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371 肝心なことを忘れていた

 可哀想なギガイールはネージュによって秒殺されてしまった。

 人間が相手であれば水中戦の時点で圧倒的に有利なのだが、氷塊の中にその身を置くことで水の中すら自分のフィールドに変えてしまうネージュに死角はない。

 水球型のブレスを吐き出そうとした瞬間に伸長された氷塊の直撃を受けて水球ごと全身が凍り付いて身動きが取れなくなった。

 そしてネージュが近づいて手刀で首を一刀両断。

 正確には手刀に連動した氷塊が氷の刃となってだけど。

 中まで凍っていたから血の一滴も流れることはなかったよ。


 とにかくギガイールは為す術もなくドロップアイテムと化した。

 海底に沈んでいくところを念動の魔法で止めてすべて回収。

 大きな魔石は言うに及ばず、ウナギの身はクラーケンの時と同様に通常サイズのものであった。

 それから──


『これってポーションなのー?』


 真利が聞いてきたように瓶詰めの薬品類が多数。


『全部が全部そうではないな』


 英花が瓶に貼られたラベルを見ながら言った。

 海中なので念話でだけど。


『各種ポーションの他に毒も混じっている』


『うわー、いらないなー。たまにこういう不要品をドロップしてくる魔物がいるよね』


『不要品は言い過ぎだな。毒は武器に塗ったりして効率的に魔物狩りをするのに使われたりするんだぞ。薬の材料にもなる』


『えーっ、そうなんだー! 知らなかったー』


『そんなに沢山は使わないけどな』


 という訳で毒も捨てずに回収だ。

 冒険者事務所の窓口には提出しないし大半は次元収納の肥やしになりそうだけどね。


 ドロップアイテムの回収後はセーフエリアである砂浜に上がる。

 もちろん8層へ下りる階段側だ。


「涼成、これでうな重とうな丼が食べられるのだな?」


 ワクワク顔で聞いてくるネージュ。


「8層へ下りてマーキングしてからね」


「はやく行くのだ。はやく、はやく、はやく!」


 完全に食いしん坊キャラが前面に出てしまっているな。

 こうなると止められるものではない。


「はいはい」


 苦笑しながら階段へと向かう。

 もちろん7層へ下りる際にあったようなトラップに警戒しつつだ。


「なあ、涼成」


 階段の途中で後ろから英花が声をかけてきた。


「どうした? 何か異常がありそうか?」


「いや、そうじゃない。ダンジョンとは別件だ」


 何だろうな? ちょっと想像がつかない。


「あっ、うな重を食べるなら神様たちも呼ばないとねー」


 そういうことか。

 真利が言ってくれなければ忘れていたよ。


「おっと、そうだったな。じゃあ、帰りは高尾山に集合ってことで」


 隠れ里の民たちにも食べさせてあげたいし。

 今から皆の反応が楽しみだ。


「そのことなんだが問題があると思うんだ」


 英花が妙なことを言い出した。


「問題だって?」


 これ以上、何があるというのだろうか。


「炭を買っていかないとねー。ウナギには備長炭がいいって聞いたことがあるよー」


「そうなのか?」


「ガスだと焼き上がっても水っぽくなるんだって」


「それはダメだな」


 危ない、危ない。

 どうせ食べるなら美味しいものがいいもんな。


「それも大事だが、もっと根本的な問題が残っている」


 まだダメなのか。


「根本的な問題って何なんだ?」


「ウナギというのは調理が難しいんだ。串打ち3年、裂き8年、焼きに生涯終わりなし、という格言があるくらいだからな」


「おおう、そうなんだ……」


 それは知らなかった。


「聞いたことあるよー。大問題だねー」


 真利は他人事のように言っているが本当に大問題だ。

 炭を用意したからってウナギの蒲焼きができる訳ではないのだから。

 結構、シャレになってない。


「裂くのはドロップした時点でそうなっているから問題ないけど、串打ちと焼きがなぁ」


 下手な串打ちをしてしまうと身を痛めてしまうのだろうし。

 焼き加減がダメだとウナギの味に影響するのは想像に難くない。


「年単位でお預けは嫌だなー」


 かと言って、うなぎ屋にドロップアイテムを持ち込む訳にもいかない。

 どこで入手したのか詮索される恐れがあるからね。

 まさか、お台場ダンジョンの7層でなんて言える訳がないのだ。


「涼成~っ、ウナギはお預けなのかぁ?」


 今までの話を聞いていて考えたくない未来を想像したネージュがすがりつくように聞いてきた。


「俺もウナギは調理したことないからなぁ」


 異世界でゲットしたことのない食材だからね。

 さて、どうしたものかと頭を悩ませていると……


「青雲さんに聞いてみたらどうかなー」


 真利がそんな提案をしてきた。


「青雲入道に?」


「烏天狗さんたちって色々と調理に手慣れているから、もしかしたらウナギもいけるかもしれないよー」


「だが、かもしれないなんだろう?」


 ネージュは簡単には復活しない。

 糠喜びに終わった時のダメージを恐れているのだろう。


「それに伝手があるかもしれないよー」


「顔が広いもんな」


 どうなるかは分からないが、そこに賭けるしかないか。


「ということだ。青雲入道に相談してみよう」


「うむ」


 返事をしたネージュはテンションが思いっきり下がっている。

 果たしてどうなることやら。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「おお、それならうちのに任せると良かろう」


 そう言って青雲入道はニカッと笑みを浮かべた。


「へえ、烏天狗はウナギの蒲焼きを作れるんだ」


「時間だけはあるからな。常に新しい料理の研究に余念がないぞ」


「そうは言うけど、外には出られないから情報も制限されてるだろ」


「それなんだが方針を変えてな」


「じゃあ外で色々と始めてるんだ」


「左様。青龍たちや九尾に手助けしてもらってだがな」


「それにしたって技術の習得には時間がかかるだろうに」


「我々が何年修行しておると思っているのだ。戦いであろうと料理であろうと見れば見ただけ新しい技術を吸収するくらい造作もないことよ」


 思わず溜め息が漏れたさ。

 要するに見て技を盗むってやつを一発で成功させるようなものだろ。

 昔のアニメとかマンガに出てくる天才ライバルキャラにいそうなタイプだ。

 地上最速の騎士を目指してレースで戦うアニメのセイバーフォーミュラでそんなキャラがいたよな。

 中盤で登場した貴族の嫡子キール・ハイダー・フォン・フェンデル。

 自他ともに認める天才で傲岸不遜を絵に描いたような美少年というキャラが腐女子のハートを鷲づかみにしていた覚えがある。

 ただ、話が進むにつれて修正が入って弱体化するというスマホのゲームみたいな扱いをされていた不遇キャラだったけど。

 ……脱線している場合ではないな。


「そうなんだ。スゲーな」


「ウナギの処理など千回ほど動画を見れば、ものにできたわ」


 そう言って青雲入道はカッカッカと豪快に笑う。

 1回見ただけで、まるっと技を盗めるとかじゃなくて安心したよ。

 それでもスゴいと言わざるを得ないけどな。

 実際に体を動かさなくても見るだけで経験値が得られてレベルアップが可能になるようなものなんだから。


 それはそうと動画って何よ。

 青龍様の影響なんだろうけど隠れ里の外のあれやこれやを急激に吸収しているな。


「じゃあ、道具と材料があれば問題なく作れる訳だ」


「当然ではないか。それに涼成のことだから、すべて用意できているのだろう?」


「まあね。串は金属で炭火コンロはバーベキュー用だけどな」


 もちろん炭は備長炭を用意させていただきましたよ。

 こういう時は実店舗がスゴくありがたいよね。


「その程度の違いなど問題にもならん」


 それは頼もしいことで。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ウナギの血は目に入ると失明することもある程度には危険だし 毒矢には使える?熱に弱いけど
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