67 はじめての遠征・守護者との戦い
ミケのアシストで樹海ダンジョンの守護者の位置を特定し千里眼のスキルで状況を確認。
それを念話で英花と共有しつつ転移魔法を使ってもらう。
手順はそれなりに面倒だ。
その上、俺は魔力を遮断する結界の準備もしておかなければならない。
真利は真利で転移直後に攻撃できるようにコンパウンドボウで射る鉄球を握りしめている。
なおかつ前を行く冒険者たちに気付かれないようにしなければならない。
なかなかのプレッシャーだが誰一人として押し潰されることはなかった。
俺や英花は勇者としてそれなりの年月を戦ってきたから、これくらいでどうにかなる訳もないのだが。
真利はまともに修羅場をくぐってきていないから心配だった。
そういう意味では今回の一件が真利を成長させてくれると思う。
レベルアップとはまた異なる成長要素であるだけに貴重で得がたい経験だ。
『そろそろ認識阻害の効果が出てきましたニャ。これなら気配感知されませんニャ』
ミケが太鼓判を押したということは間違いないだろう。
これで見極めをしくじっているなら忍者失格である。
(わかった)
返事をした英花が俺たちの方を見てくる。
結界魔法のスタンバイ完了。
真利も攻撃準備を終えていた。
共にうなずくと英花もうなずきを返してきた。
後は前を行く冒険者たちだが、今の状況なら俺たちが歩みを止めるだけでいい。
徐々に冒険者たちが遠ざかっていくが気付く様子もない。
(よし、行くぞ)
英花が転移魔法を発動させると目の前の景色が変わった。
その瞬間を狙って魔力遮断の魔法を発動させる。
「ギシャ───────────────ッ!」
鬼の顔をしたクモの守護者が吠えた。
突如、俺たちが現れたことに驚きと不快感があるようだ。
それは大きな隙となる。
真利が隙を見逃さず守護者へ向けて鉄球を射た。
が、鉄球は守護者には届かない。
口から糸を吐き出して鉄球を包み込み勢いを相殺して地面に落としたのだ。
「まだまだ!」
真利がすかさず次弾を引き絞って放つ。
が、飛んでいったのは明後日の方向だった。
「もう一丁!」
連発するが次も微妙にそれている。
と思ったのだが……
「ギィ─────ッ!」
守護者がガクンと姿勢を崩したことで鉄球が命中した。
2発目は巣を張っている木の枝を撃ち抜き枝が折れるタイムラグを計算した上で3発目を射た結果がこれだ。
守護者も外れると思っていた攻撃がバランスを崩すことで当たりに行ってしまうとは思いもしなかっただろう。
とはいえ命中したのは脚の付け根であるため致命傷には程遠い。
「ギッ!」
お返しだとばかりに糸を吐く守護者。
今度は鉄球を撃ち落とした時よりも細く速い。
それが何本も一気に真利へと殺到する。
「残念。当たらないね」
俺が緑精の指揮者の魔法で操った木々の枝がそこかしこから伸びてきて針状の糸を防いだのだ。
糸は枝を軽々と貫通したものの緑精の指揮者で操った植物は自在に動かすことができる。
少し角度を変えてやるだけで糸はすべて明後日の方へ飛んでいった。
「ギィッ!?」
「よそ見は良くないな」
続いて英花が風刃の魔法を多重発動させて放った。
風の刃は守護者には見切れなかったようで、まともに命中。
その脚を切り刻んだ。
「ギシャアアアァァァァァァァァッ!」
鉄球が命中したときよりも痛かったであろうことを思わせる悲鳴だったが脚は切り落とされた訳ではない。
何本かは関節から先がプラプラしているけれど。
致命傷ではないが、こうなってしまうと満足に動くことができなくなってしまう。
ただ、胴体にも当たったはずだが、ダメージを与えることができなかったみたいだ。
すべてが堅い訳ではなさそうだけど防御力が高い体は仕留めるのに時間がかかる。
面倒だし厄介だな。
「我々は3人いるのだぞ」
英花はさほど問題視していないようだ。
動けなくすれば、いずれ倒せると考えているのかもね。
一方、守護者は英花の言葉など聞こえていないかのように自らの脚に向けて糸を吐きかけていく。
プラプラしていたものが糸によって固定された。
ギブスのようなものか。
痛みは消えないまでも動かすことができるようになっていくのは好ましくない。
「させないよ」
真利が鉄球を射る。
次の脚に向けて糸を吐きかけようとしていた守護者が鉄球を迎撃すべく糸を吐き出した。
妨害は成功したが奴は諦めない。
再びボロボロになった脚に向け糸を吐こうとするが、その口に鉄球が命中した。
「ギッ!」
だが、真利はまだ次の鉄球を番えている最中だ。
「言ったろう。我々は3人だと」
英花の投てきによるものだった。
「そうだ。俺のことも忘れないでくれよ」
奴の下にある濃い影からいくつもの闇色の槍が突き出してきた。
影の茨の魔法だ。
「ギイイイィィィィィ───────────ッ!」
巣の上でのたうち回る姿は巣に絡め取られてしまった獲物のようだ。
ここまで来ると、どれだけタフでも弱ってくる。
後は時間の問題と言えた。
真利も英花も次々と鉄球を撃ち込んでいく。
俺も負けじとワイヤー付きの分銅を投げつける。
命中したらヨーヨーのように引き戻し手元に戻ってきたら再び投げる。
2人ほど効率が良くないな。
ならばワイヤーを操り分銅を叩きつける攻撃に切り替えるまでだ。
顔面を中心に分銅を叩きつけていると守護者の顔がみるみる腫れ上がっていく。
もはや瞼もまともに開いていられない状態で、奴が普通のクモであったなら目は使い物にならなくなっていただろう。
スプラッタな光景はあまり見たくはないので守護者が鬼面蜘蛛で良かったよ。
とにかく攻撃し続ける。
連携で気をそらし間断なく連撃を入れて反撃の余地を与えない。
やがて守護者は動かなくなった。
仕留めるまで時間はそれなりにかかったものの鬼面蜘蛛が消えドロップアイテムが出てきた。
「往生際が悪いということもなかったか」
タフな相手だっただけに完封できたのが不思議なくらいだ。
まだ何かあるんじゃないかと勘繰ってしまうのも仕方ないだろう。
「兵士長がまた出てくるとでも?」
英花が笑えない冗談を言ってくる。
「勘弁してくれ」
奴は消滅したのだから二度と出てくることはないとわかっちゃいるんだけどね。
「悪い悪い。守護者のタフさを考えるとつい、な」
英花も俺と同じようなことを考えていたようだ。
「ねえ、そんなことより急がないと霧が晴れちゃうよ」
真利が急かしてきたが問題ないはずだ。
「しばらくは、このままだろう。守護者が消えても魔法が効果を失う訳じゃないんだ」
俺より先に英花が説明を始める。
「結界の魔法がすぐに消えなかっただろう」
「うん」
「これは維持するため先に魔力を注ぎ込んで展開させた証拠だ。この場合すぐに消えることはない」
「そうなんだー」
とはいえ魔力を追加で補充する存在が消えた以上、結界はいずれ消えてしまう。
効果がなくなる前に遠藤大尉たちの元へと戻らなければならない。
そんな訳でドロップアイテムは吟味することなく回収しダンジョンコアを探す。
さっさと掌握して守護者の再設定をしないとね。
鬼面蜘蛛が再びダンジョンのボスということになってしまうのだけは回避しないと。
「地下深くにありましたニャ」
早々にミケが発見してくれたのは助かった。
後は諸々の処理をして転移魔法で戻るだけだ。
読んでくれてありがとう。
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