42 初心者ダンジョンは拍子抜け?
からんできた6人組の身柄は警察に引き渡され逮捕連行された。
俺たちも事情聴取を受けるのかと思ったが、そういうことにはならなかった。
冒険者がライブ配信していた以外にも組合が監視カメラの記録を提出したからだそうだ。
連中は問題行動が多いと報告が多数あったため今回から厳重マークで音声の記録も取られていたというので証拠としては充分らしい。
そんな訳で警察に引き止められることもなく早々に解放されたのだが。
今度はライブ配信者やそれを視聴していた冒険者たちに囲まれてしまった。
「いやあ、見事な撃退ぶりだったね」
「途中でどうなるかと冷や冷やしたよ」
「アイツら、見境ないからさ」
「中身は完全に子供だもんな」
「言えてるー」
「でも、よくライブ配信してるって気付いたね」
「ブラフだよ」
「えっ!?」
「ああ言えば連中は間違いなく焦ると踏んだから言ってみた」
本当は千里眼のスキルで配信されているのを見て知っていたのだけど、これは言う訳にはいかないのでね。
「……すごい度胸だね」
「ホントだよー」
「ちょっと真似できないよな」
呆れられてしまった。
そんなに無茶をしたつもりはないんですがね?
「前の時もその前も無かったことにされたし」
「だから今回は絶対に何とかしてやろうと思ったんだ」
それがライブ配信に繋がったということか。
道理で最初から撮影されていた訳だ。
冒険者組合だけでなく一般の冒険者からもマークされていたなんて皆に嫌われていたんだな。
連中がどう思われていようが俺たちの知ったことではないけどさ。
「すまないが、俺たちはもう行くよ」
「ああ、こちらこそ引き止めて悪かったね」
このまま話に付き合っていたらダンジョンに潜るのがいつになるやらって感じだったので切り上げさせてもらった。
だが、6人組とは違って彼らには悪印象などない。
むしろアシストしてもらった訳だし大いに感謝している。
彼らがいなければ、こうも簡単に解決はしなかっただろうからね。
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洞窟のような通路を下っていく。
「こういうダンジョンを見るとゲームっぽいって思うよね」
真利の感想がお気楽な感じで気が抜ける。
まあ、敵対的な気配を感じないからというのもあるのだが。
「あまり油断するなよ、真利。ダンジョンは予想外のことが起こり得る場所だからな」
英花が注意を促した。
経験者は語るというやつだ。
「うん、わかった」
そこから先もしばらくは何もなかった。
いや、他の冒険者と遭遇することはあったけどね。
挨拶を交わしたり軽く情報交換したりした程度で問題は発生していないという意味だ。
「このあたりは魔物が狩りつくされているね」
「入り口近くはそんなものだろう」
真利と英花の話を耳にしつつ俺は千里眼スキルを使っている。
「このあたりを徘徊していてもしょうがない。もっと奥へ行こう」
「何か見つけたのか、涼成」
「一応はな。大した相手じゃない」
「それで何だったの?」
「ゴブリンが多い。後はうちでおなじみの頭突きウサギ」
「洞窟なのにコウモリがいないんだね」
不思議そうに首をかしげながら真利はそう言ったが、ここはダンジョンなので何でもありだ。
極端なことを言えば、ここに植物系の魔物が出てもおかしくはない。
光合成もできない環境だろうと関係ないのだ。
「それを言うなら洞窟内なのに薄明るい方がらしくないだろ」
ここは何かに照らされている訳でもないのに暗闇ではないのだ。
全体的に薄暮の時間が終わろうとしている頃のような感じなので微妙な明るさだけど意外に見通しは悪くない。
「そういえばライトはいらなかったね」
今頃気付いたかのように言う真利である。
それに、もし闇夜のように暗かったとしても全員に暗視スキルがあるので使う必要性のない道具だ。
ダミーとして携帯はしているがね。
「初心者御用達と言われるだけはあるな」
ふと英花がそんな感想を漏らした。
「それにしたって魔物が少なすぎだけど」
「そうなの?」
うちのフィールドダンジョン以外のダンジョンを知らない真利が不思議そうに聞いてくる。
「これがゲームだったらどう思う?」
「経験値稼ぎができないから見切りをつけてよそに行くよ」
同じようなことが現実に起きている。
よって、ここに来るのは安全にダンジョンを満喫したい趣味で冒険者をやっている者たちか訓練を目的とした初級冒険者くらいのものだ。
先程見かけたように、そういうのをカモにしようとする輩もいるようだが。
ああいうのは例外だろう。
普通は事案のもみ消しなんてできないからね。
「あっ、ここはやめにして他に行く?」
俺の言いたいことを誤解した真利が提案してきた。
「その前に確認しておかなきゃならないことがあるよ」
「えっ、なになに?」
「ダンジョンコアの在りかだよ」
「ないの?」
「守護者に相当する魔物がいない」
千里眼スキルで洞窟内をザッと見て回ったけど見つからなかった。
そんなことはあり得ない。
「つまり、ダンジョンコアもない?」
そんな訳はない。
ダンジョンコアが存在しているからこそダンジョンは維持できる。
うちのフィールドダンジョンを掌握した時みたいに地下に隠れていることは考えられるが、それでも守護者が守っているものだ。
そのことについては真利も理解している。
だから困惑気味に聞いてきたのだ。
「矛盾してるだろ」
「うん。でも……」
真利の困惑は解消されない。
矛盾しているからこそ訳がわからなくなってしまうからね。
「簡単なことだぞ」
煮詰まっている真利を見かねたのか英花が会話に入ってきた。
「えっ?」
「涼成の千里眼が届かない場所に守護者がいるということだ」
「その通り」
千里眼は何処にでも飛ばせる訳じゃない。
完全に囲われているような所には送り込めないのだ。
既知の場所であるなら話は別だが今回の場合は該当しないということだな。
「あっ」
真利も気付いたようだ。
「それじゃあ、何処かに隠し通路があるってこと?」
「そういうことになるな」
問題はそれが何処にあるのかということだ。
「どうやって探すの?」
真利もその大変さに気付いたようだ。
結構な頻度で冒険者が訪れているダンジョンであるにもかかわらず未だに誰も発見できていない。
最悪の場合、こことは別の入り口からしか入れないということも無いとは言えない。
「斥候は人任せに近かったからなぁ」
「私もだ」
俺も英花も異世界では常にパーティ単位で行動していたから前衛が主な仕事だった。
千里眼のスキルを得てからは下調べのようなことをするようにはなったけど最終確認は任せていたし。
「えーっ」
「時間をかけてもいいなら何とかなると思うが」
「今日中には無理だろうな」
「じゃあ通うの?」
「それなんだよなぁ」
頭の痛い話である。
思ったほど難易度が高くなさそうなダンジョンに日数をかけるのは微妙なんだよな。
食料をもっと確保できるなら通ってもいいんだけど。
「短時間で済ませる方法ならあるぞ」
予想外のことを言い出したのは英花だった。
一体どうするつもりなんだ?
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