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373/380

373 8層の敵は

 どうにかゲーム大会で午前様を回避した。

 寝不足は回避できたので体調は万全である。

 万全ではあるのだけど……


「8層も海なんだよなぁ」


「良いではないか。また新たな食材をゲットできるやもしれぬぞ」


 ネージュは前向きだ。

 いや、フンスフンスと鼻息荒くさせているので前のめりと言うべきか。


「何が待ち受けておるのか楽しみだ。できればイカ型のクラーケンなどが良いのだが」


 そんな願望を語るネージュだったが。


「ただいま戻りましたニャー。8層は甲殻類の階層ですニャン」


 シュバッと現れるなり身も蓋もない報告をしてきたミケによって夢は打ち砕かれた。

 まあ、トホホと嘆きながら肩を落とす程度の落ち込み方なので復活するのも早いだろう。


「甲殻類ということはエビやカニの類いがいるということか?」


 確認するように問いかける英花。


「そうですニャ。エビの魔物がウジャウジャいて中ボスは大きなカニでしたニャー」


「涼ちゃん、わかるー?」


 真利が聞いてきたのは魔物の正体についてか。


「カニで大きいのはギガクラブが一般的だけど、エビの魔物は種類がいくつかあるから何とも言えないなぁ」


「カニは腕を伸ばしてエビを捕食してましたニャ。近くに寄ってきたのは泡を吐き出して捕まえてましたニャー」


「間違いなくギガクラブだな。とするとサイズ的には20メートルは超えるか」


「クラーケンやギガイールとタメをはる魔物ということだな」


 言いながら渋い表情をさせる英花。


「なんだ、ギガクラブにも嫌な思いをしたのか?」


「ギガイールの血を浴びて撤退した後で遭遇してしまったんだ。回復し切れてなくてな」


 どうなったかをハッキリとは言わないが、ギガイールのせいでヒドい目にあったと言っていたことからすると好ましい結果でなかったくらいは想像がつく。


「エビも少しは絞れたが、まだ断定はできないな」


 嫌な記憶をほじくり返すような真似はしたくないので話題を変えてスルーした。


「絞り込めるんだー」


「ギガクラブが捕食するサイズとなると人間の子供くらいの大きさは必要だろ」


「そっか、小さいのは除外されるんだねー」


「そういうことだ」


「色はピカピカしてない感じの銀色でしたニャン」


 じゃあ、ひとつしかない。


「シルバータイガーだな」


「それってどんな魔物なのー?」


「見た目はブラックタイガーを人間の子供くらいに拡大した感じだな。大きさ以外の違いは刺突する爪を持ってることと色がいぶし銀なことくらいか」


「火を通すと赤くなるのー?」


 もうすでに食べる気でいるな。

 身をドロップするとは限らないだろうに。


「異世界の文献ではそうなっていたけど実際に見たことがないから、どういう感じの赤に変わるのかは分からない」


「旨いのか?」


 黙って聞いていたネージュが首を突っ込んでくる。


「さあ、シルバータイガーも食べたことがないからなぁ。ギガクラブも戦ったことがないし」


「ならば食して確かめるしかあるまい」


 フンスフンスと鼻息を荒くし始めるネージュ。

 あー、食いしん坊モードが発動しちゃったかぁ。

 これはもう止められないな。

 シルバータイガーを狩りつくしギガクラブを秒殺する光景が目に浮かぶようだ。

 この階層でも俺たちの再戦がほぼ確定しましたよっと。


「涼成、エビとカニは食したことがあるか? どう料理して食べるのだ? ウナギのように専門的な技術が必要になったりはすまいな?」


 矢継ぎ早に聞いてこられると答えようがない。


「落ち着けって。質問は一度にひとつにしような」


 俺に言われて肉薄する寸前だったネージュがクールダウンする。


「では、改めて」


 コホンとわざとらしく咳をしてネージュは質問を再開する。


「涼成はエビとカニを食べたことがある? イエスかノーか」


「なんでクイズっぽいノリなんだ?」


「質問したのはこちらだぞ」


「へいへい。どちらもありふれた食材だからイエスだよ。カニは高級食材とされていることが多いけどな」


 それでも他の食材と違って缶詰だったり回転寿司のメニューにあったりと庶民の手に届かない訳ではないんだよな。


「次だ。どう料理する? どんな料理があるのだと言った方が分かりいいか」


「普通に焼いたりゆでたりってところか。寿司にしたりシーフードカレーの具材にしたり。まあ、カレーの方はカニの身がバラけてしまうから見たことがないけど」


「カニの身がバラける? あんなに固い甲羅があるのにか?」


 不思議そうに首をひねって困惑しているネージュである。


「殻ごと食べる訳じゃねえよっ」


 思わずツッコミを入れてしまったさ。


「人間だと噛み砕くのも無理だって。できたとしても口の中がズタズタになる」


「ううむ。人間とは思った以上に脆い生き物だな。掴んだだけでプチッと握りつぶしてしまいそうだ」


「おいおい。そんな調子で三智子ちゃんの相手をしないでくれよ」


「うむ、そうだな。注意しよう」


 今まではしてなかったのかよ。


「では次の質問だ。ウナギのようなことにはなるまいな?」


「言っただろ、ありふれた食材だって。火を通すだけなら誰にでもできるさ」


 それだけに調理後の結果に差が出やすいとも言えるのだけど。


「ならば安心して食材を集めることができるな」


 ネージュは満足そうに笑みを浮かべながらウンウンとうなずいている。

 これでこの階層でも俺たちの出番は素材回収のみとなってしまった。

 その後がどうなったかは言うまでもあるまい。


 ネージュが本気を出すまでもなく目につくシルバータイガーは狩りつくされ、ギガクラブとの戦闘も中身まで凍らせた後に膝蹴り一発で真っ二つに割って終了した。

 やはり予想通りである。


 これが一般の冒険者ならシルバータイガーの群れに囲まれた時点で大ピンチだ。

 奴らは固い殻を武器に丸まって高速回転しながら襲いかかってくるからね。

 単体でなら回避できても四方八方からだとベテラン冒険者でも厳しいものがある。

 ましてや水中でとなれば、この時点で詰んだも同然。

 シルバータイガーには鋭い刺突用の爪もあるが、こちらは獲物を捕食する際に使用することがほとんどで攻撃ではあまり使用されない。


 また、運良くシルバータイガーの群れをかいくぐってギガクラブにたどり着いたとしても簡単には勝てない。

 並みの武器ではギガクラブの甲殻には歯が立たないからだ。

 関節などの隙間を狙うにしても伸縮する爪と脚の刺突攻撃をかいくぐらなければならない。

 デカいから機敏に動けないなどと思ったら大間違いである。

 ある程度、接近できても泡を食らったら身動きが取れなくなってジ・エンド。

 ギガイールより下の階層に配されるだけのことはあるのだ。


 俺たちにとっては良い戦闘訓練になりそうだけど。

 経験値の効率も並みの魔物を相手にするより良いはず。


「よおし、今宵も美味いものを食べるぞ!」


 そんな訳でドロップアイテムを回収したら有無を言わさず帰ることになりましたよ。

 そして、本日も高尾山の隠れ里で宴と相成りましたとさ。

 シーフードカレーを煮込むのに時間がかかるから、丁度良かったとも言えるんだけど。


 後はシーフードミックスのお好み焼きとか寿司とか色々と作った。

 多い目に作ったつもりだったけど俺たちが食べる頃には1人1食分あるかどうかという有様。

 何だかなぁと思いつつも皆が満足してくれた証拠だから悪いことじゃないよね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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