367 いざ7階層へと思ったのだけど……
大沢少尉を納得させたら後はダンジョンを探索しに行くだけだ。
そのために連絡を取ってきた先方をお台場ダンジョンに呼んだのだから。
先に受付を済ませておいたので後は潜るだけ。
人のいない場所でこっそりダンジョン内転移をして6層から再開する訳だが……
「何処から行くかだよな」
階下に下りる階段が3個所ある。
5層から下りてきた階段を合わせれば円形の海の四方向に存在する形だ。
「何を迷う必要があるのだ? 目の前にある階段から下りれば良いではないか」
ネージュがそんなことを言ってきたが、その意見には素直にうなずけない。
「こういう場合は正しい方法でないと先に進めないことが多いんだよな」
「堂々巡りのトラップか」
俺の言葉に英花が渋い顔を見せながら言った。
「何それー?」
「下りたつもりが転移で同じ階層に戻されるってトラップだ。しかも下りる方の階段に飛ばされるから気付きにくい」
「この前みたいに閉じ込められるとかじゃないんだー」
「その可能性もゼロではない」
「行ってみればわかるんじゃないのー? 下りたら引き返して確かめればわかるよねー」
引き返して普通のダンジョンならトラップと言いたいんだな。
「甘いな。質の悪いやつだと往復分の転移が仕込まれていることもあるんだ」
「えーっ!? 意地悪だよー」
「ダンジョンなんてそんなものだ」
「それはそうだけどー」
「それでどうするのだ、涼成?」
ネージュが聞いてくる。
「とりあえず下りてみる。魔法を感知しながらだったらトラップの有無くらいはわかるだろう」
てことで、さっそく下りてみましたよ。
予想通り魔法系のトラップが階段の出口のところに仕掛けられていた。
転移かどうかまではわからないのでチェックしてみたが。
「ダミーの術式まで仕込んでて読み解くのが面倒だ」
「だが、罠に引っ掛かるとわかっていて無策で突っ込む訳にもいかないだろう」
それは英花に言われるまでもない。
吐き出さないとストレスがたまりそうだから言ってみただけである。
複雑にからんでしまって解くのに難儀する糸のようだと言えば今の作業の面倒くささが分かってもらえるだろうか。
「ダメだ、これ。このまま続けたら日が暮れても終わらないぞ」
「そんなにヒドいのか!?」
予想外だったのか英花が驚いている。
一方で真利はドン引きしていた。
「もしかしてスパゲッティコードみたいになってるのー?」
恐る恐る聞いてくる。
「スパゲッティなんだって?」
「読み解くのに苦労する複雑なプログラムのことだよー」
なるほど。コンピューターの用語だったか。
「そういう感じだ。難解なパズルを解いてる気分だよ」
そう答えると真利だけでなく英花も辟易した表情になった。
「それで、どのくらい時間がかかりそうなんだ?」
今度は英花が恐る恐る聞いてきた。
「わからん。まったく見通しが立たないんだよ。少なくとも2日や3日では終わらんぞ、これ」
ここまで来ると何がなんでも先には進ませないというダンジョンの意志を感じる。
「よもや、こんなところで足止めを食らうとはな」
諦観の感じられる顔でそんなことを言う英花。
どうしようもないのは理解してもらえたようで何よりである。
「その部分を壊せば良いのではないか」
ネージュが脳筋的発想なことを言ってきた。
「無茶言うなよ。生き埋めになるだけで先には進めないって」
「やってみなければわからん」
とか言って予告もなく口を開いてドラゴンブレスをかまそうとする。
壊すと聞いて殴って破壊するものだとばかり思っていたところにこれだ。
予想外すぎて止める余裕がない。
「ちょっ、おまっ!」
意味のない言葉を紡ぎ出すことしかできなかった。
止める間もなくブレスが放たれ階段の壁面は見事にえぐれた。
出力は調整したようだけど壁面が部分的に破壊されて終わりとはならない。
術式に連動し崩落してきた瓦礫によって階段は埋め尽くされてしまった。
とっさに結界で防いで空間を確保したので生き埋めは回避できたけど。
「こうなるからやめろって言ったんだよ」
「なあに、瓦礫も消し飛ばせばいいだけのことだ」
再びブレスを放とうとするネージュ。
「待て待て待てえいっ!!」
どうにか阻止することに成功する。
「なんだ、手っ取り早く片付けてやろうというのに」
ネージュは不服そうである。
「消し飛ばしても新しい瓦礫で埋まるだけだ。そういうトラップなんだよ」
「なにぃっ?」
力業が通用しないと知って愕然とするネージュ。
「どういうことなんだ? 方法は乱暴だが術式を消し飛ばすのは悪くないアイデアだと思ったんだがな」
英花が不思議そうに聞いてくる。
普通は壁面と一緒に術式が消えてしまうと思うだろうから無理もない疑問だ。
「ここのトラップは壁面に記述されているんじゃないんだ」
「意味がわからないぞ? 涼成は壁面を見ていたではないか」
「壁面に記述しているように見せかけて空間に術式を固定しているんだよ」
ネージュのブレスで破壊できないのはそのせいだ。
おまけに破壊対策として無限に瓦礫が落ちてくるようになっている。
今の状態でブレスを放っても意味がないのだ。
たとえブレスを吐き出しながら移動しても転移のトラップは発動するし八方ふさがりである。
「質が悪いにも程があるぞ。ひねくれているなんてものじゃないだろう」
英花は呆れと嫌悪感を混ぜ合わせた感情を吐き出すように言った。
「しょうがないさ。向こうだって突破させまいと必死なんだろ」
「図体ばかりデカくてセコいところが気に食わないんだ」
図体ね。確かにお台場ダンジョンは他に類を見ない大きさだ。
世間では魔物も強力なものばかりだと言われている。
俺たちしか知らないことだけど中ボスも配置されているし。
先に進めばさらに強い魔物が出てきても不思議ではない。
にもかかわらず、あまりにも必死な足止めぶりは確かにセコいと言わざるを得ないか。
「言い得て妙だよねー」
真利は呑気なことを言っているな。
ずっと引きこもっていたせいか狭い場所に対しては何とも思わないんだな。
ここに氷室准尉が居合わせたら、どんな反応をするだろう。
ダンジョンブートキャンプでレベルは上がったはずだけど、ここに来るのはまだまだ難しい。
6層に到達できてもクリアするのが困難だからね。
まず装備の問題がある。
それをクリアできても海中の大群トラップの時点でアウトだ。
いや、統合自衛軍のダンジョン攻略部隊のレベルを全体的に底上げして数で対抗すればあるいはいけるかな。
年単位の時間を費やすことになるとは思うけどね。
しかもクラーケンが出てくるからなぁ。
あれを倒すのに何年かかるだろう。
おまけに簡単には7層へ行けないトラップまである。
ここまで来るとダンジョンの意地を感じてしまうけど、果たしてどういう意図でやっているのかはここのダンジョンコアにしかわからない。
ん? ダンジョンコア……
「そうか! その手があったぞ」
「どうした、涼成。その手とは何だ?」
目を丸くさせて英花が聞いてきた。
唐突に叫んでしまったことで皆を驚かせてしまったみたいだな。
失敗失敗。
読んでくれてありがとう。
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