379 まだ先はあるけれど
休日を終えて翌日。
俺たちは10層に来ている。
11層の探索よりもレベル上げを優先したからだ。
大物との4連戦は効率よく経験値を稼げるからね。
現にマッドホエール戦の後で確認してみたらレベルが70から72に上がっていた。
しばらく確認していなかったので新しく湧いたダンジョンで戦った分などの経験値も含まれてはいるだろうけどね。
それでも効率がいいのは中ボス4連戦だ。
慌ただしくはあるけれど魔物を捜し求めて徘徊する必要がないからね。
今回はネージュも参戦して交互に戦うことにしたので消耗も少ない。
これならネージュも退屈しないだろうし、ひとつ確かめてみたいこともあったのだ。
4連戦が終了し俺たちは階段を使って9層へ戻る。
そして、しばらく休憩してから再び10層へ向かいミケを偵察に送り出した。
「どうだった?」
戻ってきたミケに報告を促す。
「読み通りでしたニャー」
「ということは召喚の魔法陣が復帰しているのか!?」
俺の説には半信半疑だった英花が驚いている。
「その通りですニャン。4枚とも光ってましたニャ」
「別の階層に移動すると召喚魔法陣がリセットされる説が証明されたねー」
「面白いことを考えるものだと思ったが、これは本当に愉快だな。食材がゲットし放題だぞ」
「そっちかよ。俺としては経験値が稼げてレベルアップする方がありがたいんだがな」
「短期間でそれができるボーナスステージみたいなものだからねー」
「そうと分かれば先に進むよりも価値があるな」
俺の仮説が証明されたことで英花も乗り気である。
そんな訳で掟破りの中ボス4連戦周回アタックをすることになった。
まあ、前回も含めれば3周目なので特筆するようなことは何もなく終了してしまうんだけど。
「これ、スゴいよねー。今日だけで3周できちゃいそうだよー。どう考えたってダンジョン側は損するだけなのに止めたりしないのかなー」
「一度ダンジョンコアがそういう設計にしてしまうと変更はできないだろうな。新しい階層を追加することは可能なんだが」
真利の疑問に英花が答えた。
ダンジョンの細かな部分については魔王だった頃の記憶も残っているので俺より詳しいんだよな。
「最初からダンジョンの形状が変わるように設定されていることはあるが、それも決まったパターンの内から選んでいるにすぎない」
「そうなんだー。でも、可変型のダンジョンってスゴいと思うよー」
「そんなことはない。仕組みは単純だし効率も悪いんだ」
「そうなのー? 実際にあったら、そんな風に思えないんじゃないかなー」
真利の言葉に英花が苦笑する。
「それがダンジョン側の狙いだろうからな。中身は複数の階層をひとつの階層に割り当てているだけだぞ」
「もしかして転移トラップの応用か?」
「そうだ」
俺が推測したことを問うと英花は肯定した。
「つまり、何処にもつながっていない階層がいっぱいあって、そこのひとつに転移トラップでつなげていると」
「そういうことだ。種がわかれば単純だろう?」
「あらら、それは確かに効率が悪いねー」
常に使わない階層が確実にひとつ以上存在することになるからね。
「そういう意味では、この階層は効率がいい」
「そうかなー」
「リポップと召喚は違うからな」
英花のその言葉で俺は勘違いしていたことに気付かされた。
「そういうことか。召喚ならリポップよりもはるかに少ない魔力で使える」
問題があるとすれば俺たちのようにハメパターンで周回された場合に止めようがないということくらいだ。
滅多なことではあり得ない話ではあるのだけど。
そもそもこの階層にたどり着くのが無理ゲーだからね。
「ほとんど使われることはないだろうけど念のため設置したトラップなんだろうな」
「そういうことだ。見事に裏目に出てしまっているがな」
「だったら目一杯、利用しないとねー」
真利はちゃっかりしているな。
まあ、体力魔力ともに余裕があるから反対する理由は何処にもないんだけど。
という訳で食材と経験値のWゲットのため今日だけで3周しましたよ。
経験値はともかく食材はそんなに必要かと言われそうだけど、留守番組の隠れ里の民たちへの土産ってことにしておく。
今後も周回をするつもりなので土産にしても多すぎるってことになると思うけどね。
そんなこんなで次の日も、また次の日もお台場ダンジョン10層で周回アタックを繰り返した。
何度も戦っていると古いゲーム機のRPGでレベル上げをしているような感覚に陥ってしまうことも度々あった。
それでもやめずに続けたのはひとつの目標があったからだ。
レベル80を越えるまでは周回を繰り返す。
ただ、いくら大物相手でも簡単な話ではないんだよね。
レベルを上げれば上げるほど必要な経験値が跳ね上がるからさ。
そんな訳で最後の方ではレベルの確認をいちいちしなくなっていた。
そろそろかと思っても落胆したくないので我慢するなんてことの繰り返しだったけど。
そして、ある日のこと。
さすがに何日も確認していないのもどうかということでレベルを見てみたのだが。
「レベル81になってるよ」
目標より1だけだが上回っていた。
「周回アタックの終了だねー」
真利は苦笑しながら伸びをする。
「しばらくは遠慮したいものだな」
英花は辟易した表情を隠そうともせず脱力していた。
気持ちはわかるというか同感だ。
「飽きたのであれば、よそのダンジョンへ行くのも気分転換になるぞ」
とはネージュの言葉である。
「それも考えないではなかったんだけど、そろそろ地元に帰ろうと思うんだ」
「賛成ー。大人の修学旅行もネタ切れだもんねー」
「賛成はしたいが、お台場ダンジョンの続きはどうするつもりだ、涼成?」
真利は完全に帰る気になっているが、英花には迷いがあるようだ。
「帰っても攻略は続けるさ」
「どうやってだ!?」
「うちのダンジョンから転移すればいいだろ」
「おい、そんなことをすれば魔力がどれだけ必要になると思っているんだ」
苦言を呈してくる英花だが、俺にとってそれは耳が痛い話ではない。
「ネージュがいるだろ」
「あっ」
驚きの声を上げる英花を見てニヤリと笑みを浮かべるネージュ。
そう、俺たちよりも高い次元で自分のダンジョンを支配しているネージュであればダンジョン間転移も苦ではないのだ。
聞けば英花の眷属召喚のようにほとんど魔力を消費しないんだと。
しかも行ったことのないダンジョンでも転移が可能だ。
ネージュが北海道から来たのもイカの魔物を求めてダンジョンを検索してのことだからね。
距離の制限はないので国内に限らず世界中のどのダンジョンでも行けてしまうのが凄まじいよな。
その気になればダンジョン攻略の幅が広がるなんてものじゃない。
実は事前にその話をして連れて行ってもらう了承はもらっている。
たまたま英花や真利のいないタイミングだったので俺しか知らなかったんだけど。
それを説明したら、その時に話せと怒られた。
反省だ。
とにかく、大人の修学旅行は終了となった。
そろそろ学校の開校準備も始めないといけないからね。
運営は基本的に人任せにするつもりだけど、うちからは三智子ちゃんが通うことになる訳だし総スルーはできない。
校舎の建設や設備の用意などは隠れ里の民たちで行う予定だ。
ただ、色々と世話になったから何も言わずに帰るのは不義理だろう。
帰郷は各方面に挨拶してからだね。
読んでくれてありがとう。
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