372 うな重とうな丼
錬成スキルを駆使してうな重用の重箱とうな丼用の丼を量産していく。
「いつも思うんじゃが、御屋形様のそれは反則じゃろう」
呆れたように溜め息をついてジェイドが言った。
「まったくだ。これ以上に職人泣かせのものはないぞ」
ネモリーが嘆きの表情を見せながら同意している。
「御屋形様に聞こえますよ。集中できなくなるじゃないですか」
メーリーが2人を注意するが、どちらも知ったことではないと言わんばかりにスルーしている。
「ちょっと2人とも!」
キレ気味にメーリーが呼びかけるが。
「うるさいのう。聞こえるように言っとるんじゃ」
「そうだぞ。たまには俺たちの嘆きも聞いてもらわないとな」
などと理不尽なことを言っている。
すでに酒でも飲んで出来上がっているのか?
深酒はほどほどにしないと体に毒だぞ。
まあ、愚痴りたい時に愚痴っておかないとストレスがたまるだろうから、たまにはいいか。
「2人はそんな風に言うが、俺だって異世界で寝る間を惜しんであらゆるものを作り続けてようやく得たスキルだからな。それも成長させなきゃ今ほどの腕前にはなってないし」
こちらも言いたいことは言っておく。
一朝一夕で身についたものじゃないし、最初から使いこなせた訳でもないからね。
今の状態からは想像もつかないだろうけど。
「わかっとるわい」
「そうだ、そうだ」
「今宵はとことん飲むぞ!」
「おうともよ!」
とうとうジェイドとネモリーの2人で酒盛りを始めてしまった。
それ以前にかなりの量を飲んでいたみたいだけど。
ジェイドはドワーフだから樽で飲んできたんじゃなかろうか。
「ほどほどにな」
という俺の言葉は聞こえていないみたいだった。
そうこうしている間にもウナギの蒲焼きが出来上がってくる。
それを待ち受けていた英花と真利が俺から器を受け取ってご飯を盛り付けていく。
さらにリレーで蒲焼きを盛り付け、タレをかけて完成させテーブルに並べていった。
「やあやあ、ウナギなんて久しぶりだねえ」
香ばしい匂いに釣られてやって来た猿田彦命が胸いっぱいに空気を吸い込みながら言った。
「滅多に供える人間がいないからな」
ウナギにはさほど興味がないと言いたげに返事をする九尾の狐だけど、尻尾の揺れ具合からすると態度と心情は真逆のようだ。
これぞ、ツンデレである。
「ウナギはいつ食べてもいいものだよね」
「そんなこと言って食べ過ぎるなよ」
「青はすぐ調子に乗るからな」
楽しげに語る青龍様に金竜様と白龍様が釘を刺す。
「ヒドいなぁ。僕だってほどほどにしておくつもりだよ。この後、青雲くんと対戦の約束があるんだから」
青龍様はそんなことないと反論するけど、その理由がゲームがらみなのは相変わらずか。
「あ、それは私も参加したいね」
そこに猿田彦命が乱入していく。
いや、ゲームが始まった訳じゃないから、乱入はおかしいのか。
ゲーム大会に参加するつもりはないから何でもいいけどさ。
とにかく巻き込まれないように存在感を希薄にしておく。
消してしまったり薄すぎたりすると不自然になってしまうから調整が難しい。
「やれやれ、これは朝までコース確定だな」
九尾が溜め息をついている。
「付き合わされる俺様の身にもなってみろ」
その愚痴には共感できるものの、迂闊なことはできない。
同意しようものなら確実に巻き込まれてしまう。
ここはさっさとウナギパーティを始めるに限るだろう。
青雲入道に頃合い良しと合図を送った。
お代わりのペースを考えると本当は微妙なところだったんだけど、忙殺された方が余計なことに巻き込まれないですむからね。
そんな訳で少し早めのタイミングで始まったウナギパーティ。
滅多に食べられないウナギということで行列から伝わってくるテンションが尋常ではない。
これが某ロボットアニメであれば「プレッシャーが」とかなんとかいう台詞が聞こえてきたことだろう。
「御屋形様ぁ、食っとるかぁ」
自分も食べていないのにからんでくるジェイド。
「俺たちは最後だよ。さっさと並んでうな重でもうな丼でも好きな方をもらってこい」
「もう食べておるぞ」
返事をしたのはジェイドではなくネージュであった。
頭の上に丼をのせてバランスを取りながら手にした重箱から器用にうな重を食べている。
「イカにはない味わいだ。この香ばしさ、ふっくらとした食感、そして飯にからむタレの絶妙な加減。真利の言うておったことがよく分かった」
満足そうで何よりだ。
「それは良かったよー。じゃんじゃんお代わりしてねー」
「もちろんだ」
そう言ったかと思うとネージュは食べている途中で重箱と丼を持ち替える。
今度はうな丼を食べ始めた。
「タレのかかった飯が最高だ。米を味わいたいなら、断然こちらだな」
そんな風にうな丼を堪能していたかと思ったら、またしても持ち替える。
「鼻から抜けていくウナギの匂いを楽しむなら間違いなくこっちだ」
贅沢な食べ方をしてるよな。
「あまり食べ過ぎると胸焼けを起こすぞ、ネージュ」
注意を促したのは英花である。
「確かにな。タレのおかげで何杯でも食べられそうな味だが脂がのっていて後で腹に来そうだ」
とか言いながら早々にうな重もうな丼も食べ終わり、列に並び直しているし。
「張井さーん」
うな丼を受け取ったウィンドシーカーズの3人がこちらにやって来た。
あまり大きな声を出して呼ばないでもらいたいんですがね。
「今日は本当にありがとうございます」
ブンブンと頭を下げて礼を言う橘。
「こんなに大量のウナギをゲットできるなんて、やっぱりダンジョンは普通じゃないわ」
野川は歩きながらモグモグと食べていたけど人の前に来るなりケチをつけている。
その割に声音や表情が台詞とマッチしていない。
コイツもツンデレだよな。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる芝浦。
「そんなのはいいから冷めないうちに食べないと、おいしさも半減するって」
促すと橘と芝浦は何故か移動することなく俺たちの前で食べ始めた。
なんだかなぁ。
当人たちには嫌みとか他意はないだろう。
心底、ウナギを味わっているようにしか見えないからね。
そこへ大阪組がやってくる。
「いやあ、どうもどうも。御機嫌さんですなぁ」
「誰がやねん。張井さんらは、まだ食べてへんやないか」
「匂いは味わえるで」
「アホかいな。そんなん生殺しやないか」
「空きっ腹にこの匂いは毒やで」
「目の前で堂々とそれを言うてる時点で毒やがな」
予想に違わず、いつものように漫才のノリで口々に話し始める大阪組の一同である。
6人もいるとコントのように見えてしまうんだけどね。
そのせいか周囲から微妙に距離を取られてしまっていたが当人たちはお構いなしに喋り続けている。
そこへ現れたのが……
「やあやあ、涼成くん。ウナギありがとう。美味しくいただいているよ」
丼をふたつ手にした猿田彦命だった。
ひとつは九尾の分らしい。
落ち着いて食べられる場所を求めて来たにしては騒々しいところを選んだものだ。
「後でゲーム大会するから参加よろしく」
そう来たか。
じかに誘われてしまっては断れない。
「……はい」
せっかく目立たないようにしていたのに、これである。
ついてない時はこんなものか。
「明日もダンジョンに潜りますのでほどほどでお願いします」
せめてもの抵抗である。
何処まで通用するかは分からないけれど。
読んでくれてありがとう。
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