55 その後の少尉たち
「大川伍長、どうだった?」
帰りの車内で遠藤少尉が尋ねた。
「どうと言われましても……」
「何の変化も感じなかったか」
「彼らですか? 私には何とも」
「ますます化け物じみていく気がしたんだが」
「どうでしょうか。凄みのようなものは感じませんでしたよ」
「気のせいか」
残念そうに溜め息をつく遠藤少尉。
「強くなる秘訣があるなら聞いてみたいんだがなぁ」
「同感ですな」
助手席に座る氷室軍曹がハハハと声に出して笑った。
ちなみに車の運転は自衛軍のものと明確にわかる厳つい軍用車であるにもかかわらず洋一が担当している。
遠藤少尉が「こういう機会が増えるから慣れておけ」と言い出したからだ。
アドバイザーとはこんなことまでさせられるのかと思いつつ大きな借りがあるので強く反対できなかった。
往路の運転をした大川伍長が呆れつつも諦めた様子だったことも抵抗が弱まった一因である。
「隠し事をしているようには見えませんでしたけど」
「それは残念。伍長なら彼らの秘密を暴いてくれるんじゃないかと期待していたんだが」
「人をウソ発見器のように使うのはやめてください」
「実際そういう能力なんだから仕方あるまい。俺たちは御上に仕える身なんだしな」
とは氷室軍曹の言だ。
「案外、ボスを倒すと強くなれるのかもな」
遠藤少尉の言葉に、そんなアホなと洋一が内心でツッコミを入れている。
「かもしれませんなぁ。堂島くんはどう思う?」
そこでワイに聞いてくるんかと思ったが答えない訳にはいかないだろう。
なにせアドバイザースタッフとして雇われている身だ。
「ボス倒したら強なるいう噂は真しやかに言われてますわ。せやけど眉唾もんでっせ」
洋一がそこで言葉を句切って嘆息する。
「そもそも噂の出処はダンジョンが世界中にできた際にゲームが現実になったっちゅう誰かの発言から発展したもんですわ。そんなん信じる方がどうかしてますやろ」
「日本には噂から出た実という、ことわざがあるんだろう」
「それを言うなら嘘から出た実です」
大川伍長が訂正する。
「そう、それそれ。噂もウソみたいなもんだよ」
無茶苦茶やと洋一は思ったがツッコミは入れなかった。
「それにダンジョンが出現したこと自体がかつての常識からは信じられなかったことじゃないか。確かめもせず頭ごなしに否定するのはどうかと思うぜ」
洋一はさらに無茶苦茶やと言いたくなった。
当然だ。少尉は自分が死にかけたボス戦を暗にやろうと言っているのだから。
おそらく実行するだろう。
ならば死なないように知恵を絞るしかない。
いつの間にか洋一はハンドルを握る手に力を込めていた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
遠藤少尉たちの訪問があった日以降は誰かが訪ねてくることはなかった。
監視されるかと思ったけれど、そういう気配もない。
ただ、無人と化した街の治安は気になるところだけど。
主のいなくなった家に勝手に住み着く輩が出て来ないとも限らない。
そんな訳で、どうにか近隣の家を買い取る算段をつけたいという話も浮上している。
現実的に考えて難しいと思うけどね。
いくら住人が忌避して去ったから信じられないくらい安く買えるとはいえ住宅の数が数だからすべてを買い取るのは難しい。
真利は株で稼ぎまくってどうにかしたいと言ったけれど、いかにお手製AIの出来が良くても現実的ではないだろう。
とりあえず近隣──真利の屋敷からはそれなりに離れているけど──の家だけは購入した。
購入した家には魔道具化させた監視カメラとトラップをセットで仕掛けていく。
許可のない人間が侵入すると眠らせる。
後は遠くへ放り出せば、さすがに寄りつかなくなるだろう。
最初は擬似的にポルターガイスト現象や金縛りが起きるようにしようという案もあったけど不採用となった。
オカルト好きな人間や肝試しをしたがる輩が寄りつくようになったら本末転倒だからね。
そんなことをしている間もダンジョン攻略は続けている。
日帰りでいける範囲のダンジョンはすべて回った。
逆に最初に潜ったダンジョンはご無沙汰しているのだけど。
合間に発見したフィールドダンジョンの出来損ないなんかも消滅させているおかげでフリーのダンジョンコアがいくつか手に入った。
単一だと通常のダンジョンコアの性能には及ばないものの使い道はある。
融合させたり他のダンジョンコアに吸収させたりするのだ。
ダンジョンが消滅しているので新たにダンジョンを創出しないかぎり融合する意味はない。
故に使い道は後者である。
当然、吸収するのはリアだ。
大幅にパワーアップしたことでダミーコアを作り出すことができるようになった。
ある程度の仕事は任せられるとのことだ。
さすがにあの広大なフィールドダンジョンの処理を単独で受け持つことはできないようだけど。
さらにパワーアップしてダミーコアの数が増えれば処理を分担することは可能らしい。
当面は屋敷の仕事をしつつ真利が購入した近所の家の監視をリモートで行うのが主な仕事かな。
仕事をするために必要となるゴーレムのボディは真利のコレクションである等身大フィギュアを参考にして製作した。
リアと同じデザインじゃ訳がわからなくなるからな。
とにかく俺たちは前進している。
亀の歩みのような気もするけれど、まだまだレベルは低いのだから焦りは禁物だ。
いのちだいじにってね。
で、前進しているのは俺たちだけじゃない。
それを夕食時につけていたテレビで偶然知ることになった。
『本日、自衛軍の特別編成チームが初めてダンジョンのボスを討伐することに成功しました』
ニュース番組のアナウンサーが引き続き原稿を読んでいるが、俺たちにはそれで充分だった。
「遠藤少尉のチームだな」
英花がボソッと呟いた。
「だろうね。何かしら攻略法を編み出したかな」
「ニュースでは言ってないよ」
真利がテレビの方を見ながら言った。
「当然だろう。真似をして失敗する輩が出てくるのが目に見えている」
英花が言いながら小さく溜め息をついた。
それがいま最大の懸念事項だ。
「無謀な挑戦をしようとする連中が出てくるのはしょうがないさ」
自分の実力を推し量れないのだから。
せめてレベルを確認できれば自重する者も出てくるかもしれないが普通は確認する術を持たない者ばかりである。
確認できても自分が強いと勘違いする輩はいると思うけど。
スキルがあるのは自覚できるからレアなのを持っていると特にね。
ちなみに勇者は自分のパーティメンバーのステータスも確認できる。
だからといって赤の他人をパーティに加えてレベルはいくつだからボスに挑むのは無謀だなどと説得するようなことはしない。
パーティメンバーに加えようと思えるほど親しくなった相手であれば話は別だが。
実力を顧みずボスに挑もうとする輩と親しくなろうとは思わないけどね。
「正攻法では無理だったって少尉がインタビューに答えているよ」
「果たして、それで抑止効果があるかどうか」
懐疑的な目で英花は見ている。
「ボスと戦いたければ自衛軍に連絡しろだって」
妙なことを言い出したなと思ってテレビから流れてくるインタビューに耳を傾ける。
どうやらボスに挑むだけの実力があるか判定するようだ。
合格した上でボス戦に挑み勝利すれば賞金を出すんだとか。
「考えたな」
今度は納得の表情を見せる英花。
「無謀な輩ほど金目当てで自衛軍の方へ先に行くはずだ。そこで心が折れるくらい凹ませてという算段なのだろう」
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




