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54 自衛軍の勧誘は断ったけれど

「だから言ったろう。コイツらを縛り付けるなんて無理だってな」


 ガハハと笑いながら氷室軍曹が言った。


「私もそんな気はしていましたけど、それでも上の命令ですから理由を聞かない訳にいかないでしょう」


 大川伍長が不服そうに渋い顔で返事をする。

 どうやらしつこく勧誘されることはなさそうだ。


「残念だねえ。君らが来てくれれば最強チーム結成だったのに」


 遠藤少尉が言葉とは裏腹に楽しげな表情を見せながら妙なことを言い出した。


「何です? 最強チームって」


「今度、自衛軍の編成が変わるんだよ。陸海空の垣根を取っ払うんだと」


「は?」


 意味がわからない。

 最強チームと何の関係があるのかわからない上にとんでもない新情報が出てきたぞ。

 自衛軍とは関係がないはずの堂島氏が驚いていないから、機密情報という訳ではないのか?


「自衛隊が自衛軍になったのはダンジョンと魔物に対応するためだってのは知ってるだろ」


「はあ、まあそうですね」


「それなのに人材が行き来できないのはおかしいという話が前々からあったんだ」


「専門性が違うじゃないですか」


 戦車乗りが戦闘機乗りになれるはずもない。

 やろうと思えばできるのかもしれないが限られた人材だけだろう。

 色々と無駄が多くなるのが目に見えているしコスト面では大幅に効率が悪くなるだろう。


「全部が全部そうじゃないさ。俺や氷室が組むのに何の障害がある?」


「……効率が悪いとかケチをつける人が出てくると思いますけど」


「いたなぁ。そいつが失脚したから、この話は前に進んだんだが」


 そう言われて真っ先に思い浮かんだのは自分の親は国会議員だと息巻いていたチンピラ冒険者だ。

 奴が取り巻き共々やらかしたことはネットを通じて世間に拡散され、親の権力によるもみ消しができなくなった。

 それだけではなく過去の案件も浮上してきて議員である親も追求されるに至ったというところまではニュースで見た。

 要するに親も子も社会的に抹殺された訳だ。


「君らが野郎を潰したと聞いているぞ」


 ニヤニヤしながら遠藤少尉が見てくるが誤解である。


「議員の息子にからまれて脅されただけですよ」


「それをライブ配信したんだろう?」


「配信したのは俺たちじゃなくて周りにいた人たちですよ」


「謙遜はいけないねえ。そうやって協力が得られるのも人徳があるからこそじゃないか」


 完全に勘違いしているな。

 どんな風に話が伝わっているんだか。

 いちいち訂正するのも面倒だし必要なら大川伍長が訂正してくれるだろうと思ったのでスルーしておく。


「とにかく反対派の急先鋒がいなくなったから話が先に進んでね」


 パチリとウィンクしてみせる遠藤少尉。


「まず最初に各軍混成の特別チームが組まれることになったのさ」


 それに俺たちを加えたかったようだが、いい迷惑だ。


「今日のところは勧誘ついでの顔見せだ」


「ということはお三方がそのチームに編成されると」


「それにアドバイザーとして洋一だな」


 遠藤少尉の視線に釣られて堂島氏を見るとぺこりと頭を下げた。


「なんか、そういうことになってしもたんですわ。腕の治療もしてもらいましたし」


 言われてみれば骨折をして間もないというのにギブスもしていなければ腕を吊り下げてもいない。


「この短期間でよく治りましたね」


「ポーションを使うてもらいましてな」


 なるほど納得だ。

 たとえ品質の低いポーションでも骨を繋げるくらいは問題なくできる。

 手術と組み合わせれば複雑骨折もその日のうちに完治するだろう。


「貴重品だと聞いていますが」


 そういう情報を事前に聞いていたこともあって、堂島氏が救出されたときに手持ちのポーションは提供しなかったのだ。

 面倒事に巻き込まれるのは間違いなかったからね。

 少なくとも粉砕骨折を治療できるものが1本数千万円なんて馬鹿げた値段がついている間は世に出すつもりはない。

 もしくは密かに量産して一気にばらまくか。


「だから仕事しろと言われましてね」


 堂島氏が苦笑している。


「期待してるんだぜ。洋一のダンジョンに関する知識は冒険者の中でも群を抜いているからな」


 つまり喉から手が出るほど欲しかったということか。

 自衛軍の誰がそういう風に仕組んだのかはわからないが形振りかまわないところがあるな。

 これは用心しておかないとね。

 異世界仕込みのダンジョンの知識は堂島氏より下回ることはないはずだし。

 戦闘力の面でも彼らより上のレベルというのがバレたらどうなることか。

 偽装しているから見抜かれることはないと思うけど油断は禁物だ。


「いや、ずっとダンジョンに潜ってただけですわ。その割に大して強くもなってませんし足手まといになると思うんですけど」


「それはベテラン勢に失礼な発言だと思うがな」


 それまで黙っていた氷室軍曹がジロリと睨みをきかせながら言った。


「ソロでオークを倒せる奴が弱いなんてあるものか」


「オークキングに手も足も出えへんかったんは事実ですわ」


「あんなのは別格だろう」


 一般人にはね。

 レベル2桁あれば力押しでも何とかなると思うんだけど。


「やりようはありますよ。ソロじゃ無理ですけど」


「なにぃ!?」


「遠藤少尉も何とかするつもりですよね」


「おう。スタングレネードの使用許可が下りたからな」


「そんなことを考えてたのかよ」


 呻くように呆れの声を漏らす氷室軍曹。


「エグいっちゃエグいが逆に今まで考えなかったのが悔やまれるいい手だな」


「それ、たぶん通用しませんよ」


「What!?」


「なんだって!?」


 少尉と軍曹がほぼ同時に驚きの声を上げた。


「君らのデスソースは通用したじゃないか」


 確かに自作のデスソースカプセルはオークキングに対して目潰しの効果があった。


「っ! お前ら、そんなもの使ってたのか……」


 氷室軍曹から怯えの混じった視線が送られてくる。

 あの痛みをともなう味を知ってるみたいだな。


「ボス部屋に入った後に投げましたからね。後で誰も入らず投げ込みましたけど何も反応なかったですし」


「お前ら、そんなことやってたのか」


「ボスが外に出られないとわかってるんだから色々と試さないのは、もったいないじゃないですか」


「そりゃ、そうだが」


「外からオークの剣を投げつけてもすり抜けましたし」


「何だよそれ!?」


 氷室軍曹が驚きの声を上げるが他の面々も似たようなものだ。


「さあ、ダンジョンがボスを待機状態にさせているのかも?」


 でなきゃ扉のないボス部屋なんて外から攻撃し放題だもんな。

 そんな真似をダンジョンコアが許すはずもない。

 あそこのダンジョンを掌握した後もそれについては改変しなかった。

 後でよそと明らかに違うと知られてしまうようなことがあれば誤魔化しようがないからね。

 ボスが舐めプをするくらいがせいぜいだ。


「誰かがボス部屋に入るとボスが実体化? するということか」


「おそらくは」


「それだとスタングレネードは使えませんね。魔物だけでなく味方に損害が出ます」


 大川伍長の言う通りだ。


「いい案だと思ったんだがなぁ」


 遠藤少尉がボヤくが、その気持ちはわからなくもない。

 上手くすれば倒すのが至難とされるボスクラスの魔物をより低いリスクで倒せたかもしれないのだ。


「味方に被害が出ない方法を考えればいいんじゃないですか」


「いや、デスソースアタックでも無理だろ。奴は素早い。不意を突けなければどうにもならねえよ」


 やりようはあると思うんだけどなぁ。

 不用意に突撃されても責任は持てないので、そこまでは言わないけどさ。

 そのうち良い手を編み出したりすることもあるんじゃないかな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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