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45 奥に待ち構えるのは

 千里眼のスキルで、ゆるく湾曲した通路の向こうから来る魔物を確認。

 予想通りゴブリンより強い魔物が来た。


「小人に慣れさせておいてデカいのを出してくるか」


「ほう。ゴブリンには飽き飽きしていたところだ」


 英花が不敵に笑みを浮かべる。


「デカいってどのくらいなの?」


 真利はそういう余裕がないというか性格的に好戦的な反応はできないか。

 だからといって戦わないという訳ではない。


「身長は2m近くある上に横にも太い感じだ」


「力士っぽい感じ?」


 シルエットをそんな風に想像したのだろう。

 それは間違っていない。


「顔は豚そのものだけどな」


「オークなのね」


 そう、ファンタジー定番の魔物である。


「ああ。2匹が並んでこっちに向かってくる」


「ドロップは豚肉と武器か。獲物は何だ、涼成?」


「棍棒と剣だ」


「片方が剣なら当たりの方かな」


 品質は望むべくもないけど素材としては使えるから異世界ではオークの剣も好まれた。


「こっちでは、どうだろうな」


「あー、屑鉄あつかいされるか」


「もしくは初心者用の武器として買い取ってもらえるかもな」


「そうだといいんだが、っと見えたぞ」


 向こうもこちらを視認したようで豚の鳴き声としか思えない咆哮を上げた。

 魔物はどいつもこいつも人間相手には凶暴性を隠そうともしない。

 こちらのことは餌だと思っているんだろうなぁ。


「突っ込んで来るよっ」


 真利が警戒の声を発した。

 確かにドタドタと重い足音を響かせて駆け寄ってくる。

 大きな肉弾が突進してくるのは相応の迫力はあるものの真利が思っているほどヤバい相手でもない。

 レベルが1桁前半だと吹っ飛ばされて大ダメージを負うという程度だ。

 打ち所が悪いと死んでしまうかもしれないが、今の俺たちなら真正面からでも対抗できる。


「まずは私と涼成でやろう」


 真利の警戒ぶりに思うところがあったのか英花がそう呼びかけてきた。


「はいよ」


 返事をして腰に下げていた剣鉈を引き抜く。

 俺が錬成スキルで作ったものではなく通販で購入した1本2万円程度の代物だが構造強化はしてある。


 眼前に迫らんとするオークに俺たちは自ら踏み込んで左右に分かれオークの脇をすり抜ける。

 すれ違い様に剣鉈で首筋を切りつけた。

 向こうは俺たちの踏み込みに反応できずに駆け抜けただけだ。

 そして、ドタドタともつれるような足取りで何歩か進んだかと思うと前のめりに倒れ絶命した。


「あれ?」


 真利が思っていたのと違うと言いたげに困惑しているな。


「レベル上げすれば、これくらいは容易くなるんだよ」


「今の突進も真正面からぶつかって止めることはできた。手数が増えるからやらなかったがな」


「え?」


 英花が補足説明をしてくれたのだが、真利の困惑の色が濃くなってしまった。


「レベルを上げれば図体のデカさは関係なくなるんだよ」


「そうなんだ……」


 呆けた表情で固まってしまう真利である。

 無理もない。

 今までの常識が崩壊しようとしているのだからしょうがない。

 完全に受け入れられるのは、やはり実際にオークと戦ってみる必要があるだろう。


「ここで、やめにするか?」


 もし怖じ気づいてしまったのであれば冒険者として活動するのはやめた方がいい。

 異世界に召喚された俺たちのように、その選択ができない訳じゃないのだ。


「ううん、やる!」


 真利がそう返事をするだろうとは思ったけどね。

 一度、強く決めたことは簡単に曲げたりはしないのだ。

 適当な感じで決めたことや何とも思っていないことは曲げることもしばしばなんだけど。


 その後、真利もオークを狩っていく。

 俺たちのやり方を真似したりオークの突進をタックルで止めたりもしていた。

 結果はノーダメージでの完勝。

 わざわざ詳細を語るほどのものでもない。


「豚肉ゲットー!」


 勝つたびに真利は嬉々として影収納のスキルでドロップアイテムを確保していく。


「そんなに豚肉が欲しいなら、うちのダンジョンでもオークを出すか?」


 俺の問いかけに真利は頭を振った。


「ここで出ればそれでいいよ。豚肉ばっかり欲しい訳じゃないし」


「そうは言うが、マッドボアより良い肉だぞ」


「そうなの!?」


「マッドボアが特売肉ならオークはブランド豚くらいの差があるからさ」


「うっ、それは大きいね」


 想像以上の差異に真利が呻いた。


「それに、ここを掌握したらオークの出現率を下げるつもりだし」


「えっ、どうして?」


「ここが初心者向けダンジョンとして定着しているからさ。いくら2層にしか出ないとはいえ、こうバンバン出てくると犠牲者が大勢出かねない」


「そっかー。そうだよね」


 話の途中ではあったが奥に行かせていたミケが戻ってきた。

 オークが出るようになった途端に罠が見つからなくなったためミケが退屈していたんだよね。

 そんな訳で新たな任務を与えていたのだ。


「ボス部屋を発見しましたニャ!」


「コアはあったのか?」


「はいニャ。ボスの奥に鎮座してましたニャン」


「間違いないようだな」


 見つけやすい場所にあるのは嬉しくない情報だ。

 掌握後は深い場所に埋めるなりして隠すべきだろう。


「うむ。して、ボスの種類は何なのだ、ミケ」


 英花が問う。


「オークキングですニャ」


 オークのさらにデカい版だがマントをまとい頭上に王冠があるためキングと呼ばれている。

 剣か杖を持ち、杖持ちは距離を取って戦おうとすると魔法をバンバン使ってくる。

 身長は3m以上で並のオークよりずっとパワーがあり、今の俺たちにとってはそこそこ強敵だ。

 タイマン勝負だとノーダメージですまない恐れがあるくらいには厄介な相手である。

 そうなると気になるのは……


「配下はいたか?」


 ということだ。

 配下が控えているかいないかで状況は大きく変わる。


「いませんでしたニャ。ただ、オークキングにしても大きい方でしたニャ」


「どのくらいだ?」


 英花が即座に確認する。


「オークの倍以上でしたニャン」


「杖は?」


「持っていませんでしたニャ」


「パワーファイターと見て良さそうだな」


「接近せずに魔法でやるか?」


「距離を取ると突進されるぞ。大きければパワーも段違いのはずだ」


 英花が懸念することも、もっともではある。


「そこは作戦しだいだろう。突進させないようにすればいい」


「ここでは緑精の守護者は使えないぞ」


 樹木どころか雑草すらないからね。


「泥沼に沈めるか初っ端に脚を潰すかすればいいさ」


「だったら両方でいいんじゃない?」


 とは真利の意見である。

 普段は大人しいのにエグいことを考えるよな。

 まあ、ゲームでは完封するのを好むからギャップは感じないけど。


「なかなかエグい作戦だな。さすがのオークキングも涙目になるんじゃないか」


 苦笑している英花。


「生死のかかった戦いに卑怯も正道もないよ。まして相手は魔物だし」


「うん、そうだな」


 真利の言葉を聞いて英花が引き気味に返事をしている。


「そういうことだから担当を決めようか」


 そうして俺たちは対オークキング戦の作戦を打ち合わせダンジョンの最奥へと向かっていった。

 泥沼担当が俺で脚を潰すのが英花、オークキングの注意を引くのが真利である。

 ちなみに脚を潰す魔法は風刃だ。

 杖持ちでないオークキングには見切れないはずなのでまともに食らうだろう。

 脚を潰せば後は魔法でタコ殴りするのみ。


 作戦が上手くはまれば完封間違いなしである。

 オークキングは涙目どころか、あっという間に断末魔の悲鳴を上げることになりそうだ。

 ここまで来ると消化試合の気分だけど、それは油断しすぎかな。

 作戦に気を取られて後のことを考えていなかったからね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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