表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

374/380

374 9層の主

 今日は9層の攻略だ。


「いい加減、飽きたよ」


 そう愚痴ってしまうのも目の前に広がる海があるからだ。


「そうは言うが涼成、これが普通のダンジョンが続くだけだったら、そんなことは言わないだろう」


 英花に諭されてしまった。


「そっか、そうだよな」


 水中戦は不利だったり面倒だったりすることが多いから嫌気がさしていただけなのだ。

 そう考えると自分の精神面の弱さを感じてしまう。


「気持ちは分からないではないがな。いくらなんでもワンパターンすぎるだろう」


「タコにウナギにカニだからそんなでもないよー」


「中ボス続きじゃないか。たぶん、ここも中ボスだぞ」


「それはあるかもねー。次は貝の魔物とかかなー」


 貝の魔物というと蜃気楼を作り出す蜃と呼ばれる巨大ハマグリか。

 異世界にもいたはずだけど名前は違った。

 そりゃそうだ。異世界に漢字はないからね。

 それと中ボスとして据えられるようなサイズじゃなかったと思う。

 もし、そんなのがここに出現したなら新種ってことだ。


「シーサーペントなんかもありえるぞ」


 英花がそう言うとネージュが嫌そうな顔をした。


「あれは食っても美味くない。出てほしくないものだ」


「へー、そうなんだー。ウナギみたいな感じだと思ってたんだけどなー」


「真利よ、あんなのをウナギと一緒にするな。ウナギへの冒涜だぞ」


 ネージュは鼻息を荒くして憤慨している。


「そんなに違うんだー。ごめんねー」


「わかれば良いのだ」


 すぐに怒りが収まったようで何よりである。

 とか思っていると、クルリと振り向いてネージュがこちらを見てきた。


「涼成は何がいると思うのだ?」


 次は俺の番ってことか。


「さてね。経験値になるなら何でもいいよ」


「つまらんのう。こういうのは待ち時間を盛り上げるために自分なりの予想や願望を語るものであろう」


 願望なら言ったつもりなんだけどね。

 どうやらそれも魔物の種類でないといけなかったらしい。

 が、具体的な希望はない。

 クセのある魔物だったとしても戦闘経験を積むという意味では歓迎する。


「ネージュとしてはイカ型のクラーケンとか来てほしいんじゃないのか?」


「む? それはドロップアイテムしだいだろうさ。イカの身が得られないことだって考えられるではないか」


 そんなことはなかったと思うのだけど、どうだったかな?

 ハッキリ覚えている訳ではないので否定はできない。


「ただいま戻りましたニャー!」


 会話が途切れたタイミングでミケがシュバッと戻ってきた。


「ここは白黒のサメと巨大クジラのステージですニャン」


 予想していなかったのが来たな。


「白黒のサメ? そんな魔物は知らないな」


「額にドリルみたいな角が生えてましたニャ」


「……それは多分ホーンドオルカだ。サメじゃなくてシャチだな」


「これは失礼しましたニャン」


「問題ない。どんな魔物かわかればいいんだ」


 それにホーンドオルカのドロップアイテムには何故か鮫皮や肝油が含まれている。

 シャチは哺乳類でサメは魚類だからまるで違うのにな。

 こういうところ魔物はよく分からない。


 ちなみに他にはホーンドオルカのシンボルとも言える角もドロップする。

 これを使って突進攻撃をしてくるので距離がある時は要注意だ。

 まあ、懐に入ったからと言って油断はできないが。

 格上の魔物さえ仕留めるほどの強力な顎の力と牙を持っているからね。


「涼ちゃん、クジラの魔物はどんなのか確認しないのー?」


「マッドホエールしか考えられないからな。それ以外なら俺も知らない奴ってことになる」


 マッドホエールは全長30メートルを超える巨大マッコウクジラだ。

 通常の倍くらいの大きさで、とにかくタフだと言われており倒すのが面倒なタイプの魔物である。

 本来なら守護者として扱われてもおかしくないような魔物だが中ボス扱いとは贅沢極まりない。

 中ボスだよな?


「階下に下りる階段は?」


「ありましたニャー」


 やはり中ボスか。


「鯨肉か、懐かしいな。召喚される前はよく食べたものだ」


 英花がそんな風に言ってノスタルジーに浸っている。


「そうなんだー。私は食べたことないよー」


 つまり流通がごく限られている訳だ。

 だからこそ英花はより懐かしく感じるのかもな。


「噛み応えがあって美味いんだ。久しぶりに唐揚げが食べたいな」


「ほほう。噛み応えのある肉質で唐揚げにするとは、どれほどのものか確かめてみねばな」


 はい、今回もネージュの食いしん坊モードが発動しましたよっと。

 戦いが終わるまで俺たちの出番はないことが確定だ。


 そんな訳で水中戦の準備を整えて、いざ出陣。

 水に潜って数分でまずはホーンドオルカに遭遇した。


『雑魚に用はないぞ。命が惜しくば去るが良い』


 ネージュも無茶を言うものだ。

 当然、ホーンドオルカは逃げる訳もなく挑発したも同然のネージュ目掛けて突進してくる。

 闘牛ばりの勢いで突っ込んでくるも氷塊であっさりと止められてしまった。

 螺旋状に真っ直ぐ伸びた角は相当な攻撃力があるはずだけど氷塊には傷ひとつ付いていない。

 その後は全身を氷漬けにしてトドメを刺すいつものパターンである。

 今回は口の中に氷の刃を突き込んで終了した。


 その後も何度かホーンドオルカの襲撃を受けたが、すべてネージュが対応。

 とにかく早く鯨肉を食したい一心で俺たちに手を出させない。

 確かに俺たちだとネージュのように瞬殺とはいかないからね。


 そして、ホーンドオルカが出てこなくなったところで真打ち登場と言わんばかりにマッドホエールが深みから上昇してきた。

 勢いはないものの決して遅くはなく、何より見た目以上に大きくなってくる様は存在感がハンパない。


『迫力満点だねー。クラーケンよりも大きいよー』


 真利は目を白黒させているが、どこか余裕があるように見受けられた。

 今までの経験があるからか本気で驚いている訳じゃなさそうだ。


 そうこうしている間にマッドホエールが大口を開けて牙をむき出しにした。

 最初は食らいついてくるつもりか。

 それとも海水ごと吸い込んで飲み込むのか。

 いずれにせよ、近接戦闘を選ぶ時点で悪手と言わざるを得ない。

 ネージュにそんなものが通じる訳がないのだ。

 そう思っていたのだけど……


『ほう、小賢しいことを考えておるようだな』


 不敵な笑みを浮かべるネージュ。

 何か異変に気付いたようだ。


 俺も注意して口以外の部位を観察してみる。

 すると胸びれの裏側に魔力の流れが異なるところがあるのを発見。

 全体からすると小さな変化と言えるかもしれない。

 大口を開けて目先をそらされたのも気付きにくかった要因と言えるだろう。


 だが、これは間違いなく俺の油断だ。

 今までの大型の魔物との戦闘がすべて脳筋スタイルだったため単調に見てしまったことで見落としたのだ。

 俺が奴と戦っていたなら確実に最初の魔法攻撃を食らっていただろう。

 情けないにも程がある。


 ただ、ネージュは見逃さなかったのでマッドホエールは対処されて終わるはず。

 そう思っていたのだけど、それ以前の問題だった。

 マッドホエールが使った魔法は氷の槍を打ち出す氷槍。

 普通であれば威力の大きい攻撃魔法だ。


「愚か者め。我を誰と心得る。白銀竜ネージュなるぞ」


 ネージュが呆れと蔑みのこもった視線を向けるのもやむなしというもの。

 氷槍はネージュが入った氷塊にまるで届くことなく停止したかと思うと放った主であるマッドホエールに向けて逆再生のように飛んでいった。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ