376 確かめてみればいい
「まあ、ここであーだこーだと言い合うより実際に確かめてみればハッキリするだろ」
「涼成の言う通りよな」
それまで黙って話を聞いていたネージュが同意する。
「待ちくたびれたぞ」
「それはスマンかった」
「構わぬ。大量に食材をゲットできる穴場だとわかったのは収穫だからな」
まだ大物が召喚されると決まった訳じゃないんだけどね。
ネージュはすっかり大物が来ると思い込んでしまっているようだ。
仮に予想と違ったとしても、ネージュなら軽くはね除けてしまうだろうけどさ。
ただ、今回もネージュに任せっきりにするつもりはない。
俺たちずっと戦ってないもんね。
経験値に関してはパーティを組んでいるから誰が戦おうと魔物を倒せば分配されるけど。
問題は実戦経験を得られないことだ。
レベルだけ上がっても、それに見合う実力がなければ意味がない。
いつまでもステータス頼りでいると、それが通用しない敵と遭遇した時に困るからね。
困るだけならともかく死んでしまうようなことになったら悔やんでも悔やみきれないし。
「とりあえず今日は俺たちが先に戦うぞ」
「それは構わんが、あまりに時間をかけるようなら手を出すぞ」
タイムアタックの縛り付きか。
それはそれで挑戦のしがいがあるというものだ。
「んじゃ、行きますか」
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海に入ってしばらくすると進行方向に巨大な白色に淡く輝く魔法陣が見えてきた。
空間に固定された魔法陣なので水中であろうと描ける訳だ。
それらが水面とは垂直方向に4枚並んでいる。
『これだけ大きいと大物が召喚されたと見るべきかなー』
『姿を現していないから何とも言えないぞ、真利。魔法陣は発動しているようだからじきに分かるだろう』
英花の言うように手前にある1枚目の魔法陣はすでに発動済みで残りの3枚よりもくすんだ灰色になっていた。
それを裏付けるように下の方から大物の気配を感じる。
『大物説で正解のようだな。来るぞ』
浮上してくる気配に合わせて俺たちは配置につく。
英花が前衛で俺が遊撃、真利は後衛だ。
ネージュは先の約束通りまずは手出しをしないということで脇に避けている。
『触手が見えた。どうやらクラーケンだ」
『オッケー! オープニングヒット入れまーす』
真利が英花の報告に合わせて素早く複数の鉄球に魔法を付与して射出する。
直後、鉄球は赤熱し周りの海水と反応して泡に埋もれながら海水をかき分けて進んでいった。
それは水中であるにもかかわらず飛んでいると思わせるほどの勢いがある。
ただし、直撃コースではない。
それ故にクラーケンは鉄球を無視した。
『甘いよー』
真利が魔法で鉄球を送り出した水流を操作すると軌道が急激に変わってクラーケンの本体へ向けて牙をむいた。
ほぼ側面から灼熱弾の直撃を受けてクラーケンがのたうち回る。
即座に触手でガードしたが逆に正面はがら空きだ。
『行け、英花!』
『おうとも!』
ウエットスーツの高速移動モードで突っ込む英花に俺が魔法で水流をコントロールしてさらに加速させた。
これならば間合いの外からでも一気に肉薄できる。
触手で側面をガードしてしまったクラーケンに反応できるものではない。
そして大剣モードにしたトライデントがクラーケンの眉間に深々と突き刺さった。
だが、これで終わりではない。
『爆ぜろ!』
トライデントの刃を通して爆炎球の魔法を発動させる英花。
体内で発生したそれを止める手立てはクラーケンにあるはずもなく、まともな抵抗もできぬままドロップアイテムと化した。
だが、これで終わりではない。
次がある。
『英花はドロップアイテムの回収を頼む』
『了解した』
英花が返事をしている間に2枚目の召喚が始まる。
『真利は鉄球を用意して、いつでも熱弾を撃ち出せるようにしてくれ』
『わかったー』
そして魔法陣の中央から、ぬるりとした印象を抱かせる青黒く細長い魔物が出てきた。
間違いなくギガイールだ。
これで次とその次に召喚される魔物は、ほぼ確定したな。
『涼ちゃーん、魔法で攻撃してもいいー?』
『やめとけ。召喚魔法陣が結界を構築してるから奴が完全に姿を現すまで威力が大幅に減るぞ』
魔力を大量投入してゴリ押しで倒すことも不可能ではないだろうけど、これが終わってもまだ大物と2戦しなければならない。
節約するに越したことはないだろう。
パワープレイですべて片付けられると事前に分かっていたとしても無駄に疲れるだけで何のメリットもないからね。
余力を残しておくのもダンジョンの深い階層に潜る上での常識だ。
2枚目の魔法陣が光量を落とし召喚が完了した。
ギガイールが一番近くにいる俺をギロリとにらむ。
『タゲられた。このまま引きつけるから後ろから熱弾攻撃ヨロシク!』
ウエットスーツの高速移動モードでギガイールの脇をすり抜けて背後へと回り込む。
すれ違い様にギガイールが電撃を放ってきた。
それを結界で反射する。
さすがに自分の放った電撃が返されるとは思っていなかったのか、まともに食らっていた。
残念ながら致命傷を負わせることはできなかったがダメージが入ったのは間違いない。
怒りに燃える目を俺に向けてくるギガイール。
逆恨みもいいところだが、今はそれを利用させてもらう。
わざと泳ぐ速度を落として反転してきたギガイールを引きつける。
近接戦闘が可能な距離なのだけど電撃は使ってこない。
多少の冷静さは残しているようだ。
ギガイールは口を開いて水球型のブレスで攻撃してきた。
これなら結界で反射することは難しい。
やってやれなくはないけど無駄に高い制御力が求められるし魔力も余計に使ってしまう。
故に俺は結界で撫で切りするようにして水球の軌道をそらせた。
これなら正面から受け止めて水球を防ぐよりも魔力消費が少なくてすむし動く必要もない。
俺が止まれば頭に血が上ったギガイールも水球ブレスに固執して動くのをやめてしまう。
機動力があるのに砲台になってしまうのは悪手もいいところだ。
『いただきー』
背後からの熱弾攻撃が無防備なギガイールに直撃。
固い鱗に覆われている訳ではないので体のあちこちに穴が開いた。
しかも鉄球は貫通せず体内に留まる。
肉を焼く高熱を発しているそれが追加で大ダメージを負わせたのは言うまでもない。
きっちり頭にも鉄球が命中していたので、これで試合終了だ。
『コイツのドロップは俺が回収する』
『じゃあ次は私が前衛で行くねー』
3枚目の魔法陣が輝きだしたところで真利が前に出た。
それをフォローすべく英花が後衛につく。
そうして3枚目の魔法陣から現れたのはギガクラブだった。
予想通りだったので、このまま事前に決めていた作戦を決行だ。
ギガクラブには熱弾攻撃は通用しない。
少なくとも固い攻殻を砕かないことには熱弾を叩き込むことはできないだろう。
時間をかけて物理攻撃を続けていればそれも可能ではあるけど今回は時間的な縛りもある。
ネージュが痺れを切らしたら、そこでゲームオーバーだからね。
さて、第3ラウンドの開始だ。
読んでくれてありがとう。
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