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38 今後の方針

 リアの話を具体例を交えて事細かに聞くとそれなりに長いものだった。

 要約して言えば、今のままでは世界はダンジョンに蝕まれて死の星になってしまうのだという。

 星の魔力資源を際限なくむさぼる状態なんだそうだ。

 リアはそれをダンジョンスタンピードと言った。

 魔物のアレをもっと広範囲にしたものだというのだからシャレにならない。


 死の星になるとどうなるか。

 あれやこれやと聞かされたが、もっとも問題視すべきは不毛の荒野となり誰も生きていられなくなるということ。

 ダンジョンですら魔力を得られなくなって存続できなくなるのだから当然の末路と言えるだろう。


 この流れを食い止めるにはダンジョンコアを掌握し正常な状態に戻すかダンジョンを消滅させる必要がある。


「全部、潰しちゃダメなの?」


 真利の質問はもっともと言えたが。


「それをすると今の人類は生きながらえることができるか疑問です」


「どういうこと?」


「食糧の確保にダンジョンが積極的に活用されているからです」


「今の俺たちみたいにか」


「はい」


「そういえば4年前に畜産業が深刻な被害を受けて豚や牛は高級品になったんだっけ」


 そういう情報は調べていなかったな。

 聞けば天変地異があった際に豚や牛が死滅する病が広まったそうだ。

 それだけじゃなくて地割れやら津波やらがあって壊滅的な被害になったという。


「農業はどうなんだよ」


「そっちもだけど病気がなかった分だけマシだったみたい。それに人もいっぱい減ったから……」


「そうか」


 日本の人口も半分以下になったんだっけ。

 残っている国も似たようなものだと聞いたし状況的に似たようなものだろう。


 その後もリアの話を聞いて情報の把握に努めたが状況は思わしくない。

 最後の方はお通夜のような状態になってしまった。

 どう考えても地球滅亡まっしぐらとしか思えなくなっていたからだ。


「あ、そうだ」


 まっしぐらで気付いたが、聞きそびれていたことがひとつある。


「どうした、涼成?」


「猶予はどのくらいあるんだ」


「長ければ百年ですが──」


「おいいいぃぃぃぃぃっ」


 思わずツッコミを入れてしましましたよ?

 そんな先だと俺たちの中で生きていられる者は誰もいないっての。

 ミケや紬は俺たちが死ねば契約解除になるし。

 リアも俺たちという上位者がいなくなれば解放されるはず。


 さすがに、その後のことは知ったことじゃないなんて言うつもりはないけれど泡を食うほどでもないだろう。

 死ぬまでには何とかしてみせるさ。


「最短だと十年未満といったところでしょうか」


「……誤差が大きすぎないか」


「不確定要素が多すぎますので」


 リアの予測も当てにしない方が良さそうだ。


「それはデータ不足ということか?」


 英花が問うとリアはうなずいた。


「はい。いくつかダンジョンを潰せば多少は予測の精度を上げられるかとは思いますが」


「掌握するだけではダメなのか?」


「ダンジョンが消滅することで得られるデータがもっとも不足しているのです」


 これまでに地球上からダンジョンが消えたことなどないのだから当然と言えば当然か。


「だとすれば当面はダンジョンの破壊活動がメインになりそうだな」


 英花の言葉に俺はうなずいたのだけれど。


「すぐには無理だと思うよ」


 真利に水を差される格好となってしまった。


「近場にダンジョンがないのですかニャ」


 ミケが小首をかしげながら問う。


「そうじゃないよ。フィールドダンジョンはともかく普通のダンジョンは入場が管理されているから」


 真利の答えに思わず声を漏らしそうになった。


「基本的に冒険者でなければダンジョンに入れないんだったな」


 俺が詰まっている間に英花が話していた。

 ダンジョンへの立ち入りが許可制な理由は不幸な事故を防ぐためだそうだ。

 それでも事故は起きるが、それを承知で冒険者になるため自己責任ということになる。


「そうだよ。冒険者の免許がなければダメなんだって」


 確か筆記と実技の試験をパスすると取得できるという話だったか。

 まるで運転免許だな。

 もしかして教習所とかあったりするのかね。


「そういうことか」


 納得の言葉を吐きながらも英花が表情を渋らせた。


「住民票が必要なんだな」


 あー、それはマズい。

 英花はこことは違う世界の日本人だから存在を証明するものがなにもない。


「戸籍から用意しないことには住民票もダメだろうなぁ」


「少し時間はかかるけど大丈夫だよ」


 マズいことになったと思ったのに真利は余裕の表情である。


「その心は?」


「4年前のことで戸籍とかの記録がいっぱい無くなっているから戸籍復帰手続きの制度ができたんだよ」


 要するに虚偽の申告をして戸籍をでっち上げ、そこから住民票を作ろうということか。


「犯罪だぞ」


「じゃあ、正直に異世界から来ましたって言う?」


「無理だな」


 頭のおかしい奴扱いされて何もできないのがオチだ。


「犯罪じゃなければ良いですかニャン」


 不意にミケが会話に入ってきた。


「どうするつもりだよ」


「最初からあったことにしてしまえばいいですニャ」


 意味がわからない。

 戸籍や住民票を偽造することも犯罪だからミケの考えとは違うはずだが。


「ニャーは忍者だということをお忘れですかニャ」


 そういや、そんなことを自称していたな。


「忍者だからどうだと言うんだ?」


 サッパリ意味がわからない。


「潜入しての情報操作はお手の物ですニャ」


「忍び込んでどうにかすると?」


「ハイですニャ。今の話の間に電子情報の流れに乗って見てきましたニャン。充分に可能ですニャ」


 どうだとばかりに胸を張るミケである。


「あー、今は戸籍も住民票も電子情報だからねー。ケットシーってそんなことまでできるんだ」


 真利が妙なことで感心していた。

 俺としては「マジかよ」と言いたい心境なんだけど。

 どう考えたって俺や英花にも不可能なことだからな。


「我が種族は日々研鑽を積んでおりますニャ」


 ミケはますますドヤ顔になっていく。

 俺としては逆に懐疑的な目で見てしまうのだが。


「本当に大丈夫なんだろうな」


「お任せくださいニャ。破綻のないよう電子情報を書き換えてきますニャン」


「それも犯罪だと思うけど?」


 つい今し方、感心していた真利がツッコミを入れた。


「細かいことは言いっこなしですニャ。虚偽の申告は証拠が残りますニャ」


 つまり証拠も残さないから犯罪じゃないと言いたい訳か。


「わかった。ミケに任せよう」


 途中から黙って話を聞いていた英花が承諾した。


「魔王様、ありがとうございますニャー」


 ミケは飛び上がっただけでは足りないとばかりに踊って喜び始めた。

 侵入者相手に仕事ができなかったのを密かに悔しがっていたみたいだし、そういう心境にもなるのか。


「いいのか?」


 俺は念のため英花に確認すべく問いかける。


「ああ、もっとも確実な方法だと判断したからな」


「そうか。わかった」


 英花がそう言うなら反対するつもりはない。

 後は前に進むだけだ。

 まずは住民票を用意して冒険者免許を取得するところから。


「免許を取ったら近場のダンジョンで様子を見るか」


「不人気なダンジョンを探して潰す方がいいんじゃないか?」


「フィールドダンジョン以外は入場が管理されているんだろう?」


「そうだな」


「新人がいきなりド派手な活躍をしたら大騒ぎだぞ。下手すりゃ色々と詮索されかねない」


「それは嫌だな」


「潰すのはフィールドダンジョンにしておこう」


「なるほど。それならバレにくいか」


 人手不足様々である。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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