表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/380

58 超のつくレアスキル

 体力測定の件を簡単なレポートにして大川伍長に送ったところまでは良かったのだが。


「君らは面白いことを考えるなぁ」


 再び遠藤少尉の訪問を受けてしまった。

 今日は1人である。

 暇人か。

 それを言ったところで柳に風と受け流されるのがオチだろうけど。


「無駄に死人が出るよりは良いのではないのか」


 英花が仏頂面で応じた。

 遠藤少尉のことが気に入らないと言っていたので、これでフラットな状態だ。

 女子と見れば軽々しくナンパをする軽薄野郎は好かんだってさ。

 だったら話さなきゃいいのに。


「そうなんだが一部の冒険者たちからは不評なんだよ」


 肩をすくめて少尉は小さく溜め息をついた。


「自信過剰な連中ですか」


「ああ、まさにそういう者たちが体力測定を拒否している」


 気になって聞いてみたら正解だった。


「自分たちにはそんなものなど必要ないとか言ってな」


 困ったものだよと、遠藤少尉はまたしても溜め息を漏らしていた。

 意外に苦労人だよな。

 これでナンパ師でなければ英花も同情したかもしれないんだけどね。


「体力測定を受けなければ不利益があるように持っていけばいいじゃないですか」


「簡単に言うなよぉ」


 ボヤいちゃいるが遠藤少尉は、そこまで大変だと思ってはいないように見える。


「ま、死人が増えても困るし上の方でもその方向で動いてはいるってよ」


 わざわざ口を出す必要もなかったか。


「参考までに聞きたいんだが君らはどういう不利益を考えていた?」


「免停だな」


 英花が実現性の低そうな厳しめのことを言う。


「一発免停は無理だろう」


 遠藤少尉が苦笑しながら否定した。


「他には?」


 英花の考えを聞いたにもかかわらず少尉はまだ参考意見が欲しいようだ。

 どうやら俺たち全員から聞き取るつもりらしい。

 欲張りだな。


「50万円以下の罰金?」


 俺が視線で促すと真利がこれまた厳しい意見を言った。

 自分でも採用されることはないだろうと思ってか疑問形ではあったが。


「法律違反している訳じゃないからなぁ」


 さらに苦笑の色を深くする少尉が俺の方を見た。


「体力測定を受けるまで免許を水色にすればいいのでは?」


 俺の回答に少尉は目を丸くさせたかと思うとニヤリと笑みを浮かべた。


「面白いな。初級冒険者にランクダウンさせるわけか」


「失敗が続けば降格するんだし同じ扱いにすれば法律を変える必要はありませんよね」


「そこまで考えているのか」


 指でアゴを触りながら少尉は考えている。


「果たしてそれで本当に体力測定を受けるかな」


 面白がってはいたものの懐疑的な結論を出してきたな。

 先の2人に比べてヌルいと考えたのだろう。

 そんなのは端から織り込み済みだ。

 3人で体力測定の話をした際に罰則の話もしてあったからね。


「受けたくないなんてのはプライドの高い連中ばかりだと思うのですが違いますか」


「違わないな。自信があるからこそ必要ないと考えるんだろうし」


 遠藤少尉は指でアゴを触りながら考えを巡らせている。


「なるほど。初級に降格させられるのは、そういう奴らには耐えられないということか」


「面倒くさいから体力測定を受けないという手合いには効果が見込めませんが」


「ハハハ、そういうのは冒険者の試験すら受けようとしないだろう」


 つまりは潜りの冒険者だ。

 フィールドダンジョンを専門にすれば潜りとして活動することも不可能ではない。


「ただ、初級の連中にはペナルティにはならんな」


「昇格できませんから無しではないと思いますが」


「それもそうか」


 それで納得したのか相変わらずアゴを触りながら考え込むこと数秒。


「そのアイデアもらっとくぜ」


 ニッと笑って人差し指を向けてきた。


「別に断りを入れる必要はないですよ」


「いやいや、こういうのはキッチリしておかないとな」


「そうですか?」


 この調子だと貸し借りがどうのとか言い出しかねない。


「礼代わりと言ってはなんだが、ひとついいことを教えてやろう」


 それくらいなら構わないか。


「大川伍長は超のつくレアスキル持ちだ。具体的なことは言えないが迂闊なことは喋らない方がいいぞ」


 思った以上に大きなネタだったな。


「そういうのは感心しませんね。プライバシーに関わることですよ」


「堅いなぁ。詳細は言ってないからギリセーフだろう」


「言ってるも同然ですよ」


「そうだっけ?」


 そっぽを向いて誤魔化す少尉。

 それを見た英花のまなじりが上がっている。

 ますます印象を悪くしているな。


「俺も敵の気配とか探れたりするんだが位置が特定できなくてなぁ。あんまり重宝しねえスキルだ」


「自分のスキルを暴露したからって帳消しにはできませんよ」


 指摘すると少尉はハハハと笑って誤魔化した。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「大川さんのスキルは怖いね」


 遠藤少尉が帰ったあと真利がボソリと漏らした。


「大丈夫だろう」


 英花は特に気にした様子もない。

 少尉がネタバレしたことには腹を立てていたが知ってしまったものはしょうがないというスタンスみたいだな。


「どうしてえ? サイコメトリーみたいなスキルじゃないの?」


 驚きをあらわにした顔で真利が聞いている。


「何処をどう勘違いしたら、そういう発想になるんだ?」


「え、だって超のつくレアスキルなんでしょ」


「過剰に反応しすぎだ。盛ってることも考えておくべきだろう」


「そうなんだ。じゃあ、どんなスキルかわかんなくなったね」


「そんなことはない。少尉はヒントを口走っていた」


「迂闊なことはって言ってたけど、それがヒントなの?」


「そうだ」


「うーん」


 真利は見当がつかないのか考え込んでしまう。


「喋らなければ問題ないということになるだろう」


「喋ると支障を来すスキル?」


「ちょっと違うな。ウソを見抜く類いのものだ」


「えーっ、そんなスキルがあるのぉ!?」


「驚くほどのことじゃない。私は持っていないが上級スキルに虚言看破がある」


「それなりにレアなやつだな」


「涼ちゃんは持ってるの?」


「いいや。アレはほしいと思わなかったしな」


「そうなの?」


「タイムラグがあって使いづらいんだよ。相手の発言によっては何がウソなのかわからなくなる」


「あらら」


「おまけにレベルが上の相手には使えない」


「じゃあ私たちは隠し事をしてても大丈夫ってこと?」


「だから、そう言ってる」


「良かったぁ」


 真利が安堵して胸をなで下ろしている。


「ただ、少尉の発言が盛っていなかったのであれば虚言看破ではないだろうな」


「他にも似たようなスキルがあるの!?」


 英花の発言にギョッとした表情を見せる真利。


「特級の看破の魔眼がある。あれは厄介だった」


 珍しく英花が勇者だった頃の話を持ち出してきた。


「えーっ! 厄介って異世界でそんなスキルを持った敵がいたのぉ!?」


「ああ。まだレベルもあまり高くない頃に遭遇した敵だった」


「そうなんだ」


 いかにもドキドキしていますという顔で身を乗り出している真利。


「今にして思えば、そこまですごいスキルではなかったが、上手く使われると手を焼かされるのは事実だ」


「大丈夫だったの?」


「おいおい、大丈夫でなかったら私はここにはいないぞ」


「あ、そっか」


 真利は天然ボケなところがあるよな。


「使い手を選ぶスキルだったんだね」


「そうとも言えるか。相手のスキルを知ることができても対処法を考えられなければ意味はないからな」


「えっ、スキルがバレちゃうの!?」


 真利が急に不安そうな顔をのぞかせる。


「レベルが上回っていないと使えないから心配はいらない」


「そうなんだー。焦ったぁ」


 これは大川伍長が看破の魔眼を持っていたらどうしようなどと考えていたな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ