66 はじめての遠征・傀儡師を封じる方法
その後、俺たちは早急に作戦を立てた。
樹海ダンジョンの守護者である鬼面蜘蛛を俺たち3人で倒すための作戦だ。
ミケが位置を特定してきたから転移魔法で奇襲をかけて速攻で倒す。
これは早々に決定。
このまま徒歩では今日中に辿り着けないというし空間拡張されているフィールドダンジョンは厄介なものだ。
遠藤大尉たちが守護者と遭遇しないという点ではありがたい話ではある。
特に地元の冒険者たちはあっという間に守護者の餌食となってしまう恐れがある。
だからこそ俺たちだけで行くのだ。
(ただ、タイミングが問題だよな)
俺たちの動きを感づかれないギリギリを狙って動き出さないといけない。
特に遠藤大尉は気配を感知するスキルを持っている。
徐々に離れるだけでも気付かれそうなのに一瞬で消える転移魔法だと一発でバレるだろう。
そうならないためにも敵の結界を利用するつもりだ。
認識阻害と幻惑のうち前者が効果を発揮し始めたところで離脱する。
これならば俺たちがどう動いても遠藤大尉に気付かれることはないだろう。
幻惑の効果もある結界だから、最後尾の俺たちがはぐれたことにできるのもラッキーだ。
一方でラッキーでないこともある。
このまま樹海ダンジョンの奥へ進むと守護者の罠が待ち受けているからだ。
守護者が遭難した兵士たちの死体を操って捜索隊と戦わせるつもりらしい。
悪趣味極まりないが敵の立場から見ればこれほど効率の良い戦い方もないだろう。
遠隔操作で自分は傷つかず上手くすれば相手を全滅させられる。
遠藤大尉に気付かれないためには結界の効果がそれなりに及んでいる場所まで踏み込んでおく必要がある。
しかしながら、あまり踏み込みすぎると大尉たちが敵の罠に至るまでの時間が短くなってしまう。
(あまり遅らせすぎると被害が拡大しかねないか)
(いっそのこと罠を潰してから転移するのはどうかな?)
(俺たちがセーブしても目立つぞ)
(そうだな。数十名の冒険者たちに被害が出ないように立ち回りつつ傀儡化した死体を無力化するのは至難の業だ)
英花の言う通りである。
死体という点はゾンビと同じだが操られているので対処法はまったく異なる。
眠らせることも麻痺させることもできないという点は同じだが頭を潰しても動き続けるはずだからね。
それ以前に死体であることを皆に知らしめないと攻撃することもままならない。
証明する方法は守護者と死体とのつながりを断つことだ。
そのためには魔力で操作している見えない糸を断ち切る必要がある。
ただ、マリオネットのように吊されている訳ではないから魔力の糸を探るところから始めなければならない。
イメージとしては闇の中で動いている有線のリモコン玩具とかそんな感じだろうか。
人間を玩具にたとえるのはどうかと思うけどさ。
(じゃあ、やっぱりジョーさんたちが罠にかかる前に守護者を倒すのがベストだね)
(理想はそうだな)
明確には言わないが英花は不可能だと思っているようだ。
いくら奇襲をかけるとはいえ相手は守護者である。
瞬殺で終わらせることなどできないだろう。
真正面からぶつかってこようとするオークキングが相手なら話は別だが、相手はおそらく防御主体で待ち構えるタイプだ。
仕留めるまでに時間がかかるのは想像に難くない。
『それならば守護者の術を妨害するのはどうですかニャ』
煮詰まりかけていたところにミケが意見を出してきた。
(術というのは罠で使おうとしている傀儡の術のことか)
『はいですニャ。これなら罠が発動しなくなりますニャン。守護者を討伐するのに時間がかかっても気にしなくて良くなりますニャー』
英花の問いにミケがドヤ顔で答えた。
(悪くない案だ)
それを聞いてミケが小躍りする。
(問題はどうやって妨害するかだが)
『魔力の糸を飛ばせないようにすればいいですニャ』
(だから、それをどうするかだろう)
(いや、結界で封じれば難しくはない)
(それをしてしまうと守護者の結界も消えるだろう)
英花は完全に遮断してしまうことを考えているようだ。
確かにそれだと認識阻害と幻惑をもたらす霧も消えてしまうだろう。
(ミケ、魔力の糸は魔法ではないんだろう?)
『その通りですニャ』
(そういうことか。考えたな、涼成)
(涼ちゃん、どういうこと?)
英花は気付いたようだが真利はわからないらしい。
(ひとことで言えば魔力と魔法の違いを利用するんだよ)
これだけではわからないようで真利は首をかしげている。
(魔力と魔法の違いって何? 魔法にも魔力はこもってるよね。どっちの魔力も同じじゃないの?)
(同じじゃないんだよ。真水と色をつけた水は同じだと思うか?)
(違うけど、それがどう──)
関係するのかと聞きたかったのであろう真利の言葉は途中で引っ込められた。
同時に目を見開いてこちらを見る。
(そっか、魔法にこもっている魔力は属性がついているんだね。だから別物として区別できる)
(そういうこと)
それを利用すれば属性の乗っていない魔力だけを遮断する結界を構築するのは難しくはない。
転移する前に待機状態にしておき転移直後に発動すれば隙も限りなく小さくなるだろう。
(英花が転移を担当するから俺が結界をスタンバイすればいい)
(じゃあ、私は弓で攻撃するね)
当たるかどうかは別にして牽制にはなる。
結界発動時の隙もさらに潰せるはずだ。
このようにして、どうにか作戦がまとまった訳だが不安がない訳ではない。
敵の弱点がわかっていないし思惑通りにいくかどうかも不明だ。
ひとつミスればガタガタになってしまう作戦などザルと言わざるを得ない。
だが、タイムリミットが近づいている。
これ以上は考えても穴を埋める良案は出てこないだろう。
それに転移の魔法も結界の魔法もこれというタイミングで発動させるためには先に集中してイメージを固めておく必要がある。
アニメとかに出てくる魔法使いだと呪文の詠唱に相当するものだ。
最近は無詠唱とか魔法名だけを唱える短縮詠唱が流行りのようだけど。
ここから先は作戦立案モードから戦闘モードに切り替えないとね。
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「霧が出てきたな」
言いながら遠藤ジョーは舌打ちしたくなった。
霧が出ていたことは脱出してきた兵士から聞いてはいたが、内心では消えていることを期待していたのだ。
先に突入した兵士たちを捜索することが非常に困難となったと言わざるを得ない。
それどころか、このまま霧が濃さを増していけば道沿いに進んでいる自分たちでさえ遭難する恐れもある。
今よりも視界が悪くなれば引き返そうとジョーは決意した。
「気をつけてください、大尉。我々は霧が出てから敵に襲われました」
その兵士が警告してくる。
「いよいよってことか。それにしては……」
魔物の気配を感じない。
いや、それどころか後続の冒険者たちの存在すら途中からあやふやになっている。
最後尾はいるのかいないのかまったくわからない。
(まずいな)
「大尉?」
苦虫を噛み潰したような表情を見られたようで氷室准尉が声をかけてきた。
「気配感知のスキルが使い物にならなくなっている」
その言葉で氷室准尉の顔色がサッと変わった。
「霧の中で敵が何処から向かってくるかわからんのは厳しいですな。用心しておきましょう」
「頼む」
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