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37 撃退と穏やかでない話と

「俺は凄腕冒険者なんだぞっ」


 んな訳ねえだろ。

 この程度の罠から抜け出せない時点でそれはない。

 この侵入者どもは、一般人よりは強いかなという程度にしか見えない。

 せいぜいレベル2か3だろう。


「はいはい。冒険者がダンジョンの外で犯罪を犯したらどうなるか知ってるよな」


 軽く調べただけなので詳しくはないが、基本的に一般人よりも罪が重くなるみたいだ。


「何もしてねえじゃねえか」


 そうだそうだと残りの雑魚2人も合いの手を入れてくる。


「不法侵入は立派な犯罪だぞ」


「だから、それは違うと言ってるだろうがっ」


 コイツらの理屈が裁判で通用するものもかよ。


「仲間内で犯罪を予告している上に暴力的恫喝までしているくせに寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ」


「知るかっ。とにかく俺たちを解放しろ。殺すぞ」


「はい、恐喝いただきましたー。ますます罪が重くなりまーす」


「うるせえ、うるせえ、うるせえっ」


 いや、うるさいのはお前だよ。

 どうしてそこまで往生際が悪いのかは軽く見当がつくけどね。


「そうやって騒いでおけば仲間が助けに来てくれるとでも思っているのか?」


「ぐっ、なんでそれを」


 コイツはバカだな。

 鎌をかけられていることを想定して誤魔化せばいいものを。

 まあ、無駄なんだけどさ。


「お前たちが下調べをした時に見つけられなかった監視システムで侵入したのはバレバレだ」


「うっ」


「もちろん向こうの連中は捕まえてある」


「くそぉっ!」


 わずかに残されていた頼みの綱も切れてしまい自称凄腕冒険者の男は悔しさを凝縮させて吠えた。

 憎々しげな視線で睨んでくるが迫力不足もいいところだ。


「それで殺気を放っているつもりか」


「なんだと!?」


 俺の挑発に男は殺意を膨らませるが先程と何が変わったのかというほどの差しか感じられなかった。


「これくらいはやってくれよ」


 そう言いながら俺から軽く殺気のお返しをする。


「「「ひっ」」」


 本気で放ってはいないというのに男たちは失神してしまった。

 なんだかなぁ。


 とはいえ魔法を使わずに眠らせたも同然の状態にできたのは都合がいい。

 今のうちに魔法の眠りをかけた上で下に降ろして縛り上げておく。

 そのタイミングで男の仲間たちも同じ状態で運ばれてきた。


「おお、紬。御苦労」


 コクリとうなずいた紬は念動で運んでいた別働隊の男たちを下に降ろした。


「眠らせてるんだよな」


 再びコクリ。

 後で監視動画を確認したが何もしていないのに男たちが倒れるところが映っていた。

 手間を省いて魔法を使った証拠だ。

 殺すなと言わなければ死んでいたな、コイツら。


 紬がお座りの状態で俺を見上げて次の指示を待っている。

 真面目だねえ。


「悪夢の魔法は使えるか」


 俺の問いに紬はうなずく。


「じゃあ、この連中に二度とここへ来たくなくなるような強烈なのを頼む」


 うなずいた紬は6人に対して悪夢を使った。

 これは一種の呪いなので解呪しない限りは眠りにつくたびに悪い夢を見ることになる。

 じかに痛めつけられるよりも後悔することだろう。


 だが、同情はしない。

 コイツらは殺しても平気だとまで言っていたくらいだからね。

 殺してしまった場合は放火して証拠を隠滅するつもりだったらしい。

 そんなことで殺害の証拠が無くなる訳がないだろうに。

 経験が圧倒的に足りていないのは明白である。


「さて、後は適当な場所に運び出すだけだな」


 外に放り出すだけだと誰かに見つかった場合、通報されてしまう恐れがある。

 そういうのは事情聴取とか面倒なのがありそうでパスしたいところだ。

 事前に方針として皆で話し合った結果でもあるので確認を取るまでもない。


「どちらに運びますか」


 紬が聞いてきた。


「いや、紬が念動を使っているところを見られても面倒だからいい」


 それは俺も同じなんだが、ひとつ試してみたかったことがある。

 転移魔法だ。

 俺自身は初めて使うが失敗したらその時はその時だ。

 人の死というものを軽々しく考えていた連中がどうなろうと知ったことではない。

 千里眼のスキルでこれと決めた場所を確認し俺は躊躇うことなく転移の魔法を使った。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 明けて翌朝──

 夜中の騒動がなかったかのような静かな朝だ。

 襲撃がイレギュラーと言うべきなんだろうけど御近所さんがいないせいで目をつけられたのは見過ごせない。

 連中が来ることは二度とないとしても、再びああいうことがないとは言えないからね。


「という訳で屋敷の防衛対策会議を開きたいと思う」


 朝食の後で切り出して見た。


「紬ちゃんがいるから充分じゃないの?」


「いや、昨晩のように1人では手が回らないことも考慮すべきだな」


「そっかー」


「では警備の増強のために引き続き召喚をしますかニャ」


「それだと時間がかかるのがネックなんだよなぁ」


 儀式魔法は長期契約向きなんだけど、そのぶん準備期間が必要だからね。

 すぐに送還するのであれば普通に召喚魔法を使えばいいんだけど。


 皆でウンウン唸りながら頭を悩ませるも簡単に良案など思い浮かぶはずがないんだよな。

 ちなみに紬は狼の姿で伏せているだけで会議に参加する気配がない。


「紬は何か意見はないか」


 話を向けてみると首をもたげたのでシカトしていた訳ではないようだ。


「召喚を次善の策とし別案を探す他ないかと」


 自分の考えを述べると再び伏せの姿勢に戻った。


「その別案が無くて困ってるニャ」


 ミケがツッコミを入れるが紬は反応しない。

 言うことは言ったし今のところ案は何もないという意思表示なんだろう。


「ニャーッ!」


 ミケは地団駄を踏んで苛立っているが、やはり無反応。


「紬も考えているみたいだから突っかかるな」


 そう言うとミケも静かになったが後は沈黙の間が続くばかりである。

 無為に時間を過ごすようなものなので、そろそろ解散しようかと思ったところで──


「皆様、よろしいでしょうか」


 部屋の片隅に控えていたリアが小さく手を挙げて呼びかけてきた。


「ああ、構わない」


 むしろ助け船のような意見が出るのであれば本当にありがたい。


「それで?」


「はい。召喚はせずダンジョン攻略することを具申いたします」


 すぐには意図するところが読めずに考え込んでしまうが、やはり答えは出ない。

 皆の方を見ても俺と同じように首をかしげているような有様だ。


「その心は?」


「ダンジョンコアを掌握し私のようなゴーレムを作成すればよろしいかと」


「それも時間がかかるニャ」


「その間に皆様が強くなります」


「なるほど。レベルアップすれば今できないことも増えると言いたい訳か」


 そう言いながら英花が納得の表情を見せた。

 確かに儀式魔法にかまけているとレベルアップは遅々として進まないだろう。


「だけど召喚と並行して攻略を進めればいいんじゃないかなぁ」


 疑問を呈したのは真利である。

 攻略に専念するよりも建設的な意見であるように思えたが。


「できれば早急に次のダンジョン攻略をした方が良いかと」


「どうして?」


「ダンジョンが世界を蝕んでいるからです」


「そこまで酷い状態だったニャー!?」


 ミケが飛び退きそうな勢いで驚いている。


「英花、ダンジョンってそんなにヤバかったか」


 異世界では至る所にダンジョンがあったけど経験値稼ぎの狩り場としてしか認識していなかったからなぁ。


「意識したことはなかったな。しかし、あの異世界は滅んだも同然なのを呪いの力で無理やり延命させていたようなものだ」


「参考にはならないか」


 ならばダンジョンに詳しいのはリアのみだ。

 世界の平穏がかかわるのであれば聞かない訳にはいかないだろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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