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64 はじめての遠征・樹海ダンジョン突入

「疲れているのにもう一度行かせることになってスマンな」


「いえ、怪我はしていませんので大丈夫です」


 遠藤大尉の詫びに血まみれ兵士が気丈に答える。

 彼の案内で樹海ダンジョンで謎の敵に襲われた自衛軍の兵士たちの捜索に向かうこととなった。


「20分後に出発する。準備は万全にな」


 その言葉で周りの冒険者たちが慌ただしく動き出す。

 ダンジョンの奥へ向かって探索するとなると最低でも水は確保しなきゃならないからね。

 万が一にも遭難した場合のことを考えておかないと生き残るチャンスを失うことになる。

 俺たちは他の面々と違ってバタバタはしていない。

 キャンピングカーに戻って装備の変更をするのみだ。


「涼ちゃん、何してるの?」


「飛び道具を用意してる」


 言いながら利き腕のグローブを掌の部分にクッション材が入っているものへ付け替えた。

 腕の部分には極小のシールドが装着されていて、その裏側に分銅付きのワイヤーが仕込まれている。

 手製のリールで巻き戻すことを可能にしているため見た目より重めだ。


「それを使うんだー」


「後ろからついて行くなら近接武器だけじゃダメだろ」


「そだねー」


 同意する真利も専用のコンパウンドボウを装備している。

 最初に使ったものではなく短弓バージョンで作り直したコンパクトなものだ。

 飛ばすのは矢ではなく鉄球なのは変わらないけど回転して飛んでいくように魔道具化させているので命中精度は上がっている。

 ただし真利が使った場合に限るけどね。


「英花ちゃんは何を使うの?」


「鉄球だな。飛び道具は用意してなかったから投げて使うつもりだ」


「魔石アタックの方が威力があるんじゃない?」


「あれは外に漏らすべきじゃないだろう」


「そっか、企業秘密だね」


 真利の言い様に英花は苦笑した。


「まあ、そんなようなものだ。迂闊に使って良いものではないからな」


「そうでもないと思うぞ」


 魔力を過剰充填した魔石はあまり秘匿する必要性を感じない。

 魔法が使えないため誰も気付いていないが魔力操作はできている者はそれなりにいるのだ。

 Newtubeの動画を通して見てもわかるくらいなので、いずれ気付く者が出てくるだろう。


「どういうことだ?」


「魔法を普及させる手がかりになりそうじゃないか」


「……魔力操作のヒントにはなると思うが、そう上手くいくだろうか?」


 英花は俺の意図に気付きつつも半信半疑のようだ。


「魔法を普及って他の人に教えるつもりないんでしょ。そんなことできるの?」


「確かに教えるつもりはないよ」


 自分にも教えてくれと人が殺到するのが目に見えているからね。


「でも、ヒントを出すくらいはできる」


「魔力操作がヒントになるの?」


「魔力を制御できるようになれば偶発的に魔法を発動させてしまうことがあるんだよ」


 異世界の書物によれば、だけど。


「ホントに!?」


「身体強化を使ってしまうみたいだな」


「あー、あれは使いやすいよね。そういうこともあるかなぁ」


 たぶん……

 仮に失敗しても世間に魔石アタックが広まるだけだ。

 冒険者の生存率が多少なりと上がるかもしれないから良いことだと思う。


「だけど、充填魔石がどうしてヒントになるの?」


「魔力を込めて武器になるとわかれば真似をする奴が出てくるはずだ」


 威力は高くないし魔石は粉々になって使い物にならなくなるけど。

 魔石に魔力を充填する行為が魔力操作そのものだから真似をする者が出ればいずれってことだ。

 ヒントというか誘導だね。


「しかし、身体強化だけでは魔法が普及するか怪しいところだ」


 英花は懐疑的な考えのようだ。


「そりゃあ一足飛びに攻撃魔法に行き着いたりはしないさ。けど、魔法が使えると気付けば意外に早いと思うぞ」


「ふむ、ここで話しているだけではわからんな」


 それは確かに俺もそう思う。


「ねえ、そろそろ時間だよ」


「おっと、いけない」


「そうだな。急ごう」


 俺たちは外に出てダンジョンの入り口に集まりつつある冒険者たちの元へと向かった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「遠藤大尉、これを」


 過剰充填した魔石を大尉に手渡す。


「魔石? どういうことだい?」


「これを見てください」


 もうひとつ用意した魔石をゆるく弧を描くように放り投げる。


 パン!


 アスファルトの上に落下した魔石が軽い破裂音を響かせて飛び散るように粉々となった。

 それだけのことで周囲がざわめく。


「これは普通の魔石じゃねえってことか」


「いえ、ゴブリンの魔石ですよ」


「なにっ?」


 目を真ん丸にさせて遠藤大尉が驚きをあらわにする。

 他の面々も同じような反応だ。


「そんな訳ないだろう。普通の魔石は落としても、あんな風に破裂したりはしない」


「ちょっと細工をしただけです」


「細工だって?」


 もうひとつ魔石を取り出して掌の上にのせる。

 ゆっくりと魔力を込めていくとバキッと音がして魔石が割れ、冒険者たちがどよめいた。


「何をした」


「たぶん魔力を込めただけだと思うんですよね」


 そう言うと一気に白けた雰囲気になってしまった。

 冒険者たちは、そんな事ある訳ないと思っているのがありありとわかる。


「今のは割れてしまったが、これとどう違うんだい?」


 大尉からは否定する空気が感じられない。

 むしろ興味が湧いたようだ。


「どちらも魔石にエネルギーを送り込むイメージをしただけですよ。破裂するやつは割れる手前で止めただけです」


「加減の仕方で差が出る訳か」


 そう呟くと指でアゴを触りながら考え込むことしばし。


(なるほど。魔石をバッテリーと考えればわかりやすいかもな)


 誰に聞かせるでもなく呟いた。

 本来であれば誰にも聞こえないほどの声量ではあったが生憎と俺たちには聞こえてしまう。

 聞く気がなければ雑音として無視することもできるけれど、ここは聞いておくことにした。


(中にたまっているのは電気ではなく魔力で)


 独り言を続けながら思考する大尉。


(無理やり溜め込むと過充電したときのように不安定になる、と)


 大尉の推測がこちらの思惑通りのもので助かった。

 トンチンカンな答えを出したらどうしようかと些か不安ではあったんだよな。


(調整次第でちょっとした武器になるのは怪我の功名か?)


 そこは違うが俺たちにとっては都合のいい誤解だ。

 いずれにせよ種明かしをする訳にはいかないので指摘も修正もしない。


(威力は大したことなさそうだが、そこは使い方しだいか。お守り代わりにはなりそうだ)


 そう呟いて遠藤大尉はフッと笑みを浮かべた。


「これは強い衝撃を与えると破裂するんだな」


 遠藤大尉が確認してくる。


「ええ、そのように調整してあります」


「限界を超えると魔石が割れるのはわかるが、どうやって加減するんだ?」


 その質問は大尉以上に周りの冒険者たちが聞きたいことのようだ。

 本当に可能なのかと半信半疑でありながらも好奇心を隠しきれない視線を向けてくる。


「トライアンドエラーで数をこなさないとダメでしょうね」


 異世界で色々試しているときに無駄にした魔石は数えきれずってね。


「山ほど魔石を無駄にした訳か」


 クククと喉を鳴らして笑う遠藤大尉。


「まあ、それなりには」


「これは貰っていいのか」


「そのつもりで渡したのですが」


「じゃあ遠慮なくもらっておくぜ」


 遠藤大尉は腰のポーチに魔石を収納した。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] コンパウンドボウは滑車付きの弓の事でボウガンの類じゃないぞ 勿論、鉄球なんかを打ち出せるようなような構造はしてないよ
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