」
「後はゴリゴリの前衛とかも魔法を習得しづらい傾向があるぞ」
俺も補足しておく。
何処かの兵士長もその口だった。
奴は魔法が使えないことにコンプレックスを抱いていたから労せず魔法を習得できる勇者にはことさら厳しく当たっていたんだよな。
「どうして?」
「考えている暇があったら殴った方が早いと考える脳筋が多いからだよ」
「深くイメージする前に諦めちゃうってこと?」
「そう。だから魔法はレベルアップした冒険者でも限られた者しか使えないことになる」
「なるほどねー」
再び苦笑した真利だったが、ふと何かに気付いたような表情になった。
「それじゃあ冒険者免許で魔法が使えるかどうかを管理すると良さそうだね」
自動車の免許だって種別がある訳だし悪くない考えだと思う。
「バラバラに管理するよりはいいだろうな」
効率はいいと思うが果たしてそう都合良くいくだろうか。
とはいえ俺たちが気にしてもしょうがない。
いずれ法律で定められることになるとは思うけど、それは政治家の仕事だ。
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「意外なことが切っ掛けで魔法が広まっていくな」
訓練施設内で遠藤ジョーが何気なくそんなことを言った。
実際のところは、訓練が思うように進まないことによるストレスを吐き出すためのぼやきなのだが。
「呑気なことを言っている場合じゃないですよ、遠藤大尉」
大川曹長が注意してくる。
「堂島さんは成功させたじゃないですか」
「そんなことを言われてもなぁ」
頭をかきながら泣き言を言う遠藤。
ハッキリ行ってやる気はゼロに近い。
最初は真面目に取り組んでいたものの時間の経過とともにテンションは下がっていった。
チームの専属アドバイザーである堂島洋一が早々に成功させたのも気分を下げる元かもしれない。
「できないんだからしょうがないすよね、大尉」
同意する氷室准尉もまだ一度も魔法を発動させられていない。
やる気の方はとっくにガス欠状態である。
「そんなこと言ってると、お昼抜きですよ」
「勘弁してくれ~」
「腹が減っては戦はできぬと言うじゃないかぁ」
大川曹長の警告に遠藤も氷室もタジタジだ。
そこに昼食を済ませた洋一が現れる。
「あれっ、まだ終わってはらへんのですか?」
目を丸くさせて驚きをあらわにする洋一だ。
「洋一ぃ、助けてくれえ」
遠藤が情けない声で助けを求める。
「そないなこと言われても、どないせえ言いますねん」
確かに洋一にできることはない。
「俺には魔法は無理だと曹長に言ってくれー」
「向き不向きの話まで知りませんがな」
「そう言わずにさぁ」
両手を合わせて拝んでくる遠藤。
「とりあえず飯食ってきたらよろしいがな。腹減ってたら効率悪うなりまっせ」
その一言に遠藤がパッと表情を明るくする。
「そうだよな。腹が減っては戦はできぬとも言うじゃないか。いいこと言うね、洋一」
言うなり遠藤はダッシュでその場からいなくなった。
あまりの早業に洋一は目を丸くさせ大川曹長は嘆息する。
「ええんでっか」
恐る恐る大川曹長に問う洋一。
「昼食が終わったらみっちりやってもらうだけですよ」
何故か凄みのある笑みを向けられた洋一は一瞬で震え上がる。
絶対に大川曹長だけは怒らせないようにしようと密かに誓う洋一であった。
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