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44 初心者ダンジョン第2層

「く、首から上が消し飛んじゃったよ?」


 ギギギと音がしそうなぎこちない動きで真利がこちらに振り向いた。


「うん、オーバーキルだな」


 レベル15の真利が気合いを入れた右正拳突きを見舞った結果だが当人にとっては想像の斜め上を行っていたようだ。

 ナックルダスターを手にはめて殴れば頭蓋の骨も簡単に割れると先に教えてあったんだけど。

 簡単に、という部分を失念していたのだろうか。


「張り切りすぎだ、真利。今の我々ならゴブリンごとき素手でもジャブで倒せる」


「えっ、じゃあ武器を用意したのはどういうこと?」


「素手だと拳がじかに当たるぶん汚れやすいだろ」


 ナックルダスターもさして差はないとは思うのだけど、まあ気持ちの問題かな。

 ゾンビで嫌な思いをしたから用意してみた訳だ。

 異世界では存在しない武器だったからネットで見かけて面白そうだと思ったのもある。

 ちなみに剣を使わなかったのは弱い魔物で格闘武器の具合を確かめておきたかっただけで特別な理由などはない。


「そうは言ってもこの程度の汚れは魔法で簡単に落とせるから、あんまり関係ないけど」


 ただし、ゾンビは除く。


「あんまり落とさない方がいいかもね」


「ん? どういうことだ?」


「外に出たときに変に思われるよ」


 確かにそうかもしれない。

 下手すりゃ、汚れ知らずとかあだ名をつけられかねないな。


「じゃあ、あまり酷くなるようなら魔法を使うってことで」


 この提案にはさすがに異論は出なかった。

 と、そこへ──


「秘密の階段を発見しましたニャ!」


 ミケが報告しつつ英花の影から戻ってきた。


「発見したのは朗報だが、もう少し落ち着いて行動してくれないか」


「失礼しましたニャン」


 謝ってはくれるんだが軽いんだよなぁ。


「それでは、さっそく御案内いたしますニャ」


 そういったミケがとんでもないことをし始めた。

 英花がズブズブと影に沈んでいく。


「待て待て待て!」


 すぐに気付いた英花がストップをかけたが、くるぶしまで沈みかけていた。

 外から見られてもギリギリ気付かれなかったとは思うが冷や冷やさせてくれるよ。


「どうしましたニャー?」


 ミケは悪びれることもなく不思議そうに聞いてくる。


「あのなぁ……」


 何がいけないのか気付いていないミケに英花が嘆息した。


「ここは我々のダンジョンでもなければ真利の屋敷でもないんだぞ」


「左様でございますニャ」


 キョトンとして返事をするミケ。

 この調子なもので何がいけなかったのか、まるで気付いていない。


「そうだな。外では慎重に行動してくれと言ってあったはずだが?」


 そこまで言って、ようやくミケは思い出した。


「誠に申し訳ございませんニャ!」


 飛び上がって平伏するミケ。


「魔王様に呼んでもらって重要な任務を与えていただいたことで浮かれておりましたニャー……」


 いつも以上にノリが軽いと感じたのはそういうことか。


「今回はしょうがないか」


「涼成、甘すぎないか」


「何処かの兵士長のように仕事で手抜きをされるよりはマシだろう」


「それもそうか」


 英花も納得したので改めて徒歩で案内してもらう。

 とはいうもののミケは霊体モードに切り替えたので浮遊しているのだけど。

 目的地を目指して進むことしばし。

 俺たちはダンジョンの入り口近くまで戻ってきた。


「おいおい、ダンジョンの外に階段があったのか?」


「違いますニャ。入り口近くのエントランスホールみたいになった広い場所ですニャン」


「なるほど。そいつは盲点だった」


「奥へ向かうための階段が入り口近くにあるとはな」


「灯台もと暗しだね」


 俺たちが自力で探していたら、どうなっていたことか。

 先入観のせいで何日も見つけられないでいたかもしれない。

 そういう意味ではミケのファインプレーなんだが、その後の軽率さで帳消しである。

 故に褒めたりはしない。

 褒められることを何より喜ぶミケには痛手だろうが、たぶん自分がもったいないことをしたとは気付くまい。


 とにかく入り口近くまで戻ってきた。

 ここはドーム球場の中くらいの高さと広さがあるんだよな。

 しかも魔物がポップしないし追われていてもここまでは追ってこないセーフエリアになっている。

 こういう場所だからこそ皆は大して調べもせず唯一見えている通路を目指してしまうのかもしれない。


「それで階段は何処だ?」


 周囲に気を配りながら英花がミケを急かす。

 見られたくないという心理が働いているのだろうか。

 今のところ俺たち以外に誰もいないが冒険者が必ず通る場所だから、いずれ誰かが通るだろう。

 別に階段のことは秘密にするつもりもないし見られても構わないと思うんだけど。

 まあ、新発見となると騒ぎになって探索が続けづらくなる恐れはあるか。


「ここですニャ」


 ミケが示した場所は入り口へ通じる通路脇の壁面だった。


「意地が悪いな」


「まったくだ」


「これだと誰も調べないよね」


 3人で顔を見合わせて苦笑する。

 ここのダンジョンコアはひねくれ者かもしれないな。


 とにかく壁を押してみる。

 ビクともしない普通の岩壁だ。


「引き戸になってますニャ」


 ガクッ


 思わずズッコケてしまった。

 その拍子に手をかけていた岩壁がゴゴゴと音を立ててスライドした。


「なんだかなぁ」


 現れたさらに下へと降りる階段を目にしても素直に喜べない。

 ダンジョンにからかわれたような気がしたからだ。


「とにかく行ってみよう」


 英花に促され俺たちは階段を降りていく。

 すぐに背後から岩壁のスライドする音が聞こえてきた。

 引き戸に気付いた者以外には存在を知られるつもりはないということか。

 あるいは階段を下ったら逃がしはしないというつもりか。

 そのあたりは下った先の魔物の強さで判断させてもらうとしよう。


 数十メートルは下がったあたりで上と同じような広い場所に出た。

 通路と階段の配置も似ているが、今度は階段を隠す気がないようだ。


「こういう時の階段は罠が多いんだよな」


「だな。それでもって行き止まりと相場が決まっている」


 俺と英花がそんな話をしていると階段の方からミケがヒョコッと現れた。

 どうやら先行して調べてきたらしい。


「涼成様と魔王様の見立て通り罠で行き止まりになってましたニャ」


 やはりそうか。


「じゃあ、通路の方へ行こうか」


「ミケ、先導しろ」


「アイアイニャー!」


 英花の指示にミケはわざわざ直立で敬礼してから行動し始めた。


『通路の入り口でさっそく罠ですニャ』


 報告は念話ですることも忘れていない。


『どんな罠だ?』


『地面が数センチほど凹むだけですニャ』


 英花の問いに返されたミケの念話はある意味、予想外のものだった。


「何だそりゃ」


 呆れるあまり思わず声が出てしまう。

 事前にわかってしまうと、どうと言うことはない罠だ。


「転ばせるつもりなのかなぁ」


 きっとそうなのだろう。

 馬鹿にされているのかと憤りを感じもしたが心理的な揺さぶりをするという意味では効果があるのかもしれない。


 その後は思わせぶりな出っ張りや洞窟には似つかわしくないドアなど罠を予感させる通路が続いたが、罠はなかった。

 ただし、罠を警戒するタイミングで魔物が出てくるのが地味に嫌らしい。

 上の階層と変わらずゴブリンと頭突きウサギではあったが。


「これはレベルが低いと地味に疲れるだろうな」


 英花の言葉になるほどと思った。


「初心者殺しか。向こうの世界でも似たようなのがあったな」


 必要以上に警戒し精神的に疲弊したところで魔物が襲ってきて肉体的にも疲れる訳だ。


「ということは、そろそろ強めの魔物が出てくるかな」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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