363 ダンジョンブートキャンプ終了まで
ブートキャンプ参加者全員が軽い足取りで3層まで来た。
モチベーションが上がっているのは良いのだけど、浮ついた気持ちになっていないかが懸念される。
そのせいでゼブラッドに少しでもしてやられるようなことがあるなら、2層で行ったホースマンのタイムアタック狩りは失敗だったということになる。
もしもそうだった場合はブートキャンプの予定を大きく変更しなければならない。
ここが正念場だ。
「今からクジ引きをしてもらう。同じ番号の者とペアを組んで整列しろ。以上!」
多少は困惑の空気が流れたものの、それらはすぐに霧散した。
無駄に腕立て伏せはしたくないだろうしな。
数分後、番号順に2列で整列するブートキャンプ参加者たち。
「もう分かっていると思うが、今日は組んだペアでゼブラッドと戦ってもらう」
一瞬で空気がピリついた。
最小規模のチームであるだけでなく即席ペアだからね。
しかも相手は幻覚攻撃をしてくる上に接近すれば風刃を使ってくるゼブラッド。
緊張しない訳がない。
「ここでもタイムを計る! 最下位のペアは腕立て10セットだから覚悟して挑め!」
「「「「「サー!! イエッサー!!」」」」」
さすがに腕立て伏せ千回はシャレにならないようで全員の目の色が一気に変わった。
レベルアップしているから今の彼らならできない訳じゃないんだけどね。
できないことをさせたりはしないよ。
ただ、当人たちはそのことに気付いていないようではある。
必死になっているところに水を差すのは野暮ってものだ。
このまま何も言わずに戦ってもらうとしよう。
面白そうだし。
トップバッターは堂島氏と大沢少尉のチームの兵士だった。
始める前になにやら内緒話をしている。
話しかけたのは堂島氏の方だけど兵士の方も自分の意見を言っていた。
作戦会議が終わったところで準備オーケーの合図があったので、さっそくタイムアタック開始だ。
堂島氏を前にした格好で兵士が後ろに隠れている。
これで幻覚攻撃の対象はゼブラッドに向けて駆け出した堂島氏のみに絞られた。
「そう何度も同じ手に引っ掛かるかいな!」
どうやらレジストしたようだ。
「これでも食らえや」
お返しとばかりに堂島氏が結構な大きさの石弾を放った。
いや、違う。石弾ではない。
石弾であれば形を変えて広がったりはしないからね。
どうやら泥のようだ。
石弾ならぬ泥弾を使う理由はただひとつ。
目眩ましである。
果たして堂島氏が命中させた泥弾はゼブラッドの顔面に命中し視界を奪った。
視界を奪うと同時に堂島氏は横っ飛びする。
後ろでそれを待っていた兵士が本命の魔法攻撃を行う。
飛んでいったのは風刃だ。
それで仕留めることはできなかったが致命傷は与えた。
確実にトドメを刺すため堂島氏がゼブラッドの側面に回り込んで刃を突き立てゼブラッドはドロップアイテムと化した。
この結果は速攻を選択しただけでは得られなかっただろう。
事前に相手の反撃を封じる手を考え作戦として実行し結果に結びつけた堂島氏のペアの勝利と言える。
ただ、手の内がさらされているため後からタイムアタックに挑む方が有利である。
次のペアが同じ作戦を実行した。
自分たちの方が素早くゼブラッドを仕留められると考えてのことだろう。
運良く同じチームのメンバーとペアが組めたことで、よりスムーズに連携できると踏んだのだろう。
残念ながらタイムは及ばず暫定の最下位となったのだけど。
作戦をアレンジしていれば結果は変わったかもしれないというのにね。
泥弾より光球の方が目眩ましとしては速いのだから。
堂島氏がそうしなかったのは単に眩しいだけではゼブラッドが復帰してくるのも早いと考えたからだろう。
泥が目に入れば簡単には見えるようにならないはずだからと確実性を優先させた訳だ。
2番目のペアもアレンジは考慮したようだが堂島氏と同じようにゼブラッドから反撃されることを懸念していた。
そのことに気を取られ実力差を考慮しなかったのは大きなミスだ。
そして、3番目は遠藤大尉と氷室准尉の魔法が使えないコンビである。
「腐れ縁ってやつかねえ」
「どうなんでしょうね。何にせよ俺たちは同じ手は使えませんぜ。どうするんです?」
「速攻あるのみっ」
「力業ですかい。もうちょっと考えた方がいいと思うんですがねえ」
鼻息荒めで宣言する遠藤大尉に苦笑で返す氷室准尉だったが。
ゼブラッドの風刃をかわすのに手間取ってぶっちぎりの最下位となった。
「トホホ、これは腕立て伏せ10セット確実だぁ」
「言わんこっちゃないですな。自分も代案を考えなかったので同罪ですが」
ガックリ肩を落とす遠藤大尉とサバサバした感じで肩をすくめている氷室准尉である。
下手な芝居だ。
意図的な最下位狙いで罰ゲームを引き受けるつもりなのは明らかだ。
まあ、ブートキャンプ参加者で気付いているのは大川曹長と堂島氏くらいのものだけど。
後は大沢少尉もかな。
その後、大沢少尉と大川曹長のペアが光球を使った目眩ましの作戦で最速タイムを叩き出した。
最後のペアは安全策を取り3位ということでタイムアタックも結果が確定。
そんな訳で遠藤大尉と氷室准尉がひいこら言いながら腕立て伏せ千回をした。
レベルのおかげで言うほど疲れてはいなかったけどね。
低品質の疲労回復ポーションですぐに回復していたくらいだ。
その後もペアを組み替えてタイムアタックを続行する。
ただし、ペナルティーは設定した目標タイムをオーバーした場合に腕立て伏せ1セットとした。
これなら遠藤大尉もわざと最下位を狙ったりはしないだろうからね。
ちなみに目標タイムはタイムアタックが終わるごとに10秒ずつ縮めていった。
こうすることで緊張感を維持できるから経験値も得やすくなってレベルアップさせやすいのだ。
そして、翌日。
ブートキャンプ6日目は4層でダークバクを相手にレベリングだ。
ただし、最初はチームで戦って感触をつかませるところから始めた。
慣れてきたところで5日目と同じようにペアでのタイムアタックに切り替える。
ダークバクはより強い魔物ではあるけどゼブラッドとタイプが似ていることで順応も早かったと思う。
故に特筆するようなことは何もなかった。
ペナルティーの腕立て伏せが何回か見られたくらいだ。
7日目もまずは同じことの繰り返し。
最終的に全ペアがペナルティーを実行することになったところでダークバクとのタイムアタックバトルは終了。
疲労回復ポーションで回復してから5層へと向かいナイトメアとチームで戦わせる。
初日では時期尚早だと判断していたブートキャンプ参加者たちも戦って勝つことはできるようだ。
多少の怪我をしながらではあるけれど。
怪我についてはポーションで治しておいた。
8日目も7日目と同じパターンでのレベリングだ。
ダークバクとの戦闘では前日よりもタイムを縮めていたので早い段階でナイトメアと戦わせる。
時間はかかるものの、どうにか怪我をせずに戦えるようになっていた。
9日目は最初からナイトメアと戦わせてみたが戦闘時間の短縮は簡単にできるものではない。
でも、ダンジョンブートキャンプは明日で終わりだ。
成果も充分出ているし、これ以上は蓄積した疲労が出てくるはずだからね。
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