43 魔王様のスキル
「専門家を呼べばいい」
「専門家? そんな知り合いがいるの?」
英花の言葉に真利が首をかしげてクエスチョンマークで頭の上をいっぱいにする。
「何を言ってるんだ。うちにいるだろう、自称忍者が」
「ミケちゃんのことなのぉ!?」
専門家が誰だか気付いたにもかかわらず真利は驚いている。
そんなに意外だっただろうか。
ミケのことは俺も考えてはいたのだが。
ただし、一旦屋敷に戻って出直すことになるのがネックだとも思っていた。
「今からミケを召喚する」
「待て待て。そんなことをしたら召喚コストがシャレにならんだろ」
同じダンジョン内にいるなら距離があっても大して魔力は消費しないのだが。
ダンジョンの外から中へと呼び込もうとしたり、その逆の場合は桁違いに魔力を消耗してしまう。
出直すことになると考えたのは、そういう理由からだ。
「普通はな」
不敵に笑みを浮かべる英花だが、俺にはサッパリ見当もつかない。
その自信は一体どこから来るのだろうか。
「普通じゃない方法なんてあったか? 少なくとも俺は知らないぞ」
「フフフ、当然だ。勇者固有のスキルではないからな」
召喚魔法かと思ったらスキルを使うのか。
上級や特級のスキルでも思い当たるものがない。
それ以前に特級でさえ可能になるとは思えないのだが。
ダンジョンの外界を遮断する能力は、それほどまでに桁外れの性能なのである。
可能になるとすれば、きっと勇者のユニークスキルなんだろうけど英花はそれを否定しているし。
「勇者だけが固有スキルを使えると思うなよ」
「なにぃ?」
さすがに驚かされた。
ここまで自信満々に言うからには間違いなくそのスキルを持っているだろう。
そこまで言われてもわからないスキルって何だ?
「これは私だけのスキルだから涼成が知らないのも無理はない」
「英花ちゃんだけってスゴいよね」
真利は素直に感心しているが俺の頭はフル回転中でその余裕はない。
英花だけというのは大きなヒントだ。
ただ、マンガで見かけるような個人だけのスキルというのは無かったはず。
レア中のレアである勇者スキルだって俺だけじゃなく英花も持っているからね。
「あ」
不意に気付いた。
勇者スキルについて考えたことが引き金となったみたいだ。
俺に無くて英花にはあるという条件に該当するものがひとつある。
俺が声を漏らしたことにより英花がニッと笑みを浮かべた。
「気付いたようだな」
「魔王様のスキルってことなんだろう?」
「ああ、その通り」
不敵に笑う英花。
「魔王の固有スキルにして、ほとんど反則のスキルだ」
「反則ねえ」
確かに勇者スキルも反則級である。
ならば本来はその敵である魔王のスキルも同様に反則級だろう。
下手すりゃ、もっとヤバいかもしれん。
「その名も眷属召喚」
名称は普通だ。
普通すぎて驚くこともできない。
「眷属や契約した相手を呼び寄せることができる便利スキルだ」
確かに便利ではあるが反則かと問われるといささか微妙だと言わざるを得ない。
ということは付随する条件が反則級なのだと思われる。
「しかも、これは何処に何度呼び出そうと魔力コストはゼロだ」
「はあっ!?」
反則級どころの話じゃないぞ。
魔王がその気になれば半永久的に配下の魔物を呼び出し続けることができてしまうじゃないか。
俺、魔王だった英花との決戦でよく生き残れたな。
眷属召喚のスキルをまるで使わなかった理由はわからんが連発されていたら死んでいたに違いない。
「ものは試しだ。さっそくミケを呼び寄せてみよう」
「待て。先にカモフラージュしてからだ」
他の冒険者で魔法を使っているという話を聞いたことがないので目撃されない方がいいだろう。
壁に耳あり障子に目あり、だ。
だったら今までの会話は誰かに聞かれていないのかという心配なら無用である。
ダンジョンに入った直後から物音や俺たちの話し声で魔物に気付かれないよう簡易結界を張っているからね。
結界の内側から外へ出ようとする音声は遮断し逆方向は素通りするので安全性は高い。
ただ、召喚魔法に等しいスキルを使うのであれば不充分だ。
召喚は見た目もそれなりに派手で目立つからね。
「おっと、そうだな」
まずは周囲の気配を探り俺たち以外は誰もいないことを確認。
その上で他の冒険者が近づいてきても目撃されないよう先に光学迷彩の魔法をかけておく。
「では行くぞ」
「ああ」
返事をした次の瞬間。
ポン!
シャンパンを開けたときのような破裂音とバスケットボール大の白煙。
これには覚えがある。
「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーン!」
白煙の中から外連味たっぷりにミケが飛び出してきた。
くるっと宙で前転し二本脚で器用に地面へ降り立ったのも前回と同じ。
器用に片膝をついて最敬礼するところまで、そっくりそのままだ。
「お呼びにより参上つかまつりました、魔王様。何なりと御命令を」
よほど退屈していたのかノリノリである。
「このダンジョンに隠された通路を暴くのだ。行け」
その言葉に合わせて腕を払うように振るう英花。
魔王様のロールプレイか?
「ははっ!」
返事をしたミケはシュバッという効果音がしそうな勢いで立ち去った。
ミケがいなくなると急に静寂が訪れる。
そのせいか英花が居心地悪そうに肩をすくめた。
「慣れないことはするもんじゃないな。こんなにも恥ずかしいとは思わなかった」
「ミケが気合いを入れて仕事をしてくれると思ったから頑張ったんだろう?」
「う、まあ、その通りだ」
「なら悔いることはない。後はミケが朗報をもたらしてくれるのを待つだけだ」
「そうだねー。でも、待ってるだけなのは手持ち無沙汰だよ?」
真利が同意しつつもそんなことを言ってきた。
ただ待ち続けるよりは体を動かした方が恥ずかしさも薄れると考えてのことだろう。
「じゃあゴブリンでも狩りに行くか」
「ゴブリンかー」
真利はあまり乗り気ではなさそうだ。
「なんだ、人型の魔物は倒せそうにないか?」
うちのフィールドダンジョンではまだ出したことがなかった。
事前に確かめておくべきだったかな。
「んー、たぶん大丈夫」
「それじゃあ何がダメなんだ?」
「ダメなんじゃなくて儲けが薄そうだなって。ゴブリンって魔石以外は素材にならないって情報が出ていたから」
「どこ情報だよ、それ」
「ネットだよ。違うの?」
「何にも知らないとそうなるか」
「だな」
英花と2人で苦笑し合う。
「どういうこと?」
「ゴブリンは皮を残すんだが」
「うん、品質が悪くて使い物にならないって」
「魔道具作成か錬成のスキルで加工すると樹脂素材になるぞ」
「えっ?」
「それも自然に還元するからゴミ袋にできる」
ゴブリンのイメージは良くないだろうからレジ袋にはしづらいとは思うが、袋以外にも加工できるので何かしら用途はあるだろう。
「んー、それじゃあ少しお試しでやってみようかな」
という訳でミケからの報告を待つ間、俺たちはゴブリンを求めてダンジョンの奥へと進んだ。
千里眼のスキルで確認しつつだから時間はそうかからない。
数十分は歩かされたけどね。
それでも他の冒険者のようにマッピングしながら並行して魔物も探すようなことをしていたら、もっと時間がかかったことだろう。
「おあつらえ向きに3匹いるね。涼ちゃんは狙ってたの?」
真利は1人1匹の勘定をしたらしいが、そんなつもりはない。
「あんなの1人で充分だろう」
「えー、皆で外のダンジョンに来た記念だよ。皆で狩ろうよ」
「記念って言うほどのことか?」
とは思ったが危険な状況には程遠いので真利の提案に乗ることにした。
ナックルダスターで殴れば一発だろう。
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