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380 また会う日まで

 挨拶回りで最初に訪れたのは日枝神社だった。

 ここには猿田彦命とその眷属である九尾の狐がいる。

 あと芦ノ湖での戦闘で世話になった神使のお猿さんたちもね。


「おや、今日はどうしたんだい?」


 神境に入ると猿田彦命が出迎えてくれた。

 かたわらにはいつものごとく九尾の狐がいる。


「よお、そろそろ地元に帰るか」


 こちらが話を切り出す前から俺たちの予定を言い当てられてしまった。


「そんなところだ。地元でやらなきゃならないこともあるからね」


「今生の別れでもないだろう。また顔を出せよな」


 そう言って九尾はニカッと笑った。


「そうさせてもらうか」


 俺も笑みで変えそうとしたけど、ぎこちない苦笑のような顔になってしまった。

 慣れていないとこんなものだ。

 意図して笑うなんてする機会がないからね。


「寂しくなるねえ」


 しんみりした感じを出してくる猿田彦命。


「そうは仰いますが、ここにはあまり来ていませんよね」


「いや、ゲーム大会の面子と宴席が減るじゃないか」


 ガクッとズッコケた。

 そっちの心配かよと内心でツッコミを入れる。


「食材は大量にゲットしたので青雲入道に渡しておきます。宴会はそれで何とかしてください。ゲーム大会の方は別の伝手を探してください」


 猿田彦命には世話になったし恩義に報いたいとは思うものの、それは無理のない範囲での話だ。

 何もかもお任せあれなどと言うつもりはない。

 そんなのは猿田彦命とて望んじゃいないだろう。


「そうだねえ」


 賛意を表しはしたが何処か歯切れの悪さを感じてしまうのは何故だろう。

 猿田彦命の隣で九尾が横を向いて頬を膨らませていた。

 怒っていると言うよりは吹き出しそうになっているのを堪えている感じに見える。

 なんだ?


「おお、そうだ!」


 さも妙案を何かを思いついたと言わんばかりに猿田彦命が握った拳を軽く振り下ろして掌にポンと落とした。

 わざとらしさが拭えない仕草だ。

 が、寂しさを紛らすためかと思い直す。

 神様も別れには弱いようだ。


「餞別と言ってはなんだが君たちには転移門を開いておこう」


「はあ」


 転移門を開くといわれても、それがどういうことなのか分からないせいで生返事になってしまった。

 それが面白かったのか九尾が耐えきれずに吹き出したかと思うとゲラゲラと笑い出す。

 器用に前足を額に当てながら笑う様はオッサンそのものである。


「ヒドいなぁ。笑うことはないだろう」


「いやいや、あまりにも下手な芝居すぎて笑うなと言われても無理っすよ」


 ヒーヒーと息を吐き出しながら、そんなことを言う九尾である。


 ということは猿田彦命が言っていた餞別は端から俺たちに渡す予定のものだったということか。

 ますます分からないんですがね。

 転移門と言うからには転移と何らかの関係があると思うんだけど、異世界でも聞いたことのない単語だ。


「転移門てのは転移の術を使ったときの道しるべになるものさ」


 ようやく笑いが収まった九尾が説明してくれた。

 そこまでは想像がついていたんだけど、それならすでに許可をもらってマーキングしているので効果が重複してしまう。

 何かしら追加の効果があるはずだ。


「お察しの通り転移門を開くと許可された者にはいいことがあるのさ」


 フッと笑みを浮かべてドヤ顔をする九尾。

 勿体ぶるが、それほどの何かがあるということなのだろう。


「転移するときに距離があると消耗がハンパないだろ。それを転移門の方で肩代わりしてくれるのさ」


「なっ!?」


 さすがにそれほどの効果があるものだとは思いもしなかった。

 多少の軽減なら驚きもしなかったはずだが、自分で魔法を使っておいて消費がゼロというのはさすがに信じ難い。


「信じられないって面だな」


 クックックと喉を鳴らして笑う九尾。


「それだけうちの神さんに気に入られたってことだ。そんな奴、ここしばらくお目にかかったことがねえよ」


 その言葉は耳に届いているのに反応ができずにいる。

 俺だけじゃなくて真利や英花も同じらしくポカンと口が開いてしまっていた。

 呆気にとられるとは正にこのことだろう。


「ならば気軽に来ることができるな」


 唯一、平然としていたネージュがそんなことを言った。

 猿田彦命がウンウンとうなずいている。


「遠慮せず来てくれると嬉しいよ」


 そう言われて、やっと呪縛が解けたように通常の思考が戻ってきた。


「ありがとうございます」


 俺が言うと英花が同じように「ありがとうございます」と続く。

 真利はそんな英花に肘でつつかれたことで、ようやく我に返っていた。

 もちろん気がついてすぐに礼を述べたよ。


 そんなこんなでサプライズを受けつつ別れを惜しみながら挨拶をすませ、転移魔法で次の場所へと向かう。

 転移で跳んだ先は九頭龍神社だ。


「地元に帰るんだってね」


 青龍様がそう言いながら出迎えてくれた。

 猿田彦命が気を利かせて連絡を入れてくれていたみたいだな。


「名残惜しいな。その節は世話になった」


 青龍様の隣に立つ金竜様が礼を言ってくれた。


「ああ、そうだったね。ありがとう」


 青龍様もそれに続く。


「いえ、気にしないでください。俺たちにとっても利のあることだったんですから」


「気にするなといわれても無理というものだ」


 その言葉は背後から聞こえてきた。

 俺たちが来ることを知らされて白龍様もやって来た訳だ。


「我々の存在が消えるかどうかの瀬戸際だったのだからな」


 そう言われてしまうと返す言葉が見つからない。


「我も世話になった」


 白龍様からも礼を言われた。

 神様たちから謝意を受けると、どうにも恐縮してしまう。

 その気持ちに飲み込まれないよう帰りの挨拶を済ませると──


「うちも転移門を開いておくから、いつでも遊びに来てよ」


「うむ。待っておるぞ」


「歓迎する」


 ここでも出血大サービスなサプライズを受けてしまった。

 すごくありがたいけど、手軽に移動できる分どの程度の頻度で訪れるといいのかは考えさせられてしまう。

 贅沢な悩みなんだろうけどね。


 さて、次は高尾山だ。


「我も転移門を開くぞ。いつでも来ると良い」


 有無を言わさぬ感じで言われてしまいましたよ?

 3回目ともなるとサプライズじゃなくなっていたけどね。


「さらばだ。また会おう、我が友よ」


 別れ際のその挨拶はとても感じ入るものがあった。


 残るは遠藤大尉たちである。

 アポを取るべく連絡を入れたけど直接会うことは叶わなかった。

 ブートキャンプの予定がすし詰め状態なんだと。


『時間ができたら、そっちに邪魔するぜ』


 この人が言うと社交辞令じゃなくて本当に来るから注意が必要だ。

 それが分かっている英花も機嫌を悪くしている。

 相変わらずの拒絶反応だ。


「氷室准尉たちにもよろしくお伝えください」


『了解、了解。じゃあ、またな』


 これで挨拶回りは終わった。

 後は地元に帰るだけだ。


 その後のことは特筆するようなことは思い浮かばない。

 地元に帰り着いて留守番組に土産を渡しつつ新メンバーを紹介したりと、それなりに盛り上がるイベントにはなったけどね。


 ちなみにお台場ダンジョンの攻略は帰ってからも続けたよ。

 英花の眷属召喚を利用してね。

 実は攻略完了に年単位で時間がかかる世界最大のダンジョンだったのだけど、今の俺たちには知る由もない。

 しかも海外のダンジョンに跳んだりもすることになるんだよね。

 まずは当面の予定として開校準備が控えているけどさ。


 それらの話もいつか語れる日が来るだろう。

 ただ、今は長期遠征の疲れを癒やすべく休もうと思う。


 おやすみ。良い夢を。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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